◆第107回全国高校野球選手権大会第5日 ▽1回戦 聖隷クリストファー5―1明秀学園日立(9日・甲子園)

 春夏通じて甲子園初出場の聖隷クリストファー(静岡)は明秀学園日立(茨城)に勝利し、聖地1勝をマークした。最速147キロを誇る2年生エース左腕・高部陸が1失点完投。

上村敏正監督(68)に3元号勝利と、浜松商監督時代の93年春以来、最長ブランクとなる32年ぶりの甲子園白星を贈った。

 自慢の左腕を抱え込むように、強く握りしめた。聖隷クリストファー・高部が明秀学園日立打線をなで斬った。4点リードの9回2死一、三塁。最後は代打・浅井斗稀を中飛に打ち取った。9回を107球で投げ切り、4安打4奪三振1失点。「上村先生に1勝をプレゼントしたかった。観客席も広くて、本当に楽しい試合でした。周りをよく見て、この景色を覚えていこうと思っていました」。創部41年目での初出場初勝利。「かみのひかりは 世のこみちの―」。校歌代わりに歌う賛美歌「393番」が聖地に響いた。

 2年生ながら最速147キロを誇り、来秋ドラフト上位候補にも挙がる左腕。初の大舞台で緊張もある中、1―0の3回2死三塁で有住陽斗に同点適時打を許した。試合前には「直球での真っ向勝負」を掲げ、この日は最速145キロをマークするなど球も走っていたが、そこから変化球を増やして打たせて取った。柔軟な投球で落ち着きを取り戻した。

 武器の直球の回転数はこの春、約2500(1分間ベース)を計測。2200~2300回転がプロの平均とされ、浮き上がるような直球でMLBを席巻するカブス・今永級の数値だ。自身も高校球児で140キロ右腕だった父・佳さん(49)と野球を始めた小学1年生から磨き上げ、リリース時に「しっぺ」のような感覚で球を押し出す「しっぺ投法」がメジャー級の直球を生み出す。

 聖隷クリストファーは、21年に秋季東海大会で準優勝をしたが、出場が確実視された翌22年センバツに選考漏れ。当時、波紋を呼んだが、その年の春に中学2年になった高部は「初がかかる学校に行きたい」と埼玉から進学を決意。言葉通り、同校の歴史を切り開いた。

 天国にささげる1勝にもなった。中学時代に所属した武蔵嵐山ボーイズの監督・飯野靖典さんが、静岡大会決勝の4日後(1日)に57歳の若さで逝去。

恩師から「『甲子園を楽しんでこい』と言葉をかけてもらった」。恩返しの白星を手向けた。

 2年生投手の活躍が目立つ今大会。高部も6日に金足農を14K完封した沖縄尚学・末吉良丞に刺激を受けていた。「自分も打者を圧倒できれば」。負けじと主役候補に名乗りを上げた。(伊藤 明日香)

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