◆第107回全国高校野球選手権大会第8日 ▽2回戦 京都国際6―3健大高崎(13日・甲子園)

 昨夏の甲子園V校・京都国際と昨春のセンバツV校・健大高崎(群馬)による注目の一戦は、京都国際に軍配が上がった。昨夏の“胴上げ投手”でエース左腕の西村一毅(3年)が160球の熱投で3失点完投。

健大高崎(群馬)は最速158キロを誇る今秋ドラフト1位候補の石垣元気(3年)が3点を追う7回から救援。今春センバツで計測した甲子園スピード表示最速タイの155キロをマークして沸かせたが、初戦で散った。

 昨夏の胴上げ投手の意地が勝った。6―3の9回2死一塁、高々と上がった打球が左翼・山口桜太のグラブに収まり、京都国際の西村は左拳を握った。「格上の相手と分かっていた。ひるんだら負け」。いきなり立ちふさがった強敵を、こん身の160球で退けた。

 「いつになく緊張してたというか、ああいう姿を見たのは初めて」と小牧憲継監督(42)。初回から2四球と制球が定まらず、女房役の猪股琉冴が駆け寄った時には「ストライクが入らない」とこぼした。2―0の3回、内野安打と2者連続死球で2死満塁のピンチを招くと、暴投で聖地初の自責点。さらに、小堀弘晴に左翼線への2点二塁打を浴び、逆転を許した。

 3回を終えて73球―。

窮地に立たされ左腕はあえてギアを落とした。「ピンポイントではなく、7割くらいのぼやけたポイントに投げようと」。制球が徐々に安定し、不調だった“宝刀”のチェンジアップはカウント球に使用。4、6回以外は走者を背負ったものの、最後までゼロを並べた。

 昨夏は同校初の全国制覇を達成したが、秋春は結果を残せず。それでも、エースとして過ごす日々で成長していった。「昨年は中崎(琉生、国学院大)に尻拭いしてもらっていたけど、今年は自分がやるという強い信念が彼を突き動かしてくれた」と指揮官。母・則子さん(51)には6月、寮生活の息子から初めて誕生日メッセージが届いた。帰省時にはプレゼントも。「ビアカップです。父の日コーナーにあったんだと思います」と笑ったが、「これまではなかったので、周りを見て気がつくようになったというか。練習試合でも声が出ていて、そんなタイプではなかったので成長したなと」。

自ら率先して動く姿に、エースナンバーも馴染んできた。

 目指すは、04、05年の駒大苫小牧(南北海道)以来となる、史上7校目の連覇だ。「重圧は感じるけど、それをはねのけてやってきた。そこまで重くはない」。1年前、歓喜の輪の中心で笑った左腕が、快挙へ大きな一歩を踏み出した。(瀬川 楓花)

◇西村 一毅(にしむら・いっき)

▼生まれとサイズ 2007年7月7日、滋賀・甲賀市生まれ。18歳。177センチ、70キロ。左投左打。50メートル走6秒5。遠投100メートル。

▼球歴 綾野小2年から水口少年野球団で野球を始め、水口中では近江ボーイズに所属し、外野手と投手。

現DeNA・森下瑠大に憧れて京都国際に進学。投手に専念し、1年秋に背番号11で初めてベンチ入り。昨年のセンバツはベンチ外だったが、同夏の甲子園では4試合、24イニングを投げて防御率0・00をマーク。U―18日本代表候補

▼球種と球速 最速は146キロ。球種はスライダー、カーブ、チェンジアップ

▼話術向上中 昨年はインタビュー中に言葉に詰まることがあり、動画を参考に練習。「言葉がスムーズに出るようになった」と早くも効果を実感

▼好きな言葉 「何とかなる」。どんな物事も前向きに

▼将来の夢 プロ野球選手。以前は公務員志望だったが、「お世話になった人に恩返しがしたい」と、大学を経て4年後のドラフト1位を宣言

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