◆JERA セ・リーグ 巨人0―3阪神(16日・東京ドーム)

 巨人が「長嶋茂雄終身名誉監督追悼試合」として行われた阪神戦(東京D)で完封負けを喫した。6月3日に89歳で永眠した長嶋さんの代名詞で永久欠番となっている背番号「3」のユニホームをチーム全体で着用して臨んだが、阪神・村上にわずか2安打と封じられた。

それでも「残念だけど、素晴らしい一日」と偉大な恩師をしのんだ阿部慎之助監督(46)。ミスターが巨人、球界に残したものとは―。巨人担当・片岡優帆キャップがその足跡を特別コラムで振り返る。

 東京ドームのベンチ裏、選手が普段通る通路の壁には現役時代の長嶋さんの躍動感あふれる写真がデザインされている。迫力満点の姿から、どれほど全力でプレーしていたかが伝わってくる。長嶋さんが巨人に残したものは何だろう。巨人のみならず、今プロの世界で生きる選手たちに一番伝えたいことは何だろうと考えた時に、ここにヒントが隠されている気がした。

 一塁ベンチ裏のスイングルームの壁には「勝つ!勝つ!勝つ! 長嶋茂雄」と記されている。巨人ナインは伝説の名言を毎試合、目にして心を奮い立たせている。車いすで東京Dを訪れ、熱心に打撃の助言を送ったこともあった。野球に対する情熱、勝利への執着心、一球一打にこめるすさまじい執念。これらは財産として継承すべきものだろう。

 プロ1年目に長嶋監督の教えを受けた阿部監督は、若い選手に助言する時に「何が何でも打ってやるとか、何が何でも抑えてやるみたいな強い気持ちを持ってほしい」と伝えている。根底には長嶋さんの教えが脈々と生きている。

 絶対打つ。絶対勝つ。言葉で言うのは簡単だが、厳しいプロの世界で体現するのは簡単ではない。長嶋さんは現役時代、ここぞという場面で必ずと言っていいほど打った。その下地は想像を絶する猛練習で作られたと言い伝えられている。

 こんな名言がある。「自分より練習した人はいない。そう考えると怖くなくなる。すると楽しくなる」。鍛錬に全力で打ち込み、驚異的な勝負強さは磨かれた。

監督としても松井さんとの素振りの日々や「地獄の伊東キャンプ」は有名な話。その教えを受けたからこそ、阿部監督は結果だけでなくプロセスや取り組みを重視している。

 テクノロジーが進化した現代はメリットの反面、楽しようと思えば楽できる。手段を間違えれば、練習をやった気になったり、うまくなったと勘違いに陥る危険もある。長嶋さんの過去の映像を見たり、評伝に触れるたびに、地道な反復練習の大切さという、いつの時代も変わらないであろう原点を考えさせられる。

 3か月ぶりに1軍復帰した岡本の名前がコールされた時、場内は異様な盛り上がりを見せた。毎試合、数万人の観客が熱狂するプロ野球。その礎は昭和の大スターである長嶋さんが築いた。その熱い思いを次世代につなぎ、野球の魅力をさらに高めるのは「3」の重さを知った巨人ナイン。全員がミスターの偉大さを胸に刻んだという意味でも貴重な一日だった。(巨人担当キャップ・片岡 優帆)

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