◆JERA セ・リーグ 巨人0―3阪神(16日・東京ドーム)

 巨人、ヤンキースなどで活躍した松井秀喜氏(51)=ヤンキースGM付特別アドバイザー=が16日、長嶋茂雄さんの追悼試合で始球式を務め、感謝の思いを込めたノーバウンド投球を天国の恩師にささげた。背番3のユニホームで戦った後輩たちは敗れ、首位・阪神とは12ゲーム差の2位という厳しい状況だが、ミスター直伝の不屈の巨人魂を宿すレジェンドは、逆転日本一 を期待した。

 数々の大舞台を経験してきた松井氏も驚くほど、眼前には異次元の世界が広がっていた。「王さん、原さん、堀内さん、由伸、慎之助と、みんなの『3』を見ると、なかなか壮観ですね」。自身も背番3のユニホームを着て、東京Dのマウンドに上がった。

 堀内恒夫氏がプレート上に置いた球を手に取り、本塁方向を見ると左打席に王貞治氏、右打席に原辰徳氏、捕手は阿部監督で、球審役は高橋由伸氏。投球前に天井を見上げて「監督、投げますね」と心の中でつぶやいた。球を頭上に掲げてから投げた球はノーバウンドで阿部監督のミットに収まった。投球後は天に向かい手を振ってから降板し「ホッとした感じです。両打席に大レジェンドがおられましたので久しぶりにビビりましたけど、良かった。監督が見守ってくれたのではないですか」と一息ついた。

 勝負服には6月4日の弔問時と同様に、思い出の一着を選んだ。13年にそろって国民栄誉賞を授与された際、長嶋さんに提案して都内のテーラーで仕立ててもらった紺色のスーツ姿で来場。一塁ベンチ裏での鬼気迫る素振り特訓や、長嶋監督の下で数々の名勝負を繰り広げた東京Dで、この日は恩師の無形の力も借りて、大役を果たした。

 観客も一体となり天国の長嶋さんに届けた試合は、まな弟子にとっても特別だった。「常にファンの皆さまに気持ちが向いている方だった。ファンの方がこういう形で喜んでくださるのは一番、監督自身が喜んでいると思います」と思いを代弁。「いろいろな話を聞くと、野球の枠を超えた大きな存在だったのでは」と誇らしげにミスターを語ったが、師弟も生きた勝負の世界は無情だった。日本テレビ系の中継にゲスト出演し、放送ブースから見守った試合で首位の阪神に零敗。ゲーム差は12に広がった。

 監督時代や脳梗塞(こうそく)後の壮絶なリハビリでも弱音を吐かず、諦めない恩師の姿を見てきた。「この機会でより一層、(長嶋さんが)どれだけ大きな存在だったかを選手自身が感じてプレーしてほしい」と後輩たちが不屈の巨人魂を発揮することを期待。「数字的にはかなり厳しい状況であることは間違いないが、優勝、ペナントを取れなくても、去年の逆バージョンをやっていただければいいのでは。それを期待しています」。もしV逸しても、昨年のDeNAのようにCS突破からの日本一奪還を願った。(阿見 俊輔)

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