◆第107回全国高校野球選手権大会第11日 ▽3回戦 日大三9―4高川学園(16日・甲子園)

 高川学園(山口)が日大三(西東京)に破れ、春夏通じて初の8強入りを逃した。初回に先制するも、直後に5点を献上し追いつくことができなかった。

 一塁側アルプスに、ひときわ大きな声でエールを送る2人の男性がいた。高川学園で1番打者を担う若藤芽空遊撃手(ひそか・2年)の兄で長男の嶺音(はいね)さん(26)と、次男の來歩(ふゆう)さん(23)だ。弟の雄姿を見届けるべく、故郷・広島から駆けつけた。

 若藤は5人兄弟の末っ子。嶺音さん、來歩さんと、この日来られなかった3男・季柊(かしゅう)さん(21)、4男・遊弥(くぐみ)さん(19)の4人の兄をもつ。4人全員、かつては甲子園を目指す高校球児だった。嶺音さんは岡山理大付に進学したが、1年時に腰をけが。引退まで治療が続き、思うようなプレーができなかった。來歩さんも岡山理大付に進んだが、新型コロナの猛威により3年時の夏の大会が中止に。悔しさをどこにもぶつけられないまま、甲子園への夢を諦めた。そんな兄たちにとって、弟・芽空は希望の光だ。2年生ながら1番打者として山口大会で結果を残し、念願だった甲子園出場を決めた。

この日も2安打と活躍し、初回には先制のホームを踏んだ。「あいつが夢を受け継いでくれた」と嶺音さん。來歩さんも「自分の年は甲子園すらなかった。だからこそ、余計にうれしいです」と目を輝かせた。

 「芽空」という名前は「植物はひっそりと芽を出し、空に向かって伸びていく。誰にも見られない場所でも、努力できるような子に育ってほしい」と父・大祐さんが願いを込め、つけた名前だ。歴史好きだったこともあり、前島密の名前からインスピレーションを受けたという。兄4人の名前にも同様、「漢字の組み合わせで、一人ひとりの名前に意味づけをしたい」という大祐さんの願いがこもっている。

 戦いには敗れたが、芽空の物語はまだ終わらない。家族の夢を乗せ、空に向かってこれからもその芽を大きく伸ばしていく。(北村 優衣)

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