◆第107回全国高校野球選手権大会第13日 ▽準々決勝 県岐阜商8×―7横浜=延長11回タイブレーク=(19日・甲子園)

 涙が止めどなくあふれた。夏の終わりを告げるサイレンが、聖地に鳴り響いた。

横浜ナインは春夏連覇の夢破れ、泣いた。村田浩明監督(39)は敗戦の責任を全て背負い、奮闘をたたえた。

 「1年間楽しかった。幸せな時間を過ごせたなって。選手たちに連れてきてもらった甲子園。本当に楽しめた。でも悔しいですね…」。そう語る指揮官の瞳も潤んでいた。命がけで魂を燃やした証拠だった。

 序盤から空気が違った。「甲子園中が3対7ぐらいの感じを受けまして…」。センバツ王者に唯一の公立校が挑む構図。

県岐阜商アルプスは異様な熱気に包まれ、判官びいきの観衆はそれを後押しした。指揮官は訴えた。「気力だぞ!」。強い心で立ち向かったが、見えない敵とも闘っていた。5回途中から3番手救援したエース左腕・奥村頼人は「アウェーのような感じだった」と語り、村田監督は「追われる立場がこんなに大変だとは」と唇をかんだ。

 執念だった。9回1死二、三塁と10回1死一、三塁のピンチで内野5人シフトを敷いた。昨秋の明治神宮大会以来の秘策。左翼手の阿部駿大を一、二塁間に守らせた。9回は前進守備の一塁手の小野舜友がスリーバントスクイズをグラブトスで阻みシフトがはまった。村田監督は「絶体絶命で使うために練習してきた。甲子園の舞台で普通にできたのは、練習の賜物(たまもの)。

相手の(右)打者が引っ張れないと予想したので、右側に置いた」と説明。奥村頼も「これだけ内野が前に出てきている。変化球だと外野に飛ばされる。全球直球で押しました」と気迫でゼロに封じた。バックは再三の好守でもり立てたが、最後に力尽きた。それでも県岐阜商・藤井潤作監督は「攻撃しているのに、攻められているような思い」と敬意を表した。

 奥村頼は進路に「プロ一本」を表明。「さらなるレベルアップを求めてやってきたい」と涙をふいた。追われる重圧と闘った夏。3年生の悔しさは次世代に継承され、名門に新たなドラマが始まる。(加藤 弘士)

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