人間国宝の歌舞伎俳優・坂東玉三郎(75)がスポーツ報知の単独インタビューに応じ、26日公開のシネマ歌舞伎「源氏物語 六条御息所(ろくじょうのみやすどころ)の巻」の撮影秘話を明かした。玉三郎が六条御息所役、市川染五郎(20)が光源氏役で、昨年10月に東京・歌舞伎座で上演された恋物語を、新たな撮影分を加えて映像化。
当代一の女形と高麗屋のプリンスによる“究極の美の競演”が、映画館のスクリーンでよみがえる。シネマ歌舞伎での全国公開が決まり、玉三郎は「多くの皆様に見ていただけること、うれしく思います」と喜んだ。
「源氏物語」の中から、高貴な身分ゆえに恋に悩む六条と、美しい貴公子・光源氏による恋模様にスポットを当てた物語。玉三郎は「抑えきれない嫉妬心は誰しも根源的にあるもの。だから、どこか人間の琴線に触れて、お客様の心が浄化されるのだと思います」と解説。自ら映像制作にも携わり、臨場感が伝わるように努めた。嫉妬を抱えた六条が生霊となる場面や光源氏の登場シーンは、無観客で再撮影。「染五郎くんはお芝居がすごく柔軟。いい表情をしていることに気付いて、僕の肩越しから彼の表情が映るように編集した場面もあります」と話した。
上演当時、染五郎は19歳だった。孫ほどの年齢差だが「幕が開いたら年齢は考えないでねと伝えました」。
片岡仁左衛門(81)と並ぶ歌舞伎界トップの集客力を持つ。責任感も人一倍だが、8月11日に、くるぶしの痛みのため、歌舞伎座「八月納涼歌舞伎」第2部「火の鳥」の出演を断念し、公演は中止された。
「チケット代を払い戻せばいい、というものじゃない。交通費、宿泊費をかけて地方から来てくださる方もいる。お客様を大事に考えてきたので、苦しくて耐えられなかった。でも、みっともない姿で舞台に出る方がもっと耐えられなかった」。その世界の頂点にいる人間にしか分からない重圧。口ぶりからは苦渋の決断だったこと、そこに至るまでの葛藤が感じられた。
シネマ歌舞伎は音響がクリアで、多彩なカメラアングルが魅力。「美」を追求する玉三郎は「見る視点が定まることで、物語がよく伝わる」と太鼓判を押した。
伝統文化と最新技術の融合。歌舞伎の魅力を最大限に届けるつもりだ。
◆シネマ歌舞伎 歌舞伎の舞台公演を高性能カメラで撮影し、スクリーンで上映する映像作品。第1作目は2005年の「野田版 鼠小僧」。古典の名作から話題の新作まで幅広く公開。俳優の息づかいや表情、衣装の細やかな模様まで見ることができる映像美、深い没入感を味わえるこだわりの音響がウリだ。
◆坂東 玉三郎(ばんどう・たまさぶろう)1950年4月25日、東京都生まれ。75歳。57年に初舞台。64年に14代目守田勘弥の養子となり、歌舞伎座「心中刃は氷の朔日」で5代目坂東玉三郎を襲名。