今年でデビュー45周年を迎えた女優の宮崎美子(66)が、ますます意気盛んだ。アニメ映画「ホウセンカ」(木下麦監督、10月10日公開)では、無期懲役囚の男と心を通わせる難役を好演し、10月11日スタートのフジテレビ系「介護スナック ベルサイユ」では24年ぶりの連続ドラマ主演。
宮崎の人生哲学には、常に「楽しむ」ことが前提にある。会話がどんな方向に膨らんでも、発する言葉にはポジティブな感情が乗っている。演技だけでなく、クイズ番組などで幅広く活躍する理由がそこにある。
映画「ホウセンカ」は、ヤクザの主人公・阿久津実(小林薫/戸塚純貴)と、人の言葉を操るホウセンカ(ピエール瀧)を巡る物語。宮崎は阿久津のパートナー・永田那奈の声を、満島ひかり(39)と演じ分けた。
慣れない声優業での難役。「一口で説明できるストーリーではないんですよね。那奈の若い時を満島さんが演じた後、私はしばらく登場しない。この人はどうやって生きていたんだろうな、という期間を想像して埋めなくちゃいけなかったので難しくもあり、やりがいがあって面白かった」と振り返った。
10年公開の映画「悪人」では親子役を演じた満島と、今回の収録当日に打ち合わせをした。高齢の那奈を演じる宮崎が先に収録し、役のイメージを方向づけることに「すごく責任を感じた」という。
22年にテレビアニメ「デリシャスパーティ[ハート]プリキュア」でナレーションを務めた際、「プロの声優さんは声の圧力が一定で、込められる情報量が多い」と学びを得た。再び巡ってきた声の仕事に「わざとらしくなく、必要なところを伝える。ナレーションも同じだけど、主役は(アニメの)絵なので。声を過不足なく乗せる具合が、いまだに難しい」と向上心をくすぐられた。
ホウセンカの「心を開く」という花言葉に共感する。「那奈も他の登場人物も不器用ながら一生懸命な人たちで、自分が大事なものを守ろうとしているのが美しい。誰かを何十年も同じ気持ちで信じ続ける生き方が、どう受け取られるのか。映像もすごくきれいですし、特に若い世代にはどんなふうに映るんだろうなと楽しみです」
宮崎にとってデビュー45周年となる今年は、女優人生の転機になるかもしれない。「介護スナック ベルサイユ」は、01年のABCテレビ「部長刑事シリーズ・警部補マリコ」(関西ローカル)以来となる連続ドラマ主演作。初めてとなるスナックのママ役として、店を訪れる高齢者の“道先案内人”となる。
「ワインを飲んだお客さんの人生を追体験して『あなたは最後に何を残したいんですか』ということを受け止めるんです。どんな人にも、その人だけの歴史や大事にしているものがあって、それをすくい上げるドラマだと思っています」
今春放送された単発版で主演を務め「また続きをやりたいですよね、という形で終わっていて。その後の反応も良かった」。宮崎の実感通り、好評を呼んで連続ドラマ化された。「お店に来る人たちは、自分の意思で人生最後のワインを飲むという決定ができる。すごくうらやましい。年を取ると、いつまで自分自身を保っていられるかは大きな問題。他に何もいらないから最後まで(本来の)自分でいたい、というのは『ホウセンカ』とも同じですね」
そう語る宮崎は、以前にも増して若々しい。コロナ禍の前は週2回ジムに通い、現在はラジオ体操やピラティスを取り入れている。一番の“健康法”は「仕事現場に行くこと」だという。「介護スナック―」でも、会いたかった俳優が何人もゲスト出演する。「どうぞお楽しみに、と言いたい。
1980年、写真家の篠山紀信氏(24年死去)による「週刊朝日」の表紙で鮮烈にデビュー。40周年イヤーの20年には、同氏が再び撮影したビキニ姿のカレンダーが大反響を呼んだ。50周年のグラビア撮影にも期待がかかるが「私、いくつだよ? 篠山さんもいらっしゃらないし…」と照れ顔。その上で「やるかやらないかは置いといて、何でもできちゃいそうに思ってるのは楽しいよね。『もしかしたらあの人、いい年してまた撮るんじゃない?』って。その時にやりたいことをやった方がいいと思う」と、“70代水着”の可能性に含みを持たせた。
「ひと月に10冊以上は読んでいる」という読書の趣味も生かしている。20年に始めたYouTubeでは、週1回ペースでの投稿を継続。「老後の趣味」と謙遜するが、自身が読んだ本を紹介するコーナーなどが人気を博している。
多くの小説が映像化されるなか、読書しながら演じられる役がないかを探すことも。作家・瀬尾まいこ氏の小説「ありか」では、主人公が勤める工場勤務の同僚が目に留まり「60代の九州出身、世話焼きのおばちゃんで名前が宮崎さん。
近年は、ファンを公言するBABYMETALにも力をもらっている。ロックバンド「聖飢魔2」と共演した8月末の横浜公演にプライベートで足を運び、「最初から立ちっぱなし」で夢中になったという。
ずっとオファーが途切れない芸能生活。「この仕事はいろんな人と出会えて、いろんな人生を自分のものとして味わえる。ぜいたくな仕事だと思う」と大きくうなずいた。
40分弱のインタビューで「楽しい」という言葉を発すること、実に12回。「ホウセンカ」の物語が始まる87年に、宮崎がみりんのCMでラップ曲を歌っていたことに話題が及ぶと「そっかー! 懐かしいね~」と、即座にラッパーのポーズをして和ませた。誰よりもご機嫌な女優人生、ずっと花を咲かせ続ける。
◆宮崎 美子(みやざき・よしこ)1958年12月11日、熊本市生まれ。66歳。