歌舞伎俳優の中村鶴松が19日、東京・浅草公会堂で2022年以来、3年ぶり2度目の自主公演「鶴明会」(18日から全3公演)を開催し、「仮名手本忠臣蔵」五段目、六段目と「雨乞狐」を上演した。

 「仮名手本忠臣蔵」の勘平は3月の歌舞伎座で兄と慕う中村勘九郎が演じているのを見て背中を押され、「よし、やってやる。

若さゆえの熱さ、パワーを見せられたら」と決意した。五段目の幕が開き、猟師の扮装をした勘平役の鶴松が登場すると「中村屋!」の大向こうが響き、拍手に包まれた。斧定九郎役の勘九郎も色気を感じさせる表情で観客の視線を集めた。

 六段目は女房おかる(中村莟玉)の身売りを巡り、物語が展開。鶴松演じる勘平が舅(しゅうと)殺しを疑われ、仇討ちに参加できずに絶望して切腹する場面では「色にふけったばっかりに…」の名ゼリフを披露した。大粒の汗を流し、情感たっぷりの演技を見せながらも、セリフ回しが明瞭で口跡の良さを印象づけた。ベテランの中村歌女之丞、中村梅花が安定した演技を見せ、若手の中村福之助、中村歌之助も鶴松を支えた。中村屋に伝わる舞踊「雨乞狐」では、鶴松が6役を早替わりで演じて喝采を浴びた。

 一般家庭から部屋子として歌舞伎界に入った中村屋のホープ。血筋が優先される世界で、20代前半の頃は壁にぶち当たり、「自分は歌舞伎役者として必要な要素を何も持っていない」と悩んだことも。葛藤を抱えながら地道に努力を続け、昨年2月の歌舞伎座で「新版歌祭文 野崎村」のお光を好演。部屋子としては異例の主役を演じて「殻が割れて、むけてきた実感があります」と手応えを語る。

 「自分の会で認めてもらい、その演目を歌舞伎座でやるのが理想的な形」。自主公演がゴールではなく、さらなる未来を見据えている。

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