◆第59回スプリンターズS・G1(9月28日、中山競馬場・芝1200メートル、良)

 秋G1は波乱の幕開け―。第59回スプリンターズSは28日、中山競馬場で行われ、11番人気のウインカーネリアンが2番手から逃げ馬をかわし、史上2頭目の8歳で秋の短距離王の座に就いた。

手綱を執った三浦皇成騎手(35)=美浦・鹿戸厩舎=は史上最多となるJRA・G1・127戦目で悲願の初制覇。2着に7番人気のジューンブレア(武豊)が残り、3連単は130万円超の高配当だった。

 ついに、ついにその瞬間は訪れた。ウインカーネリアンとともにG1のゴール板を先頭で通過した三浦は、抑えきれないように大きく左手でガッツポーズ。検量室前に引き揚げてくると「先生(鹿戸調教師)やったよー!」と叫び、「任せてくれてありがとうございます!」と馬主の岡田義広代表取締役(45)と抱擁。スタンドからは万雷の“皇成コール”が響き、ジョッキーたちも口々に祝福を伝えた。

 悲願という言葉では片付けられない。08年3月にデビューした三浦は同年、武豊が持つ新人の最多勝記録を塗り替える91勝をマーク。今年5月17日にJRA通算1100勝を達成するなどキャリアを積み重ねたが、G1タイトルにだけは手が届いていなかった。127回目の挑戦でつかんだ勲章に「長かったなと。本当に長かったですね」と率直な気持ちを吐露。16年には落馬で骨盤骨折など重傷を負い、約1年の戦線離脱も経験。

「勝てないんじゃないかと思った時期もあったんですけど、諦めずにやってきて良かったです」と言葉に詰まりながら喜びをかみ締めた。

 なにより所属する鹿戸厩舎の管理馬で24戦コンビを組み、蹄葉炎による1年の休養も乗り越えた8歳馬との勝利に、感動もひとしおだ。「G1馬にできたのが一番のうれしさです。苦楽をともにした相棒だと思っていますから」と、破顔一笑。「どれだけ脚を使えるかは分かっていますし、これならしのげると思っていました」といつもどおりの先行策からロングスパート。JRA・G1・84勝を誇る武豊が逃げ込みを図ったジューンブレアを頭差で競り落とした。鹿戸厩舎に初のタイトルをもたらしたスクリーンヒーローの産駒というのも運命的だ。鹿戸調教師は「調教師冥利(みょうり)につきますね」と万感の思いに浸った。

 名実ともにトップジョッキーの一人となり、さらなる活躍が期待される。「ファンや関係者の方はもちろんですし、家族に一番支えてもらっています。言葉では言い表せない大事な存在なので、いい背中を見せていけたら」と静かに力を込めた。デビュー時に「天才」と呼ばれた35歳の物語の新章が始まった。

(角田 晨)

 ◆三浦 皇成(みうら・こうせい)1989年12月19日、東京都出身。35歳。08年3月に中山でデビュー。同年8月の函館2歳S(フィフスペトル)でJRA重賞初勝利。12年3月から美浦・鹿戸厩舎所属。14年の全日本2歳優駿(ディアドムス)などJpn1で3勝。JRA通算1万2514戦1121勝。家族はタレントの妻・ほしのあきと1女。

 ◆ウインカーネリアン 父スクリーンヒーロー、母コスモクリスタル(父マイネルラヴ)。美浦・鹿戸雄一厩舎所属の牡8歳。北海道新冠町・コスモヴューファームの生産。通算成績は33戦9勝(うち海外3戦0勝)。

総獲得賞金は5億1973万6500円(うち海外4974万4500円)。主な勝ち鞍は関屋記念・G3(22年)、東京新聞杯・G3(23年)。馬主は(株)ウイン。

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