◆歌舞伎座「秀山祭九月大歌舞伎」(26日千秋楽)

 中村雀右衛門には驚いた、というか感心した。その訳は後に書くが、今月は秀山祭。

雀右衛門は昼「ひらかな盛衰記」で船頭松右衛門実は樋口次郎兼光(松本幸四郎)の女房およし、夜は「雛鶴三番叟」で千歳と「一條大蔵譚」の常盤御前。3役を勤めている。

 秀山祭は初代中村吉右衛門の功績を顕彰するため2代目中村吉右衛門が創設し、今年で20年。2代目の相手を長く勤めた雀右衛門にとって特に大切な公演で、それぞれの役に思いの深さが分かる。

 およしは取り違えられた6歳の息子の死を聞かされ、その驚きと悲しみの母性を手拭い一つにも込めた。中村魁春が翁、萬壽が三番叟の「雛鶴三番叟」で千歳。この役は若太夫が演じるもので若々しく初々しい踊り。品が良いレジェンド3人の古風さに引き込まれた。

 常盤御前。これが一級品だった。役の腹の底にある性根の肚(はら)がドンと据わり、品格のある舞台姿が大きい。牛若丸ら3兄弟の母として子を思う気持ちに芯が通っている。

「よがい者めが!」や「あっぱれ忠臣吉岡鬼次郎、でかしゃったのう」が凜(りん)としたセリフ。思わず「京屋!」と掛け声が出かかった。堂々とした立女形(おやま)である。

 80歳でも艶がある舞台だった父4代目は91歳の天寿を全うした。雀右衛門はまだ70歳だ。60代半ば頃、自身は器用ではなく、亀の歩みのようにゆっくり進むと言っていた。しかし、今、着々と立女形として充実期に向かっている、と確信したのである。(演劇ジャーナリスト・大島 幸久)

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