9月13日、日本はバレーボール男子・アジア選手権の決勝戦でイランと相見えることになった。予選ラウンドではオマーン、バーレーン、オーストラリアに3連勝。

準々決勝ではインド、準決勝では韓国をどちらもセットカウント3-0で鎧袖一触(がいしゅういっしょく)した。

「勝てる展開を作って、勝つだけ。それ以外ない」

 中心で戦う西田有志(26歳)は端的にそう言って、オポジットとして豪快なスパイクを決めてきた。相手も対策をしてきたが、それを上回る適応力があった。凡庸な選手と一流選手の差は、ここに表れる。試合は生もので、選手が状況に適応できるかがカギを握る。

「展開は常に変わるものなので、一喜一憂することなく、試合中にクオリティを上げていくのが大事で......」

 西田は確信をこめて言う。その適応力に、彼の一流の匂いが漂う――。

【男子バレー】西田有志、サーブで「人を狙います」 ロス五輪へ...の画像はこちら >>
 韓国戦の西田は、チーム最多のディグ(スパイクレシーブ)成功8本だった。攻撃に特化したポジションでは異彩を放つ数字だろう。しかしブロックディフェンスが基本のチームで、本人は「仕組みのなかでは当然の役割」と弁えている。

「チームは誰かひとりが牽引するのではなく、ひとりひとりの役目は違うと思っているので、ひとつひとつの役目をクリアしていくことでチームは成り立っているはず。

韓国戦は、それがうまくできたと思うし、日々よくなっている感覚はありますね」

 チームとしての動きがはまってきたから選手が躍動し、選手が躍動しているからチームの動きもはまってきた。チームと選手は表裏一体で、西田もその一部だ。

 その韓国戦後、西田は反省も口にしていた。

「3セット目、安易なところに打ってシャットされてしまいました。そこはしっかり修正しないと。深津(英臣)さんのトスは何も言うことはない。自分がしっかりと攻めきれるか」

 西田はこの試合、アタック成功数で11点の石川祐希に次いで、髙橋藍とならんでチーム2番目の10点を記録した。しかし3セット目は0点で終わり、自己批判を欠かさない。そうして重ねた試行錯誤によって、今の境地にたどり着いた"我流の人"だ。

【フェイクセットに瞬間的に反応】

 今年1月に行なったインタビューで高校時代の話をしたとき、西田は漫画のような逸話を明かした。その勝負に対するアプローチは実験的で、ありふれていなかった。高校はあえて県内の一番手ではない高校に進学し、全国大会にはなかなか出場できず、高3で初めてインターハイの舞台に立ったが......。

「初めて全国に出るチームだったから、僕は『相手がどうこうじゃないバレーをしよう、自分たちができることをしよう』って伝えて。持っている力を出すのが一番難しいので、そこで自分が考えたのが......試合前日、夜中2時まで人狼ゲームをしたんですよ(笑)。それで東福岡、清風という強豪に勝った。チームメイトの能力の出し方を考えたとき、みんなが一緒にワイワイするのが好きだったから、人狼ゲームで緊張感がなくなったんですよね。『なんか楽しくね? 勝てんじゃね?』って。『勝ちたい、勝たないと』となるとプレッシャーを感じてしまう。それに気づかず、うまくいきました。次で負けたのも、先のベスト4を見てしまったからで、『どんちゃん騒ぎをしていたらよかったじゃん』って(笑)」

 西田は「せっかくの全国大会だから」という小さな発想にとらわれなかった。仮説を立て、実証する。それが正解かどうかはわからないが、帰納的にたどり着こうとする。そのプレッシャー回避に限界があるのを今は承知しているが、それも検証した結果で、トライ&エラーが彼の適応力を高めてきた。

 韓国戦で彼のバレー人生が滲み出たのが第2セット、22-10のシーンか。

髙橋藍がバックアタックで前へ飛び、打つ直前でフェイクセットに切り替えた。それを受けた西田はややつまり気味ながら、うまくブロックの下に当て、吸い込みに成功した。髙橋が打ちそうに見え、西田自身も意外そうだったが、瞬間的に反応した。

「自分が打つ準備は常にしています。ただ、ボールへのアプローチのところで、いつものようなスペースを作れていなかったので。そこでどうにか空間を作ってスパイクを打てたのがよかったかなと」

 西田はそう明かしていたが、実は一度負けたはずの賭けを逆転させていたのである。

「あえて西田選手に上げました」

 髙橋は、そう言ってタネを明かした。

「西田選手が助走を取れていなかったので、相手選手は『西田選手が打つのは難しいと判断する』と僕は思ったんです。相手は『自分のスパイクが、ツーアタックで飛んでくる』と考えているだろうなと。それが、ブロックが自分に飛んでこなかったのは意外で(苦笑)、予想が外れたというか、賭けに負けたというか。ただ、ポイントにつながればOKなので、西田選手が無理な体勢でも打ってくれたのがよかったです」

 西田は自分のプレーを状況に適応させた。その瞬発力は、彼の野生を感じさせる。

本能ではない。肉食動物が何度も狩りを重ねて編み出した技術のようなものだ。

 その点、西田のサーブも考察の賜物と言える。論理的にアプローチし、経験のなかでアジャストさせ、作り上げてきた。

「自分の場合は、ボールを芯で捉えるようにしています」

 西田はインタビューのなかで、技術構造を説明していた。

「芯を捉えるとボールは回転せず、無回転になって狙ったコースに入ってから一気に変化するんです。(急角度に曲がる)回転か、無回転か、を考えた時、自分は回転がかかっていないほうが不規則になるし、(球が)重いなって。サッカーも無回転シュートがキーパーの手を弾いて入っちゃうというシーンを見ますし、その理屈を考えたら......」

 アジア選手権の西田は、ミリ単位でサーブの「入る、入らない」を繰り返している。難易度の高いコースをついているのだが、レシーバーの心を折るような一発も放てる。

「これまでは肩口のところを狙っている感じでしたね。新しいルールになって、ポジションチェンジが多くなったので、ゾーンのどこを狙うのか、それを考えて......でも明日(イラン戦)は、僕は人を狙いますよ! 今まではまらなかったんですが......。ブレ球? そうですね。

その状況になったらいいですね。しっかりと戦っている空間を意識しながら戦いたいです。そこまで深くは考えずに」

 西田はそう宣言したが、その"我流"に型はない。人を狙うことで得点につながりそうだったら躊躇うことなくそうするし、もし相手が対策をしてきたら、もっと有効な手段を使うだけだ。

 ロス五輪出場がかかるイラン戦も、西田は"狩り場"に適応する。

小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki

編集部おすすめ