日清食品は栄養設計食、ダイドードリンコは自販機「HAKU」13台を展開


トヨタ自動車グループが進める実証都市「Toyota Woven City(ウーブンシティ)」で、発明活動の拠点となる「Inventor Garage」が公開された。今回の取材で特に目を引いたのが、UCCジャパンによる実店舗を使った実証だ。
Woven City内の「上島珈琲店 Woven City店」で、コーヒーが来店者の集中や作業効率にどう影響するかを探っており、カフェという日常に近い空間にトヨタのAI解析技術を持ち込む試みとして存在感を放っていた。

4月23日の取材会は、Inventor Garageの稼働開始に合わせて開かれた招待制イベント「Kakezan 2026」の一環として実施された。トヨタ自動車とWoven by Toyotaが開発する技術や仕組みを知ってもらう場であると同時に、インベンター同士のさらなるつながりを生む場として位置づけられ、開発中の技術や各社が取り組む実証が展示形式で紹介された。
Woven City新拠点公開、UCCが上島珈琲店で実証前進 コーヒーと「集中」の関係探る
WovenCityは、「Inventor Garage」、「Inventor Field」、「Phase 1」の3つの環境で、変化に素早く対応する開発・実証をサポート
WovenCityは、「Inventor Garage」、「Inventor Field」、「Phase 1」の3つの環境で、変化に素早く対応する開発・実証をサポート
今回の公開で重要なのは、Woven Cityの実証環境が一段階そろったことにある。4月に「街の形をしたテストコース(Phase 1)」「Inventor Garage」「屋外の実証スペース(Inventor Field)」の3つの環境がそろい、人のいない空間でまず試し、効果や課題を見極めたうえで、住民が暮らす街側へ展開する流れが取りやすくなったという。現在、居住区画には約100人が住み、そのほか仕事や会議などでインベンターが日々出入りしている。

Inventor Garageは旧東富士工場のプレス建屋を活用し、試作や検証、交流、滞在の機能を備えた発明活動の拠点として整備した。ウーブン・バイ・トヨタ社の武島健太さんによると、旧工場の面影を生かすため、工場で使われていた色の保存や再現、アンドン表示、床の段差、壁面に残る油染み、設備部材や道具の再利用などを通じ、53年間にわたるものづくりの歴史を未来の実証拠点へつないだという。2階には宿泊エリアも設け、インベンターが滞在しながら開発や検証を進められる環境も整えた。旧工場を単に保存するのではなく、記憶を残しながら未来の実証に使える場へ組み替えた点がInventor Garageの特徴といえる。

会場ではウーブン・バイ・トヨタの技術展示に加え、実証に取り組む各社の展示も行われ、食品関連ではUCCジャパン、日清食品、ダイドードリンコが取り組みを紹介した。
Woven City新拠点公開、UCCが上島珈琲店で実証前進 コーヒーと「集中」の関係探る
Woven City内にある「上島珈琲店」(左から)吉川店長と出原主任
Woven City内にある「上島珈琲店」(左から)吉川店長と出原主任
食品・飲料分野で最もWoven Cityの技術基盤と結びつきが見えやすかったのがUCCジャパンだ。
UCCは2025年9月26日にWoven City内に「上島珈琲店 Woven City店」を開店し、店舗そのものを実証の土台として活用している。UCC上島珈琲R&D本部の出原太智主任の説明によると、同店ではコーヒーが人のパフォーマンスに与える影響を探る実証を進めている。仕事利用の来店者を主対象に、Woven by Toyotaのカメラ・AI技術を活用して滞在時の様子を捉え、参加者アンケートと組み合わせながら、コーヒーの香りや味わい、店内環境が集中や作業効率にどう影響するかを見ているという。
Woven City新拠点公開、UCCが上島珈琲店で実証前進 コーヒーと「集中」の関係探る
UCCはブースでこれまでの実証実験の成果を紹介
UCCはブースでこれまでの実証実験の成果を紹介
解析では、映像を約10秒ごとにテキスト化し、「PC作業」「飲食」「スマートフォン操作」などの動作を抽出。1分単位で集計し、行動プロファイルを作成している。出原主任によると、実証への登録者は586人に上り、このうち分析用データとして約200件が集まっている。現時点では、店で「集中できた」と回答した来店者ほど、PC作業に没頭している時間帯が長く現れる傾向が見えてきたという。つまり、まずは「集中をどう測るか」の手応えが見え始めており、今後はコーヒーの種類や香り、室内環境の違いが、その集中の長さや入り方にどう影響するかを見ていく段階に入る。
Woven City新拠点公開、UCCが上島珈琲店で実証前進 コーヒーと「集中」の関係探る
「上島珈琲店」で実証実験が行われているスペース、Woven by Toyotaのカメラを4台設置、プライバシーの配慮に対応
「上島珈琲店」で実証実験が行われているスペース、Woven by Toyotaのカメラを4台設置、プライバシーの配慮に対応
この実証の特徴は、実験室ではなく、自然なカフェ環境で検証している点にある。店内には実証試験席を設け、参加同意を得た来店者のみが利用できるよう運用。実証エリアでは常時カメラ撮影を行う旨を掲示し、一般席と区分していた。Woven City側がプライバシーに配慮したデータ活用の仕組みを整えていることも、こうした実証を後押ししている。
会場では関連技術として、「Woven City AI Vision Engine」が「カメラ映像から人・モノ・モビリティの行動を理解するAI」、「Woven City Data Fabric」が「プライバシーを守りながら、データを活用する仕組み」として紹介されていた。

店舗としての魅力づくりにも力を入れている。上島珈琲店 Woven City店では、水素焙煎コーヒー2種類の飲み比べ提案も行っていた。深めの味わいの「ダーク」と、比較的軽やかな「シティ」を用意し、店内限定で提供している。UCCは、今後は集中だけでなく、読書や会話、休憩など、より幅広い利用シーンにも対象を広げたい考えで、将来的には新商品開発への応用も視野に入れる。カフェを出店して終わりではなく、実店舗を起点にコーヒーの新たな価値提案を探っている点が今回の実証の大きな特徴だ。
Woven City新拠点公開、UCCが上島珈琲店で実証前進 コーヒーと「集中」の関係探る
日清食品のブース、インスタントラーメンの会社から、食と健康のソリューションカンパニーへ移行してることを紹介
日清食品のブース、インスタントラーメンの会社から、食と健康のソリューションカンパニーへ移行してることを紹介
日清食品は、「栄養最適化テクノロジーで目指す食×モビリティの未来」をテーマに展示した。説明したビヨンドフード事業部の宮川茉莉理さんによると、健康のために我慢して食べるのではなく、好きなものをおいしく食べながら栄養バランスを整える食事を目指しているという。Woven Cityでは、ハンバーガーなどを含む栄養設計メニューを用意し、普通の街に近い環境の中でどうすれば継続的に受け入れられるかを見ていく。

すでに研究段階では一定の手応えがあるものの、指定された条件で食べてもらう研究と、日常の中で自然に選ばれることは別であるため、Woven Cityでは受容性や継続性を含めて実証を深めていく考えだ。研究所の開発担当とシェフが連携し、おいしさと栄養設計を両立させる共同開発を進めている点も強調していた。単なる栄養設計食品ではなく、一食として満足できるおいしさを備えた食事として成立させようとしているところに、同社の挑戦がある。

Woven City新拠点公開、UCCが上島珈琲店で実証前進 コーヒーと「集中」の関係探る
ダイドードリンコのブースでは「HAKU」を展示
ダイドードリンコのブースでは「HAKU」を展示
ダイドードリンコは、空間に溶け込む自販機「HAKU」を紹介した。説明した自販機事業統括部の古門義浩さんによると、現在、Woven City内ではHAKUを13台展開しているという。HAKUは単に売上を押し上げるための自販機ではなく、従来自販機を置きにくかった場所にも設置できるようにすることを狙ったモデルである。

実証では、生活空間の中で自然に受け入れられるか、使い勝手やUI・UXはどうかを見ている段階にある。利用者からは「自販機と気づかなかった」といった声も出ており、今後は空間になじみながらも、きちんと気づかせる見せ方が課題になるという。古門さんは、HAKUを「真っ白な土台」と位置づけ、今後さまざまな技術やアイデアとの掛け算で進化させていきたい考えを示した。
Woven City新拠点公開、UCCが上島珈琲店で実証前進 コーヒーと「集中」の関係探る
インベンターガレージの外観
インベンターガレージの外観
今回の公開で見えてきたのは、Woven Cityが単に未来的な街並みを見せる場ではなく、異業種がそれぞれの強みを持ち寄り、試し、改善しながら新しい製品やサービスの仮説を磨く場だということだ。その中でもUCCは、生活に近いカフェ空間にトヨタのAI解析技術を持ち込み、コーヒーの価値を「味」や「香り」だけでなく、「集中」や「過ごし方」まで広げて捉えようとしている。食品・飲料企業にとってもWoven Cityが、新しい価値提案の仮説検証の場になりうることを示している。
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