DIY自由・原状回復不要というルールのもと、住人が空間を育て、長く住み継がれる“伝説”の賃貸アパート「アップル&サムシングエルス」。今回紹介するのは、美大卒の若手美術作家と、17年住み続けるアクセサリーデザイナーの部屋。
■関連記事:
前編:美大生などクリエイターが”住み継ぐ”賃貸。原状回復ナシ・DIYで歴代住人が育て上げた伝説のアパートに潜入 町田市「アップル&サムシングエルス」
後編:歴代住人がDIYで”住み継ぐ”アート賃貸。秘密基地みたいな美大生の部屋&医師兼アーティストが深夜に籠る「半地下アトリエ」 町田市「アップル&サムシングエルス」
自由でクリエイティブな空気に惹かれる住人たち
東京都町田市・相原にあるアパート「アップル&サムシングエルス」には、暮らしと創作を切り分けない住人たちが集まっている。その要因の多くを占めているのが「DIY自由・原状回復不要」の、不動産業界の常識を逸脱するルールだ。
SUUMOジャーナルでは2021年に初回の取材を行い、5年後の今回は4つの部屋の住人にお話をうかがった。この記事では、多摩美術大学油絵専攻を卒業したばかりの美術作家、山本武蔵(やまもと・むさし)さんと、17年にわたりこのアパートに住み続けているアクセサリーデザイナーのsuieさんを紹介する。
世代もキャリアも異なるふたりに共通しているのは、「生活とアートの境目」を曖昧にするこのアパートのあり方に強く惹かれている点だ。
美大を卒業し、美術作家として歩み始めたばかりの山本さん(写真撮影/相馬ミナ)
社会人経験が長く、ライフワークとしてアクセサリーを制作しているsuieさん(写真撮影/相馬ミナ)
「壁画、描いちゃっていいよ」。オーナーの言葉に触発された美術作家
多摩美術大学を出て美術作家として活動している山本さんがここに越してきたのは、昨年7月。きっかけは、このアパートに先に住んでいた知人からの紹介だった。「友人からこのアパートの話を聞いたとき、まず“自由だな”と思いました」
建物を上から見たときに現れる三角形の構成も、惹かれたポイントのひとつだという。
在学中に住んでいた部屋の更新時期と重なり、社会人になるとともに自然な流れで入居を決めた。白い壁の部屋に入った山本さんに、オーナーの青木さんはこう声をかけた。
「壁画、描いちゃっていいよ」
その一言が、山本さんの部屋に対する認識を大きく変え、部屋全体をひとつのアートに仕立てる勢いで、壁や天井にペインティングを広げていくことに。ときには絵筆ではなく、自らの指や掌を使って大胆に描く。繰り広げられているのは、植物のようにも、有機的な形態の集合体のようにも見えるイメージ群。白い壁のシンプルな部屋が、いまやジャングルのように息をし始めている。
部屋の中央を走る梁を境に、奥は白のゾーン、玄関側である手前はグリーンのゾーンに。とはいえ今後も変わっていく可能性は高い(写真撮影/相馬ミナ)
グリーンのゾーンの壁や天井には、シームレスにペインティングが施されている。その上に小さな作品が展示され、全体としてひとつの作品のようにも見える(写真撮影/相馬ミナ)
制作は頭で構築するというよりも、身体から立ち上がる感覚に近いという。
「一度、自分の身体を分解して、また組み直す、みたいな。人間って、ずっと変化し続けていくので、それをそのままアウトプットしている感じというか」
作品は壁に貼られ、日々の生活と地続きに存在する。
変化し続ける自己。その痕跡が積み重なり、部屋そのものがひとつの生命体のようにうごめいている。
バスルームのドアもキャンバスの一部に。手指を使うことで肉感的なタッチが生まれている(写真撮影/相馬ミナ)
なにげなく柱に掛けられた刷毛までも、意味を持つアートのように見えてくる(写真撮影/相馬ミナ)
守られた環境にエネルギーを与えられ、感性を解き放つ
「生活と、アートみたいなものの境目をなくしたいと思っていて。人から見るとちょっと異質かもしれないですけど、自分にとっては自然なことなんです」
ハウスリペアの仕事で暮らしを支えつつ、アート制作を続ける山本さんにとって、この部屋は住居であり、同時にアトリエでもある。壁に描く自由までが許容される空間だからこそ、作品制作も自然体でできる。
「以前は普通のアパートで、画材をこぼしたりして汚してはいけないという窮屈さがありましたが、ここでは気にする必要がありません。また、人に見られないということが、自分の制作環境にはすごく大事で。学生の時は、どうしてもまわりに誰かの目がありましたが、ここにはそれもないので集中できます」
人の目を気にすることなく制作に没頭できる、理想的な環境。夜は、床の空いたスペースにそっと布団を敷いて寝る(写真撮影/相馬ミナ)
浴室もインスタレーション作品のように仕立てて。海外のアパートのように、全室、猫足のバスタブがあるのも特徴の一つ(写真撮影/相馬ミナ)
「自炊もけっこうしています」。
クリエイティブな住人同士の「ゆるやかな連帯」が生む安心感
このアパートの特徴は、物理的な自由度だけではない。住人同士、そしてオーナーとの距離感にも独特のゆるやかさがある。「ほとんどの住人は何かしら創作活動をしている人なので、懐が広いというか。緊張せずに話せるのがありがたいです」
クリエイターとしての前提がそろっているから話しやすく、お互いを受け入れやすい。顔見知りがいることは、日常の安心感につながっている。「もし、創作活動が原因で何か問題が起こったとしても、“すみません”って普通に言える関係性というか。そういう意味でも気が楽ですね」
クリエイターのサンクチュアリのような、アパートの存在そのものに対する好感もまた、ここで暮らす理由のひとつになっている。
絵画作品としての完成度を感じさせる窓下の壁画。将来退去したあと、もしかしたら価値が出るかもしれない(写真撮影/相馬ミナ)
17年住み続ける理由–「人」のつながりがもたらす心地よさ
山本さんのように入居間もない人がいる一方で、suieさんは、このアパートに17年住み続けている、いわばベテラン住人だ。
最初に入居したのは30代のころ。実家と勤務先の中間地点で物件を探していた際、インターネットで偶然見つけたことがきっかけだ。当初は、美大生が集まるアパートだとは知らなかったという。「駅から歩ける距離で、デザイナーズ風の部屋の雰囲気も好みで。
内見時、麦わら帽子を被って現れたオーナーの青木さんには、カントリー・ジェントルマンの品格が漂っていた。「一緒に内見に行った母と、“かっこいい人だね”って話してました」。オーナーの人柄を確認できた安心感と、強烈な印象が自分の感性に響いたこともあり入居を決めた。
このアパートでは、空き部屋が出ると住人同士で情報が共有され、気に入った部屋へと移ることも珍しくない。suieさん自身も、2部屋目を経て現在の最上階の部屋へと移り住んだ歴史がある。
「気になっていた部屋が空いたら、青木さんに“見せてください”と言って、気に入ったら移る。そういうことが自然にできるアパートなんです」
ワンルームを家具でゆるやかにゾーニング。ソファの奥にベッドやクローゼットがある。ロッキングチェアは貰い受けたもの(写真撮影/相馬ミナ)
キッチンまわりのタイルはオーナーの青木さんが海外から取り寄せ貼ったものだそう。色を合わせたステンドグラスはsuieさんがアンティークショップで購入し取り付けた。オーナーと入居者の共演があちこちで見られる(写真撮影/相馬ミナ)
収納家具を白で統一し、カラフルなものを飾るのがsuieさん流のインテリア術(写真撮影/相馬ミナ)
コンクリート打設時に、型枠を保持していた金具跡にネジを取り付け、板を渡した簡易な棚。この方法は多くの部屋で実践されている(写真撮影/相馬ミナ)
手を動かすのはお手の物。自分の居場所をカスタマイズ
suieさんにとって、この部屋は生活の場であると同時に、制作の拠点でもある。本業として建築関連の仕事に携わりながら、アクセサリー制作という「本当にやりたいこと」を続けていけるのはこのアパートのおかげだ。「この家賃で、この広さの作業場を確保できるのは大きい」。
現在の部屋では、小上がりや作業テーブルなど、多くを自ら手がけた。造形会社や建築関係の勤務経験があるsuieさんにとって、素材に触れながら空間を整えることは得意分野だ。
「布モノを扱うこともあるので、長い作業机が欲しくて、自分でつくりました。脚の部分は、階段の手すりの部材を青木さんが“これ使えない?”って提案してくれて」
雲形の白い作業デスクは、ミシンとロックミシンの2台を並べて使えるようにDIYで造作した(写真撮影/相馬ミナ)
小上がりは、服の収納を増やすためにつくったもので、下にプラケースが隠れている。「造形会社に長く勤め、造形や建築の現場を経験したことが役に立ちました」(写真撮影/相馬ミナ)
明るい窓辺は細かい作業をするのには適しているが、紫外線で固まる性質を持つ樹脂粘土が「あっという間に硬化してしまうのが悩み(笑)」(写真撮影/相馬ミナ)
相場より抑えられた家賃で作業場も確保できるこの部屋が、日々の暮らしと作家としての活動を支えている(写真撮影/相馬ミナ)
建材や工具は、青木さんから提供してもらえるそう。不要になった家具や資材が、別の住人の手で新たな役割を与えられる。「このロッキングチェアも、近所の方から譲ってもらったものですし、大きな鏡も近くのバレエ教室から。いろんなものが巡ってくるんです」
部屋の中には、他の作家の作品や思い入れのある品々が並ぶ。それらは単なる装飾ではなく、創作のインスピレーションの源として、suieさんを刺激し続けている。
この棚は前の住人が残していったもの。suieさん審美眼にかなった小物や作品だけが、ここに入ることを許されている(写真撮影/相馬ミナ)
作品展示のためにつくったトルソーにsuieさんの世界観が凝縮されている(写真撮影/相馬ミナ)
白熊の絵は、知り合いの父である小説『ソフィーの世界』の表紙絵で一躍有名になった高橋常政さんの作品。オーナーの青木さんがこれを気に入り、経営するカフェで展覧会を開催したことも(写真撮影/相馬ミナ)
空にひらける部屋で、夕焼けのやりとりが心をほぐす
この部屋が空いたと知って迷わず移ることに決めたのは、最上階で上からの物音がない解放感と、窓から広がる景色の良さからだ。気象的な条件がそろえば、富士山の頭がわずかに見えることも。「椅子に腰掛けると建物が見えなくなり、視界が空だけになるんです。特に夕焼けのときがすごくきれいで」
そんなとき、青木さんからメッセージが届くこともある。
「“今日の夕焼け、きれいだね、見てる?”って。そういうやり取りも楽しいです」
この場所に長く住み続ける理由を尋ねると、suieさんはこう答えた。
「やっぱり、青木さんの存在が大きいですね」
家庭菜園の野菜を分けてもらったり、手料理が振る舞われたり。ときには料理の入った鍋を託され、顔なじみの他の住人に配ることもある。満月の夜、青木さん宅の庭で開かれるピザパーティーの場で、自然に住人同士の交流が生まれ、ゆるやかな関係性が育まれている。そんな環境が心地いいのだろう。
紫色だった壁は、入居時に自分で白く塗り重ねた。「自分の持ち物にカラフルなものが多いので」(写真撮影/相馬ミナ)
新人とベテラン。立場も時間の重ね方も異なるふたりだが、この場所での暮らし方には共通点がある。それは、「生活」と「制作」を分けないこと。壁に描くことも、家具をつくることも、すべてが地続きの営みとして存在している。このアパートでは、空間そのものが創作の土壌であり、同時に人を受け入れる器でもある。
境界を持たない暮らしは、多くの人からは不安定に見えるかもしれない。だがここでは、それが確かな手触りと喜びを伴い、日常として根づくことが可能なのだ。このアパートが◯年にもわたり愛され、住み継がれている理由は、そこにあるのだろう。
■その他の部屋の記事:
多摩美術大学 油絵学科専攻 Iさんの部屋
医師 兼 画家・詩人・シンガーソングライター 須田さんの部屋
●取材協力
アップルアンドサムシングエルス

![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 昼夜兼用立体 ハーブ&ユーカリの香り 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Q-T7qhTGL._SL500_.jpg)
![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 就寝立体タイプ 無香料 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51pV-1+GeGL._SL500_.jpg)







![NHKラジオ ラジオビジネス英語 2024年 9月号 [雑誌] (NHKテキスト)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Ku32P5LhL._SL500_.jpg)
