■「専守防衛」方針を変えた安保3文書
安保3文書の改定をめぐる動きが活発化している。4月下旬に有識者会議の初会合の開催が予定され、秋までに改定案の提言とりまとめを目指す方向だ。
安保3文書とは、2022年に策定された「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」を合わせた呼び名だ。
それまで日本は、相手から攻撃された場合のみ反撃するという「専守防衛」の姿勢を貫いてきた。だがこの3文書では、敵のミサイル発射拠点などを攻撃する「反撃能力」の保有を初めて明記し、防衛費もGDP比2%(約11兆円)へと倍増させる方針を打ち出した。戦後日本の防衛政策の大きな転換点となったといっていい。
今回の改定に関する議論では、防衛費のさらなる増額や防衛装備品の輸出ルール緩和などが主な争点として注目されているが、「反撃能力をどのように運用するのか」という課題も検討することになるだろう。前回の策定で能力を保持することは決定したが、どのような状況で、誰が判断し、どういった手続きで実行に移すのかという運用構想はできあがっていなかった。
具体的には、首相や国家安全保障会議(NSC)による意思決定と自衛隊の行動を結びつける指揮統制の仕組み、米国との役割分担、そして弾薬や燃料の備蓄、補給体制などの継戦能力といった、宿題として持ち越されてきた論点があらためて俎上に載ることになる。
■日本は「無視できる相手」ではなくなる
今回の改定に、中国は強い反発を示している。対日姿勢の変更を余儀なくされるからだ。
新たな安全保障体制(以下、新体制)は、日中関係にどのような影響を与えるのか。ここでは中国側の視点から分析してみたい。
これまで中国は、日本を台湾有事に直接影響を与える主体とは必ずしも見なしてこなかった。日本は「専守防衛」の立場にあるため、主として米国を後方から支援する役割にとどまり、自ら前面に立って作戦を主導する国ではないという認識があった。
沖縄の在日米軍基地についても、中国にとっては米軍の出撃や展開を支える拠点という意味合いが強く、日本が独自の判断で運用するものではないと受け止められてきた。
しかし、新体制が実際に動き始めれば、日本は南西諸島を含む地域で、警戒や監視、防空、部隊の展開といった活動を、はっきりとしたルールに基づいて行うようになる。南西諸島は台湾や南シナ海、さらには太平洋へとつながる重要な海と空のルートに近く、戦略上きわめて重要な場所だ。
こうなると、中国は日本を無視して戦略を考えることができなくなる。日本がこれまでのように米国を支えるだけの存在ではなく、地域の安全保障に直接影響を与える存在へと変わるからだ。
その結果、中国は自国の軍事や外交の方針を決める際、日本がどこまで行動するのか、どのように判断するのかを前提に考える必要性が生じてくる。
■外交と軍事の両面から探りを入れる
改定の直後には、中国が外交・軍事・経済・情報の各分野で圧力を強めるだろう。その目的は、日本の新体制が実際にどこまで機能するのかを測ると同時に、本格的な始動を牽制することにある。
まず外交面では、首脳会談や外相会談、防衛当局間の協議、多国間会議などの場を通じて、日本の政策意図について具体的な説明を求めてくるだろう。中国がそこで探りたいのは、反撃能力をどのような条件で行使するのか、集団的自衛権とどう整合性をとるのか、南西諸島でどの程度の部隊展開を想定しているのか、といった点だ。
並行して、軍事面では東シナ海や南西諸島周辺で艦船・航空機の展開を活発化させると考えられる。空母や揚陸艦(上陸作戦に使われる艦艇)の一時的な展開、弾道ミサイルや巡航ミサイルを使った演習、尖閣諸島周辺での海警局の活動拡大などが想定される。
これらは威嚇そのものが目的というより、日本がどの水準で反応し、どの段階でエスカレーションを避けようとするかを観察する意味合いが強い。外交で言葉によって探り、軍事で実際の反応を測る――両者は一体の動きといえるだろう。
■慎重論を広げるため、あの手この手
経済面では、半導体関連製品や精密機器の輸出手続きの遅延、現地での投資審査の厳格化、既存契約の見直し要求といった形で圧力をかけてくることも予想される。
これまでは中国の経済的圧力といえば、レアアース等特定の資源の輸出規制といった措置が中心だった。一方、ここでの狙いは直接的な打撃ではなく、企業活動全体の先行きを不透明にすることで、日本国内に慎重論を広げる点にある。
企業にとっては「予定通りに物が売れない」「投資の回収が遅れる」といった不安が生じ、結果として事業計画を見直す動きが広がりうる。
そして情報面では、政府系メディア(人民日報、環球時報、英語版のChina Dailyなど)や研究機関、SNSを通じて、新体制に対する疑問や不安を広げる発信が行われるだろう。
ここでターゲットになるのは日本の“空気”だ。防衛政策をめぐる議論の流れや世論の受け止め方に影響を与えることが目的になる。したがって日本のSNSの反応や世論調査、報道の傾向を見ながら、強調する点や伝え方を調整しつつ進められるだろう。
■日本国内の世論形成に介入する
こうした短期的な圧力と並行して、中国は長期的な戦略の再設計を進めると予想される。全面的な衝突は経済的損失や国際的孤立を招くため、基本的には回避される。その一方で、一定の緊張関係を維持しながら、自国の行動の幅を保つ形で対応していくはずだ。
まず、前掲の軍事的圧力と情報発信は長期にわたり継続されると考えられる。ただし、その性質は短期の場合とは異なってくる。
軍事面では、南西諸島周辺での活動を拡大したまま続けることで、当初は「異常事態」ととらえられたものを「日常」へと変えていく。結果として日本の警戒心が弱まり、対応に踏み切るラインを揺るがせるのが目的だ。
経済的圧力も軍事的緊張と組み合わせることで効果を持つ。企業活動に不確実性をもたせ続けることで、日本国内の慎重論を下支えする。
情報面では、短期の反発的な発信から、長期的な世論形成へと軸足が移る。防衛費増の財政負担や偶発的衝突のリスクといった論点を繰り返し提示し、「慎重であることが合理的だ」という空気をつくることが狙いとなる。
■「台湾有事短期決戦」シナリオの変更
そしてもっとも大きく変えざるを得ないのが、台湾周辺および南西諸島正面で想定してきた作戦構想だ。これまで中国は短期決戦型のシナリオを重視してきた。その前提条件は安保3文書改定によって修正を迫られる。
日本の補給体制や弾薬の備蓄、継続して戦うための能力、基地の防護、部隊の分散展開といった体制が強化されれば、台湾有事の初動段階で優位を確保することは、これまでより難しくなる。
とりわけ重要なのは、戦闘がどの程度の期間続くのかという「時間の見通し」だ。戦闘が長引いた場合の補給の維持や、空と海の優勢をどこまで保てるか、さらに国際社会の反応がどう変化するかまでを踏まえた、より現実的な想定が求められる。
■新体制は抑止力として価値を持つ
現状では、日本は反撃能力を「持つ」とは宣言したものの、いつ・どう使うのか、誰が判断するのかといった運用は曖昧であり、中国から見れば出方を読み切れない。
今回の改定でこれが明文化され、その線引きを探ることで、日本が「何をするのか/しないのか」はより明確になる。
重要なのは、変わるのが「対立の有無」ではなく「対立の質」である点だ。これまでの日中関係が孕んでいた曖昧で不安定な緊張は、能力と意思が見えた状態での構造的な対峙へと移る。
その結果、中国は日本の反応を織り込んで判断するようになり、誤算に基づく行動は抑えられ、軍事行動のハードルは高まる。つまり、新体制は日本の行動を縛るものではなく、「どこまでやるのか」を示すことで、抑止力として機能する基盤となるのだ。その意味で、今回の3文書改定は非常に大きな価値を持つといえるだろう。
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宮田 敦司(みやた・あつし)
元航空自衛官、ジャーナリスト
1969年、愛知県生まれ。1987年航空自衛隊入隊。陸上自衛隊調査学校(現・情報学校)修了。中国・北朝鮮を担当。2008年、日本大学大学院総合社会情報研究科博士後期課程修了。博士(総合社会文化)。
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(元航空自衛官、ジャーナリスト 宮田 敦司)

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