毎週月曜日は東京新聞との紙面連動企画。

今日は、アメリカとカナダの国境の街を取材した記事に注目しました。

記事で取り上げられていたのは、アメリカ・バーモント州のダービーラインと、カナダ・ケベック州のスタンテッドという街にまたがって立つ「ハスケル自由図書館」。

ダービーラインのお金持ちの男性と、スタンテッドの女性が結婚して長らく暮らしたが、旦那さんの死後、奥さんが彼と暮らした街と、自分のふるさとの両方の街の友好の架け橋となるようにという思いを込めて寄付をして開設した図書館。

友好の証の図書館 自由な行き来をアメリカが一方的に制限

まさに友好の証の図書館・・・なのですが、何が起きたのか?取材をした、東京新聞アメリカ総局ワシントン特派員の山口哲人さんに伺いました。

東京新聞アメリカ総局ワシントン特派員 山口哲人さん

「まさに国境の上に図書館が立っていて、図書館の中に国境線、黒いテープで床に貼ってあって国境が分かるような状態になっています。やはり、国境の街なので、もともと9・11のテロの時ですとか、コロナで国境を各国が閉じたという時には、警備が厳しくなろうとしていたこともあるんですけど、トランプ大統領に変わって、ガラっと雰囲気が変わりました、前よりももっと厳しくなったという意味です。

トランプさんは就任早々、移民を強制送還するという政策をどんどん進めていきました。その一環として、クリスティ・ノームというアメリカの国境対策の長官、彼女がこの図書館に乗り込んで来て、『あなた達はもう51番目の州なんだ』という風にバカにして、図書館、自由に行き来できるものですから、それを出来なくすると、警備を厳しくしなさいということを言い出した、というのが経緯です。」

図書館の中に国境線が引いてあるなんて、とっても珍しいですよね。

米・カナダ国境線の図書館 分断の影の画像はこちら >>
<この黒いテープが国境線(写真はすべて東京新聞提供)>

この図書館は南側のアメリカ側に正面玄関があります。では北側のカナダの人たちはどうやって図書館に入るのか?と言いますと、図書館の西側に、図書館に沿って小道があって、これを通って、つまりカナダからアメリカに入って、正面玄関から入館していました。もちろんパスポートは要らないし、税関職員も国境警備員もいませんでした。

それが、クリスティ・ノームさんの通告を受けて、国境警備当局がこの小道を、去年の10月には塞いでしまいました。

この図書館、イメージ的には一つの町の中にたまたま国境があった、という感じで、電気も水道も一体化しているし、火事があったら消防車はお互いに行き来して消火にあたっていた。それが、警備を厳しくして行き来はダメ!となってしまったんです。

米・カナダ国境線の図書館 分断の影
<図書館の外観 手前の看板には【越境すれば逮捕する】という警告が>

アメリカ産のものは買わない!アメリカではお金使いたくない!!

こうしたアメリカ政府の一方的なやり方で、カナダの人たちにどんな変化があるのか。再び、山口特派員のお話です。

東京新聞アメリカ総局ワシントン特派員 山口哲人さん

「この図書館の取材のときもそうでしたし、今月ですね、また国境の街、アメリカの中西部のミシガン州デトロイトと、すぐ川を渡って向かい側のカナダのオンタリオ州ウィンザーという街に行ってきた時に、やはりカナダ人の人はトランプ政権に対して、未だに憤りを感じているということを、ひしひしと私も感じました。

例えばスーパーに行きますと、不買運動が未だに続いています。牛乳とかお菓子とか、必ず裏側を見てアメリカ産だと買わないようにしていたりとか、ウィンザーの市長さんの話を聞くと、以前だとデトロイトにみんな遊びに行っていたと。というのも、デトロイトって大きな街ですから、NBAバスケットボールのチームがあったり、美術館もレストランもおしゃれだったりとか、自分たちの州都トロントに行くのには4時間かかるけど、もう10分で行けちゃう魅力的な街があるからよくそこに遊びに行った市民が多かったということなんですが、もう今はアメリカでお金を使いたくないと、いう風に自発的に考えるカナダ人がすごい増えてる、ということもおっしゃっていました。」

カナダの人たちの感情は大きく変わっていました。しかし、その気持ちは分かりますよね。

しかも、デトロイトと川を挟んで目の前のウィンザーは、デトロイトの自動車産業の部品などを作る工場も多く、1台の車を作るのに、7回も8回も部品などの行き来があるのですが、トランプ大統領はそこにも関税をちらつかせていますから、ますます当然の感情だな、と思いました。

遊びに行く、いわば憧れの街だったと、市長が話していたそうですが、みんな行きたくない、と、なってしまっているんです。

カナダ・ウィンザーの人にとっての地元チームはデトロイトタイガース??

さらに、山口特派員は、市長からこんな話を聞きました。

東京新聞アメリカ総局ワシントン特派員 山口哲人さん

「実は、あの日本でもそうですけど、地元のプロ球団を応援する人多いじゃないですか。プロ野球の楽天だったら仙台とか東北の方たちがすごく応援してるとか、サッカーでもそうだと思うんですけど、カナダのウインザーの人たちって、オンタリオ州って野球で言うと『トロント・ブルージェイズ』っていって、去年ワールドシリーズで大谷選手のドジャースと戦って、結局負けちゃったんだけど、強いチームがあるんですね。NBAのチームもあるんですけど、そのチームよりもデトロイトのチームを応援してる人が多いんですって。

アメリカのチームなんですけど、その方が近いから、やっぱり地元のチームって言うとブルージェイズじゃなくて、デトロイトタイガースだって言って。

それでも、もう国境は渡りたくないっていう風になっているので、トランプ大統領がもたらしたものは、なかなか大きなブーメランになって、アメリカに返っているな、っていう気はしています。」

地元のチームを応援!の【地元】が外国のチームだったんです。それほどに近い関係だったのに・・・。実際、2025年にアメリカを訪れたカナダ人は21%減ったという統計もありますから、ブーメランになってアメリカに返っている、という山口特派員の話には大いに納得です。

ちなみ、さきほどの図書館ですが、改修してカナダ側にも入口を作りました。その費用のため寄付を募ったところ、多くのアメリカの人からも「本当に申し訳ない」といったメッセージと共に寄付が集まりました。(もちろん世界中から集まっています。)

米・カナダ国境線の図書館 分断の影
<北側の非常口を改修してカナダ人向けの玄関を作ります>

ただ、山口特派員は、「アメリカの人は申し訳ない気持ちも持ちつつ、でもカナダがそういう目で見るなら・・・ということもあると思うので、トランプ大統領のもたらしたこの分断は、誰も得しない、不幸な結果をもたらしている、と見て聞いて実感した」とも話していました。

国民感情は、一度ヒビが入ってしまうとなかなか元に戻すのは時間がかかりますから、本当に不幸な結果。

こうした分断の積み重ねが、トランプさんの最近の支持率低下傾向に繋がっているのかもしれません。

(TBSラジオ『森本毅郎スタンバイ』より抜粋)

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