TBSラジオで毎週土曜日、午後1時から放送している「久米宏 ラジオなんですけど」。

8月24日(土)放送のゲストコーナー「今週のスポットライト」では、雑誌やウェブサイトを中心に味わいのある文章とイラストを発表している文筆家・イラストレーターの金井真紀さんをお迎えしました。

現在、持っている連載は、「日本語どんぶらこ」(挿画。毎日小学生新聞)、『きょろきょろMUSEUM』(雑誌「クロワッサン」)、『少年以上、おじさん未満』(Webサイト「DANRO」)、『ことわざの惑星』(月刊総合誌「世界」)、『世界のおすもうさん』(Webサイト「たねをまく」)。いろんなことに面白さを発見している方なのです。

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新宿ゴールデン街でママの経験も

金井さんは1974年、千葉県生まれ。1996年に学習院大学を卒業し、児童書を出している出版社に入社。その後、テレビの番組制作の仕事に長く関わりました。

TBSで現在も放送中の『世界ふしぎ発見!』で出題されるクイズを作っていたそうです。

これはリサーチャーと呼ばれる仕事で、海外ロケには同行せず、図書館やTBSの資料室、それにインターネットでその国のことをひたすら調べて問題を作るんです。そのクイズをもとにディレクターたちがロケに行って、帰ってくるとスタジオで黒柳徹子さんたちが収録するので、番組の土台となるいちばん地味でいちばん重要な仕事。ですからとても大変なんです。

それで金井さんは仕事を辞める決意を固め、出社するなり「辞めさせてください!」と言うつもりだったのに、何を間違えたのか「取材させてください!」と言ってしまった…。それから全国各地に行って様々な人に取材やインタビューをする仕事をするようになりました。

その仕事の傍ら、新宿ゴールデン街にあった「酒場 學校」というバー(元々は詩人の草野心平が開いたお店)で5年間、ママとしてカウンターに立つという経験もお持ちです(金井さんは草野心平を大学の卒業論文のテーマにするほど好きだそうです)。ひと癖もふた癖もあるような古い常連客たちの話を聞いているのが楽しかったと言います。

無類のおじさんコレクター、実はおじさん転がし!? 金井真紀さん(文筆家・イラストレーター)

価値観に風穴を開けてくれる「おじさん」を求めていた

金井さんは子供の頃から年上の人、おじさんやおばさんに話を聞くのが好きだったそうです。それはなぜなのか、考えていくと父親の存在に突き当たると言います。自分のやりたいことを父親に全て否定されてとても窮屈さを感じていた10代の頃、周りにいた面白いおじさんやおばさんと話をしていると、気持ちが楽になったそうです。

名エッセイストであった伊丹十三が『ぼくのおじさん』という文章を残しています。

伊丹は「親の価値観に風穴を開けてくれる存在、それがおじさんなんですね」と言います。子供の自分は親が押し付けてくる価値観や物の考え方に閉じ込められている。例えば「男なら泣くな」と言われて、いつの間にかそういうものかと思い込んでいる。でも、そこにおじさんがふらっとやってきて「人間、悲しけりゃ誰だって泣くんだ」なんていうことを言ってくれる。遊び人で、ちょっと無責任で、でもたくさんいろんなことを知っていて、親が分かってくれない自分の心の内を分かろうとしてくれて…。「おじさんと話したあとは、なんだか世界が違ったふうに見えるようになっちゃった」(伊丹)。

まさに、金井さんもそんな気持ちだったのです。気が付くと、風穴を開けてくれそうなおじさんを探していました。おじさんを見つける目がだんだん磨かれて、話を聞いてみるとやっぱり面白い。こうして金井さんは「無類のおじさんコレクター」になっていました。

無類のおじさんコレクター、実はおじさん転がし!? 金井真紀さん(文筆家・イラストレーター)

実は結構、おじさん転がし?!

でも一方で、金井さんを見ていると、おじさんたちはついつい金井さんにいろんな話をしてしまうのだろうなあと思います。大きな目で見つめられて、こちらの話にうんうんと頷いてくれて。

町のおじさん、おばさん、ゴールデン街の常連客たちも、金井さんと話していて嬉しい気持ちになるのが分かります。久米さんだっていつもと少し様子が違って、スタジオで対談しているというより、どこかのバーで話しているような雰囲気に…。

「そうやっていつもじっと相手のおじさんの顔を見ながら、にこにこ笑いながら話すの? それがおじさん転がしのコツですか」(久米さん)

「いや、私は(久米さんに)転がされてますけど、今(笑)」(金井さん)

「ホントかい?!」(久米さん)

「…なんですか、この会話」(堀井さん)

「キャハハ」(金井さん)

堀井さんが思わず突っ込みたくなるのも分かります。

無類のおじさんコレクター、実はおじさん転がし!? 金井真紀さん(文筆家・イラストレーター)

多様性を面白がることが任務!

金井さんは2014年、それまで関わっていたテレビ番組が終了すると、ちょうど40歳になったということもあって、この機会に自分がワクワクすることだけやって生きていけるものかどうかやってみよう! と決めました。貯金がなくなるまで好きなことを続けてみようという「実験」をスタートして、それが今の活動につながっていくわけです。

2015年に『世界はフムフムで満ちている 達人観察図鑑』で文筆家としてデビューすると、『酒場學校の日々 フムフム・グビグビ・たまに文學』(2015年)、『はたらく動物と』(2017年)、『パリのすてきなおじさん』(2017年)、『子どもおもしろ歳時記』(2017年)、『サッカーことばランド』(2018年)と出版が相次ぎ、今年(2019年)6月には『虫ぎらいはなおるかな? 昆虫の達人に教えを乞う』が発売されました。

こうしてみると、「おじさん」だけでなくいろいろな物ごとに風穴を求めているようですね。

無類のおじさんコレクター、実はおじさん転がし!? 金井真紀さん(文筆家・イラストレーター)

「世の中の様々な多様性みたいなものが、あなたはお好きで。ネット(金井さんのWebサイト『うずまき堂マガジン』)を拝見すると、なんでも興味を持つというのがモットーなんですか?」(久米さん)

「いえ、知らないことのほうがたくさんあって、関心がある分野はわずかなことですけども…。でも、『並べたい』っていう欲求があるんですね。拾い集めてきて、並べて、『いいね~』とか言って眺めたいっていう」(金井さん)

「例えばどんなものを並べたら面白いですかね」(久米さん)

「まあ、ひとつは『おじさん』もそうですし…。今、世界のことわざの絵を描くっていう連載をさせてもらってるんですけど、私、外国語が全く分からないし、英語もおぼつかないんですけど、いろんな言語のいろんなことわざを探してきて、その言語とかその国に精通している方に話を聞きに行って、集めてきて。また、文字がヘンですよね、ヘンって言ったら失礼だけど、見慣れない文字で。そういうのが、ひとつだけでも嬉しいですけど、並べて増えていくと本当にうれしい(笑)」(金井さん)

いろんな人たち、いろんな物事の多様性を面白がることが自分の任務だと言う金井さんですが、それは全ての人を好きになるということとは少し違うようです。

「好きでもなかった人が、話してみると好きになるってことがいっぱいありますか?」(久米さん)

「無理に好きにならなくてもいいっていうことかもしれないです。親しくなってみて、でも自分と違うことを言ってたら『私はそうは思わない』って言えばいいわけだし、もしさらに感じの悪いことや弱い人をいじめるようなことがあれば、『表へ出ろ!』って言えばいいんだから、っていう気持ちで、絶対に好きにならなきゃいけないとか、みんなと仲良くなんて無理なので」(金井さん)

ずっと笑顔を絶やさず、穏やかに話す金井さんですが、内面にはそんな芯の強さも持っているんですね。その言葉を聞いた久米さんは…。

「今、とても話題になっている芥川賞とか直木賞が発表されたばかりですけど、ぼく、こういうエッセイとか、ちょこちょこっとしたいたずら書きみたいな文章って、広く言って『文学』だと思うんですよ。とっても実は世の中の役に立っている本だなと思って読んだんです。あなたの本を読んで救われる人が何人いるか分からないと思って読みました」(久米さん)

金井真紀さんのご感想

無類のおじさんコレクター、実はおじさん転がし!? 金井真紀さん(文筆家・イラストレーター)

なんか、久米さんと飲み屋さんでお話ししてるみたいで、堀井さんが呆れてたんじゃないかな(笑)。

久米さんは私の本をすごく丁寧に読んでくださって、「金井さんの本で救われる人がいると思う」って言ってくださって。私は人を救おうなんていう大それたことは思っていないけど、ちょっと窮屈になっている人が「ふふふ」と笑って肩の力を抜いてくれたらいいなあと思っているので、恐縮してしまいますが嬉しかったです。あ、放送でもそう言えばよかったですね(笑)。それと、久米さんが「多様性を愛でているってことは、ひとりの男の人に絞れないんじゃないか」っておっしゃったのはすごく鋭い質問で、ドキッとしました。

本当にいい時間をいただいてよかったです。ありがとうございました。

◆8月24日放送分より 番組名:「久米宏 ラジオなんですけど」
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