米ミズーリ大学(University of Missouri)の男子学生社交クラブ(フラタニティー)会館で昨年10月、当時18歳の男子学生が大量に酒を飲まされて放置され、脳に損傷を負った。このほど家族が「社交クラブへの入会儀式と称し、いじめやしごきである“ヘイジング(hazing)”が行われた」と上級生2名を相手に訴訟を起こし、波紋が広がっている。
今月9日に初めて公開された衝撃的な監視カメラの映像とともに『Good Morning America』などが伝えた。

米ミズーリ大学の学生だったダニー・サントゥーリさん(Danny Santulli、19)は昨年10月19日、同大学の男子学生社交クラブ(フラタニティー)の入会儀式「Pledge Dad Reveal Night」に参加した。クラブの新入りの通過儀式でもあるイベントがスタートしたのは午後9時過ぎで、集まったメンバーはすぐさま浴びるように酒を飲まされたという。

このほど公開された当時の監視カメラの映像には、上半身裸のダニーさんら新入生が目隠しをされて2階から降りてくる姿や新入生の手にビール瓶がガムテープで巻かれた姿などが映っており、なんとも異様である。

そんな中でダニーさんは「1.75リットルのウォッカのボトルを儀式が終わるまでに飲むように」と命令されたそうで、動画ではダニーさんがウォッカを半分ほど飲むとチューブを口に突っ込まれ、大口のじょうごからビールを注がれる姿も確認できる。

そして午後11時少し前、ダニーさんはバランスを崩して後ろにひっくり返ってしまい、メンバー数人に抱えられると隣の部屋のソファーに放り投げられた。


それから約1時間半後、翌20日午前0時半前にはソファーから体が落ちているが、立つことはできない。さらに15分が過ぎるとやっとメンバーの1人が事の深刻さに気付いてパニックに陥り、ダニーさんはメンバーが運転する車で病院に運ばれた。

しかしダニーさんは心停止を起こして呼吸が止まっており、医師による心肺蘇生で再び心臓は動き出したが脳に障がいが残った。血中アルコール濃度は当時、昏睡期にあたる0.468%で法定飲酒許容量の6倍に達していた。


ダニーさんはそれ以来、数か月をリハビリ施設で過ごし、現在はフルタイムの仕事を辞めた母親が自宅でつきっきりで介護している。体が麻痺し、話すことも立つこともできず、視力を完全に失ってコミュニケーションは取れないという。


ダニーさんの両親は事故の後、クラブのメンバー23人を相手に訴訟を起こし最近和解していたが、このたび新たにじょうごからビールを注いだアレック・ ウェッツラー(Alec Wetzler)とダニーさんが意識を失っていることに気付きながらも放置したサム・ガンディ(Sam Gandhi)の2人に対し重罪を求める訴えを起こした。

ちなみに未成年のダニーさんにお酒を強要したアレックは軽罪で起訴され、同大学には在籍していない。ただサムは今も同大学で学んでおり、ダニーさんの母メアリーさん(Mary)は「ダニーの体調が優れず、唇が真っ青になっているのを知りながら誰一人として緊急通報をした者はいないのです。6歳の子だってできるのですよ」と憤り、「彼らがしたことは間違いなくヘイジング(新入りへのいじめ)です」と強調してこのように述べた。

「息子はこれから一生ケアが必要です。耳は聞こえるので私たち家族がそばにいることは分かりますが、話はできません。
私たちが唯一できることは希望を捨てず、闘い続けることだけなのです。」


さらにダニーさんのきょうだいのメレディスさん(Meredith)は「以前からヘイジングがあった」と明かし、こう語った。

「事故が起きる前、ダニーは夜中に上級生に部屋の掃除をするよう呼び出されたり、自分のお金で食事や酒、マリファナを買ってくるよう言われたりして、睡眠不足でかなり滅入っていました。またゴミ収集箱の中に入るように言われ、割れたガラスで脚を切り病院で縫っていたのです。この事故は私たちが『社交クラブから脱退したほうがいい』とアドバイスした最中に起きたのです。」


なお同大学のフラタニティー会館は閉鎖されているが、事故があった夜はお酒だけでなくコカインやマリファナも使用されていたという。社交クラブではヘイジングが禁止されているものの、今でも毎年のように強要された飲酒やドラッグがらみで死亡するケースが報告されており、活動を無期限で停止する大学もある。今回の事故を受け、ダニーさんの家族は「こんな苦しみを他の誰にも味わって欲しくない。
ヘイジングは今すぐ止めるべき」と声をあげている。



画像は『ABC News 2022年6月10日付「Family of college freshman who nearly died in hazing incident speaks out」(ABCNews.com)』のスクリーンショット
(TechinsightJapan編集部 A.C.)