アルゼンチンはイングランドを2-1で下した photo/Getty Images
「フォークランド諸島」問題も再び注目に
アルゼンチンにとって、イングランド代表とのワールドカップ準決勝は単なるサッカーの試合ではなかった。
英『Daily Mail』によると、現地ブエノスアイレスでは試合当日、市内の至るところにリオネル・メッシの巨大広告が掲げられ、街全体が決戦ムードに包まれた。
街中には「Por Malvinas, por Diego, por la última de Leo(マルビナスのために、ディエゴのために、そしてレオの最後のワールドカップのために)」というチャントが響き渡り、試合前から熱気は最高潮に達していた。
マルビナスとは、イギリスで「フォークランド諸島」と呼ばれる島々のアルゼンチン名だ。アルゼンチンでは、欧米による植民地支配の象徴と受け止められており、1982年には領有権をめぐってマルビナス戦争(フォークランド紛争)が勃発した。敗戦から40年以上が経った現在も、この問題は国民感情に深く根づいている。
ちなみに、「ディエゴ」は2020年に亡くなったディエゴ・マラドーナ氏のこと。アルゼンチン国民のなかでは、伝説的なサッカー選手としてだけではなく、生前に欧米の帝国主義を批判し続けたことから反植民地主義運動の象徴的な存在としても記憶されている。
同氏は、1986年のW杯準々決勝イングランド戦後には、「我々は試合前に『サッカーはマルビナス戦争とは別物だ』と言ったが、たくさんの少年兵がまるで小鳥を殺すように殺されたことを知っている。この試合は復讐だった」と述べていた。
こうした歴史的背景もあり、ブエノスアイレス中心部では「イングランドなんてくたばれ!」と書かれた横断幕まで掲げられた。イングランド国歌は大ブーイングと口笛にかき消され、試合前から両国の歴史的関係を象徴するような雰囲気に包まれていたのである。
政治的な話題も注目を集めた。アルゼンチンのハビエル・ミレイ大統領は、マルビナス戦争当時にイギリスを率いたマーガレット・サッチャー元首相についての自身の発言が、「サッチャーを称賛するもの」と批判されたことを受け、報道官を通じて弁明する異例の対応を実施。歴史問題への関心が再び高まるなかで迎えた一戦でもあった。
試合は、アンソニー・ゴードンのゴールでイングランドが先制したものの、アルゼンチンは終盤にエンソ・フェルナンデスとラウタロ・マルティネスのゴールで逆転し、2-1で勝利。両ゴールをアシストした39歳のメッシを擁する前回王者が、2大会連続の決勝進出を決めた。
勝利の瞬間、街には花火が打ち上がり、人々は涙を流しながら抱き合って歓喜した。アルゼンチンにとってイングランド戦は、単なるワールドカップ準決勝ではない。マラドーナからメッシへと受け継がれるサッカーの歴史、そしてマルビナス問題をめぐる歴史も重なる"特別な90分"だったからこそ、ブエノスアイレスは国中が揺れるほどの熱狂に包まれたのだ。

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