先週の株式市場は日米の中央銀行が示した今後の金融政策を受け、相場の雰囲気が劇的に好転しました。
日本では11月3日(金)が文化の日のため休場でしたが、2日(木)までの4営業日で、日経平均株価(225種)は前週末比958円高の3万1,949円まで上昇。
3日の米国市場が、市場予想よりも弱い10月雇用統計による金利低下で急上昇したことから、週明け6日(月)の日経平均は3万2,000円の大台を大きく超えて始まり、連休前の2日終値と比べた上げ幅は一時800円を超えました。終値は758円高の3万2,708円となりました。上げ幅は今年最大となりました。
米国でも、機関投資家が運用指針にするS&P500種指数の3日(金)終値は前週末比5.85%も上昇し、ちょうど1年前に下げ相場が大底を打った2022年11月第1週以来の上昇率になりました。
金利が低下すると株価が上昇しやすいハイテク株主体のナスダック総合指数も前週末比6.61%高と急伸しています。
株価上昇の直接の原動力になったのは、米国の金利急低下です。
米国の長期金利の指標となる10年国債の金利は先々週の10月23日(月)に一時5%の大台を突破するなど株価の下げ要因になってきました。
しかし、米国の金融政策を決める10月31日(火)、11月1日(水)のFOMC(連邦公開市場委員会)通過後には、4.7%台まで低下。
3日(金)の予想より弱い10月雇用統計の結果を受け、4.5%台まで大きく下がりました。
株価下落の元凶だった米国の金利上昇への不安感がまるで霧が晴れるように消え去ったこともあり、今週もさらなる株価の上昇に期待が持てそうです。
今週は日本企業の2023年7-9月期決算がピークを迎え、9日(木)の ソニーグループ(6758) 、 ソフトバンクグループ(9984) や10日(金)の 東京エレクトロン(8035) など、9日300社超、10日(金)600社超と、実に1,000社以上が決算発表を行います。
相場が好転すると、ネガティブな決算内容でも株価の下落圧力は弱くなり、逆にポジティブな決算を過度に好感して株価が上がりやすくなるものです。
そのため、今週は決算発表を機に株価が急騰する銘柄も続出しそうです。
先週:日銀会合、FOMCによる円安加速&米金利急低下で株価が反転急上昇!
「夜明け前が一番暗い」(株価が回復する前の下げが一番つらい)という教えもあるように、先週までの日経平均株価は10月後半の13日(金)から27日(金)までの2週間で1,324円も下げましたが、先週は958円高と急回復しました。
株式市場の雰囲気が劇的に好転したのは、懸念材料だった日米の中央銀行の金融政策にネガティブな変更がなかったことが大きな要因でした。
31日(火)には日本銀行の金融政策決定会合が終了。
事前の観測報道の通り、短期から長期までの国債利回りが描く曲線を適正な水準に保つYCC(イールドカーブ・コントロール:長短金利操作)政策の運用柔軟化が発表されました。
しかし、その柔軟化は、10年国債の金利変動幅の事実上の上限を「0.5%前後をめどに1.0%まで容認」から「1.0%をめどに容認」と変更するというもの。
10年国債の金利が1%を超えることをある程度、容認するという「微修正」にとどまったことで株価は上昇しました。
この31日には財務省が10月(9月28日~10月27日)の為替介入額がゼロだったと発表。
これを受けて、外国為替市場の円相場が一時的に1ドル=151円70銭台まで急落し、円安が収益拡大につながる外需株にとって追い風になりました。
11月2日(木)には、 トヨタ自動車(7203) が2024年3月期の通期純利益予想を50%超も上方修正して2期ぶりの最高益更新見通しを発表したことで株価も前週末比4.6%上昇。
時価総額日本一の企業だけあって、全体相場上昇のけん引役になりました。
日銀会合の翌日11月1日(水)夜には米国FOMCでも、2会合連続で利上げが見送られました。
米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)のパウエル議長は「われわれが答えを求めているのは『さらに金利を引き上げるべきか』という問いだ」と発言。
次回12月12日(火)、13日(水)終了のFOMCで追加利上げをしないという明確な言葉はなかったものの、パウエル議長の発言は利上げ打ち止めを見据えたハト派的なものと解釈され、米国株も日本株も上昇しました。
さらに3日(金)発表の10月の米国雇用統計は、農業部門以外の新規雇用者数が予想を下回る前月比15万人増まで低下し、平均時給の伸びも鈍化。
米国市場では「FRBの高金利政策の効果が、これまで強すぎた雇用市場にも波及しつつある」という期待感から、10年国債の金利が一時4.4%台まで急低下しました。
前日2日(木)には、世界一の大企業である アップル(AAPL) の2023年7-9月期決算が4四半期連続の減収だったことが発表されましたが、ネガティブなアップルの決算をモノともせず、3日(金)の米国株も勢いよく続伸しました。
そういう意味では、日米の中央銀行による政策決定の微妙な修正や変更で、株式相場の雰囲気を一変することをまざまざと見せつけられた1週間でした。
金融政策の変更や修正はとても難解で分かりにくいですが、米国のFRBや日銀がこの先、金融政策を変更して、株式市場に流れ込むお金の「蛇口」を閉めようとしているのか、開こうとしているのかに注目するといいでしょう。
現状、FRBは「お金の蛇口を閉め続けてきたものの、もうこれ以上は閉めなさそう」、日銀は「お金の蛇口をわずかに閉め始めたものの、いまだ、ほぼ開きっぱなし」という方針がはっきりしたことで、先週、株価が急上昇したという理解になるでしょう。
今週: 1,000社以上の日本企業が決算発表。米国の政府機関閉鎖リスク再燃に注意!?
今週は、8日(水)にユーロ圏の9月小売売上高、10日(金)に英国の2023年7-9月期のGDP(国内総生産)速報値など欧州圏の景気指標の発表が相次ぎます。
また、9日(木)に行われるIMF(国際通貨基金)の会議でパウエルFRB議長の発言も予定されています。
米国では、9日の前週分新規失業保険申請件数や10日(金)発表の速報性の高い11月ミシガン大学消費者態度指数も注目を集めそうです。
また、11月1日(水)に米財務省が発表した11月の四半期ごとの定例入札(国債の発行規模)が予想を下回ったことを好感して金利が低下するなど、米国政府が財政支出をねん出するために発行する国債の発行予定額に対する関心が高まっています。
特に来週11月17日(金)には、10月1日(日)の米国の新会計年度スタートぎりぎりに成立した政府支出の暫定的なつなぎ予算案が期限を迎えます。
今週後半以降は来週17日(金)のタイムリミットが迫ることで、米国政府機関の閉鎖リスクや国債の格下げリスクが台頭し、米国債の金利が再上昇して株価の足を引っ張る恐れもあるので注意が必要でしょう。
日本株は今週ピークを迎える2023年7-9月期の個別企業の決算発表に大きな影響を受けそうです。
6日(月)には防衛関連銘柄でもある 三菱重工業(7011) や米国著名投資家のウォーレン・バフェット氏も保有する 伊藤忠商事(8001) 。
9日(木)にはソニーグループやソフトバンクグループのほか、原油高で急騰する INPEX(1605) や円安進行で業績好調な自動車メーカーの ホンダ(7267) 。
10日(金)には半導体製造装置の主力株である東京エレクトロンのほか、インバウンド消費に沸く百貨店最大手の 三菱伊勢丹ホールディングス(3099) 、金利正常化で収益増に期待が持てる銀行株の りそなホールディングス(8308) など、注目企業が続々と決算を発表します。
先週、株価が上場以来の最高値を更新した銘柄には、コロナ禍で業績不振に陥っていた10日決算発表の すかいらーくホールディングス(3197) のほか、 サイゼリヤ(7581) 、 王将フードサービス(9936) など、株主優待株としても人気が高い外食産業の株も多数ありました。
マスコミでは「物価上昇は悪」という論調が強いですが、値上げで売上・利益が増えやすい内需企業にとってインフレは追い風です。
今週、7日(火)には、日本国内の9月の全世帯家計調査や毎月勤労統計調査も発表されます。
全世帯家計調査の消費支出は前年同月比マイナス2.7%の予想です。
また、毎月勤労統計調査の現金給与総額は前年同期比1.0%の増加予想で、物価上昇率に追いつかず9月の実質賃金は8月に続いて18カ月連続で前年同月比マイナスになることが確実視されています。
物価上昇を上回る賃金上昇が実現せず、国内消費に息切れ感が出ている点は心配です。
しかし、上場来高値更新が続出している内需株の躍進が長年、日本経済を苦しめてきたデフレからの脱却や内需復活の前兆シグナルであることに期待したいところです。
(トウシル編集チーム)