原油相場が長期視点で高止まりする可能性が出てきています。テールリスクに分類されていたホルムズ海峡関連のリスクが、日常的に発生するリスクに分類される可能性が出てきたためです。
「ホルムズ海峡リスク」は日常的リスクへ
図1は、ニューヨーク原油先物の、2026年5月限(ぎり)と2027年5月限の価格推移です。
図1:NY原油先物(2026年5月限・2027年5月限)日足終値 単位:ドル/バレル
前者は今年の3月20日前後に、常時100を超える限月(げんげつ)の中で最も、取引最終日までの期間が短くかつ、取引量が多い「中心限月」になりました。当該限月は4月21日に、後者は2027年4月20日に最終取引日を迎えます。
足元の原油相場が高いのか安いのか、さまざまな議論がありますが、世界の指標であるニューヨーク原油先物の期近(きぢか)・中心限月については、青の線が示すとおり4月上旬をピークに大幅に下落しているといえます。
報じられているとおり、中東情勢の鎮静化期待、これによるホルムズ海峡の解放期待、これによる原油供給の回復期待など、短期視点の思惑が大幅下落の要因でした。
ですが、長期的な思惑を含む2027年5月限については、オレンジの線が示すとおり、高止まりしています。この値動きは、長期視点の思惑は根強く残っていることを、示唆しているといえます。
長期視点の思惑とは、どのような思惑なのでしょうか。図2に示したとおり、「ホルムズ海峡に関わるリスク」が、テールリスクから、日常的に発生するリスクに移動したと考えられることが、そうした思惑を大きくしていると考えられます。
テールリスク(Tail risk)とは、ほとんど発生しないが発生した場合の影響が甚大であるリスクのことです。青い線の形状(右下)が、Tail(尻尾)のように見えるのが特徴です。
図2:リスクのイメージ
これまで、イランが持つ外交カードの一つである「ホルムズ海上封鎖」は、湾岸産油国や自らにもダメージを与えるもろ刃の剣の意味もあり、かつ世界全体にかつてないほどの甚大なダメージを与え得るため、多くの市場関係者の間で、このカードが切られることはない(封鎖は起きない)と考えられていました。
だからこそ、同リスクはテールリスクに分類されていたのですが、2026年2月28日の、米国とイスラエルの攻撃、およびイランの報復開始を機に、このカードは切られてしまいました。
3月にトランプ米大統領が何度か、航行の際に護衛をつける、航行は安全である、という趣旨の発言をしましたが、それでも航行した船舶の数が回復しなかったこと(後述)は、切られないと思っていた同カードが切られ、ホルムズ海峡の安全神話が崩壊したことが影響していたと考えられます。
こうしたことを受けて、ホルムズ海峡はそもそも安全ではない、この海峡を通過するためには、イラン革命防衛隊と交渉したり、航行の際に支払う保険料を多く払ったりするなどの相応の準備が欠かせなくなった、などの認識が急速に広がりました。
「もう、自由に航行できるホルムズ海峡は戻ってこない」という思惑は、長期視点の原油の供給減少懸念を強めました。このことが、足元、1年後の限月の価格が高止まりしている要因であると、考えられます。
国内大手メディアに「原油価格が安い時代は終わった」という趣旨の見出しの記事が掲載されました。筆者も、そのとおりだと考えています。
中東産原油の多くが域内を出られない
ホルムズ海峡が封鎖されたため、代替となる航路を探す動きが活発化しています。図3のとおり、ホルムズ海峡は事実上封鎖されています。
図3:タンカーの主な航路(イメージ)
アラビア半島の西側にある紅海を北に抜ける「スエズ運河」を用いる航路、そして、同海を南に抜ける「バブ・エル・マンデブ海峡」を通過する航路が代替となることが期待されています。
前者はジブラルタル海峡を通過し、アフリカ大陸の西側を通り、喜望峰を回り、インド洋を渡り、マラッカ海峡を抜けて東アジアに至るルートです。後者はインド洋に抜け、マラッカ海峡、そして東アジアに至るルートです。ホルムズ海峡を通過する場合に比べて、日数が多くかかります。
問題はコスト面だけではありません。図4のとおり、スエズ運河とバブ・エル・マンデブ海峡を通過したタンカーの数は、2023年の10月ごろから数カ月間でおおむね半減し、現在でもほとんど回復していません。
タンカーの航行数が急減したタイミングをもとに考えれば、イランと関わりが深い、アラビア半島南岸のイエメンで活動するイスラム武装組織「フーシ派」による妨害行為が活発化したことが主な原因だと、考えられます(ドローンを用いた長距離の攻撃も可能)。
イランが直接的にホルムズ海峡を支配し、イランと関わりが深いイスラム武装勢力が紅海航行するスエズ運河とバブ・エル・マンデブ海峡を用いるルートに制限をかけています。つまり、中東産原油の多くが、域内を出られなくなっているのです(規模は大きくないが、他にも代替ルートはある)。
図4:主要な海上の要衝を通過したタンカーの数(21日間平均) 単位:隻
こうしたことを受け、図内の紫の線が示すとおり、東アジアの物流の玄関口ともいえる「マラッカ海峡」を通過したタンカーの数も、減少し始めました。日本を含めた東アジア地域における原油不足が本格的に始まったことを示しています。
湾岸産油国の原油生産減少リスクも大きい
図5は、世界全体の原油生産量の推移を示しています。2026年3月は前月比、約10%、減少しました。ペルシャ湾(アラビア海)沿岸の産油国での生産減少が目立ちました。
米国・イスラエルによるイランの石油関連施設への攻撃、イランによる湾岸産油国の石油関連施設への報復攻撃による原油生産量の減少、貯蔵(陸・洋上問わず)できる量に限りがあるため、輸出できなければ生産しないという判断による原油生産量の減少が同時進行していると、考えられます。
図5:世界全体の原油生産量 単位:千バレル/日量
カザフスタン(中央アジア・OPECプラス諸国)、アンゴラ(西アフリカ・旧OPEC諸国)、ベネズエラ(南米・OPECプラス諸国・米国の支配下で原油生産が行われているもよう)、ナイジェリア(西アフリカ・OPECプラス諸国)などで日量20万から80万バレル、4カ国合計で約230万バレル、原油生産量が増加しましたが、湾岸産油国の減少分を補うことはできませんでした。
※OPECプラス…石油輸出国機構(OPEC)に加盟する12カ国、ロシアやカザフスタンなどの非加盟の11カ国で構成。原油の生産シェアはおよそ60%。
図6は、主要な湾岸産油国の原油生産量を示しています。2026年3月と2月を比べると、サウジアラビアは21%減、イラクが54%減、アラブ首長国連邦(UAE)が44%減、クウェートが44%減でした。ホルムズ海峡を実効支配しているイランは6%減にとどまりました。
図6:主要産油国の原油生産量 単位:千バレル/日量
国内主要メディアが報じているとおり、国際エネルギー機関(IEA)の事務局長は、今回の供給減少を「史上最大の混乱」であると述べています。また、同事務局長は、破壊された中東地域の石油・天然ガスなどの関連施設の復旧には「最長で2年かかる」との見方を示しています。
冒頭で述べた「ホルムズ海峡リスク」だけでなく、中東地域の石油関連施設が復旧するまでに相当の年月がかかることも、長期視点の思惑を強めているといえます。
米国の原油輸出動向に関心が集まる
中東産原油の流通量が急減したり、世界全体として原油生産量が減少したり、こうした状況が長期化する懸念が大きくなる中、米国産原油に注目が集まっています。
先ほどの図3では、米国産原油を求めるタンカーが、喜望峰(南アフリカ)を回り、大西洋を渡り、メキシコとキューバの間に位置するユカタン海峡を通過してメキシコ湾に至るルートを確認することができます。
また、図4では、喜望峰やユカタン海峡を通過したタンカーの数が、イラン戦争が勃発して以降、徐々に増加している様子を確認することができます。
実際に、図7のとおり、米国の原油輸出量は同戦争勃発後、増加傾向にあります。この流れが続けば、米国はすぐにでも、原油(石油や石油製品ではなく)の純輸出国になる可能性があります。
図7:米国の原油輸出量(月間平均) 単位:千バレル/日量
図8は、米国の原油の戦略備蓄(SPR)の量の推移を示しています。イラン戦争勃発後、程なくして増加していることが分かります。このことと、原油輸出量の増加には、関連があると筆者はみています。
図8:米国の原油戦略備蓄(SPR)の量 単位:千バレル
戦略備蓄には、限りがあります。このため、同備蓄を放出し続けることはできません。短期視点で供給増加の一因になることはできても、懸念される長期視点の思惑を解消することは難しいでしょう。
長期視点で「70~110ドル」が定着か!?
ニューヨーク原油先物の長期視点の見通しについて、筆者は今のところ「70~110ドル」と考えています。長期視点で見れば「高止まり」です。「原油価格が安い時代は終わった」と、考えています。
図9:NY原油先物(期近)週次終値 単位:ドル/バレル
本レポートで述べたとおり、ホルムズ海峡関連のリスクが日常的なリスクになりつつある影響は計り知れません。仮に、封鎖が解かれても、「危険な海峡」であることには変わりがないためです。火気厳禁のタンカーを積極的に航行させる企業や国は、増えないのではないでしょうか。
さらには、同海峡の代替として目される、スエズ運河とバブ・エル・マンデブ海峡も、イランと関わりがあるフーシ派の活動がなくならない限り、積極的にタンカーを航行できる状態にはならないでしょう。
その意味で、IEAの事務局長の言葉のとおり、2年程度で湾岸諸国のエネルギー関連施設が復旧しても、中東域内から原油を運び出すことへのリスクはなくならないかもしれません(米国の供給能力にも限度があります)。
このように考えれば、長期視点で原油相場は高止まりする可能性が高い、と言わざるを得ないでしょう。劇的に原油相場を下げたいのであれば、「需要を激減させること」が有効でしょう(禁断の方法)。
それができなければ、消費国は高止まりする原油価格を受け入れなければならないと、筆者は考えています。
[参考]エネルギー関連の投資商品(一例)
国内株式(NISA成長投資枠活用可)
INPEX(1605)
出光興産(5019)
国内ETF・ETN(NISA成長投資枠活用可)
NNドバイ原油先物ブル(2038)
NF原油インデックス連動型上場(1699)
WTI原油価格連動型上場投信(1671)
NNドバイ原油先物ベア(2039)
外国株式(NISA成長投資枠活用可)
エクソン・モービル(XOM)
シェブロン(CVX)
オクシデンタル・ペトロリアム(OXY)
海外ETF(NISA成長投資枠活用可)
iシェアーズ グローバル・エネルギー ETF(IXC)
エネルギー・セレクト・セクター SPDR ETF(XLE)
投資信託(NISA成長投資枠活用可)
シェール関連株オープン
HSBC 世界資源エネルギー オープン
海外先物
WTI原油(ミニあり)
CFD
WTI原油・ブレント原油・天然ガス
(吉田 哲)

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