投資に慣れてくると、ついリターンばかりに目が向き、リスクを過小評価しがちです。しかし、好調な相場で積み上げた資産を市場下落時にどれだけ維持できるかが、長期的な資産形成の成否を分けることになります。

今回は、高値からの下落率である「ドローダウン」に焦点を当て、自身の運用を客観的に振り返る方法を解説します。


右肩上がりだから大丈夫?投資の“痛み”を測る「ドローダウン」...の画像はこちら >>

なぜ「ドローダウン」から学ぶのか

 投資の評価といえば、一般的には「リターン」と「リスク」の二つが語られます。しかし、資産運用におけるリスクの概念は想像以上に奥深く、納得感を持って受け入れるには、じっくりと考えるプロセスが欠かせません。


 そこでまずは、細かな計算や統計的な考え方はいったん横に置き、リスク管理の指標として最も直感的で分かりやすい「ドローダウン」からひもといていきます。


 ドローダウンとは、投資期間中における直近高値からの下落率を指します。中でも、その期間で最も深く落ち込んだ地点を「最大ドローダウン」と呼びます。


 例えば、図表1のような長期のパフォーマンスのグラフでは、一見すると順調な右肩上がりの推移をしているように思えます。しかし、対象期間が長くなるほど、途中の下落局面は平坦に見えてしまいがちです。その裏側には、実は意外なほど大きな下落幅や、直近の高値回復までに要する長い期間が隠れているものです。


図表1:S&P500指数のパフォーマンス推移(上側)とドローダウン推移(下側)
右肩上がりだから大丈夫?投資の“痛み”を測る「ドローダウン」とは
※1996年3月末~2026年3月末のS&P500指数(配当込み・円換算ベース)月次データを使用。パフォーマンス推移(上側)は1996年3月末を100として指数化。※シャドーは米国の景気後退期。出所:Bloomberg、全米経済研究所(NBER)のデータをもとに筆者作成

 ドローダウンを確認する上で特に着目すべきは、「最大ドローダウンの大きさ」と「回復までに要した期間」です。例えば、リーマンショックの期間においては、一時的な下落率が60%程度と非常に大きく、回復までに約6年を要しました。こうした期間は、投資家が市場にとどまり続けるための忍耐力が試される時間です。


 近年を振り返っても、2022年の主要先進国の金融引き締めや2025年の米政権による関税政策などを背景に、大きく下げる局面がありましたが、為替差益がマイナスリターンを一部相殺したことや、比較的短い期間で株価が戻ったことなどから、リーマンショック時ほどのインパクトには至りませんでした。


 ゆえに、こうした下落期間も何とか乗り越えられた方が多いかもしれません。しかし、今後も同様に短期間で回復するとは限らず、直近の経験だけで「自分は大丈夫だ」と過信するのは禁物です。


 過去の下落水準や回復期間を知っておくことは、相場急変時に感情に流されず、自身の投資判断を貫く助けとなります。下落時の状況を想定し、資金計画に無理がないかを確認しておきましょう。


資産の配分で「下落の波」を小さくする

 過去のドローダウンの水準を確認し、その大きさに耐えられないと感じた方は、下落耐性を高める仕組みが必要です。その一つが、複数の資産を組み合わせる「分散投資(アセットアロケーション)」です。


 図表2では、株式のみで運用した場合と、債券や金を組み合わせた場合のドローダウンを比較しました。ここでは各資産を均等に配分するシンプルな構成をとっています。それでも、異なる値動きをする資産を組み合わせることで、ポートフォリオ全体の下落要因が相殺され、資産減少の痛みが緩和されることが見て取れます。


 もちろん、守りの資産を組み入れることは、リターンの水準を調整することでもあります。しかし、うまく組み合わせることができれば、それ以上にドローダウンを抑制する効果が大きく、投資効率(リスクあたりのリターン)を高めることが期待できます。


 自分にとって心地よいバランスを見つけることが、長く投資を続けるための土台となります。このリスクとリターンのバランスを考慮した資産配分の考え方については、次回に具体的なモデルケースを交えて解説します。


図表2:株式のみに投資した場合と債券、金にも分散投資した場合のドローダウン推移の比較
右肩上がりだから大丈夫?投資の“痛み”を測る「ドローダウン」とは
※1996年3月末~2026年3月末の月次データを使用。※株式:MSCI オール・カントリー・ワールド・インデックス(配当込み、円換算ベース)、債券:ブルームバーグ・グローバル総合インデックス(円ヘッジあり・なしを各50%ずつ合成、トータルリターン)、金:LBMA Gold Price(円換算ベース) ※上図は過去のデータを用いたシミュレーションであり、将来の投資成果を示唆・保証するものではない。また、例示した資産配分を推奨するものではない。出所:Bloombergのデータをもとに筆者作成

 また、購入タイミングを分散することも一つの選択肢です。ただし、これはドローダウンそのものを抑える効果は限定的である点に注意が必要です。例えば、全世界株式へ投資するインデックスファンドを例にとると、図表3が示すように、市場の急落局面においては、一括投資と変わらないほど資産が減少することもあるからです。


 しかしながら、継続的に資金を投入していく場合は、下落局面での買い付けが平均的な購入単価を引き下げ、相場回復時の損益が、比較的早くプラスに戻る傾向があります。加えて、資金を一度に投じることへの心理的な抵抗感を和らげ、長期的な投資を継続しやすくするという意味で、個人投資家にとって現実的な支えとなることでしょう。


図表3:一括投資と積み立て投資における資産評価額の下落率(ドローダウン)の比較
右肩上がりだから大丈夫?投資の“痛み”を測る「ドローダウン」とは
※いずれも全世界株式インデックスファンドに投資する場合を想定。一切の手数料や税金は考慮せず。※一括:1996年3月末に資金を一括投資。毎月分割:毎月末に一定金額を継続投資。※上図は過去のデータを用いたシミュレーションであり、将来の投資成果を示唆・保証するものではない。出所:Bloombergのデータをもとに筆者作成

ドローダウンを理解し、リスク管理の精度を高める

 今回は下落の深さであるドローダウンに焦点を当てました。「長期では右肩上がり」という常識を一度立ち止まって考え、ドローダウンを把握することは、無理のない資産運用の計画を立てる第一歩です。


 まずは、ご自身の保有資産が過去の下落局面でどの程度減少したのか、あるいは今後どの程度までなら耐えられるのかを一度確認してみましょう。この「想定内の下落幅」を把握しておくことが、長期投資を完走するための防衛策となります。


 次回は、資産運用におけるリスクを定量的に確認し、資産を組み合わせることの意味を解説します。なぜ分散が下落の抑制につながるのか、資産配分を検討するための考え方を整理します。


(上源 悠詞)

編集部おすすめ