「高低差が非常に小さなエレベーター」を見かけることがあります。背景には、国の基準や方針が関わっていることがあります。

大人の腰ほどの高さしかない高低差

 駅構内などで「ちょっとだけ昇り降りする」エレベーターを見かけることがあります。隣の階段と比べると、わずか6段分の高低差のものも。エレベーター本体の背丈の3分の1ほどしかありません。

階段6段分!? 高低差小さいにもほどがあるエレベーターなぜ増...の画像はこちら >>

JR恵比寿駅のエレベーター(2020年9月、乗りものニュース編集部撮影)。

 たとえば、JR恵比寿駅西口の改札を出て左側に進むと、すぐ先に6段の階段がありますが、この傍らに小さなエレベーターが設置されています。ドアが閉まって昇降を始めると、わずか数秒で「次の階」に到着。なんともシュールな光景です。

 似たような「ちょこっとエレベーター」、山手線の高田馬場駅や南武線の宿河原駅、久地駅などにもあります。それぞれわずか6段から9段分の高低差になっています。

 なぜこんなエレベーターが生まれたのでしょうか。一番の理由は明快で、これだけの段差といえども、車いす利用者や身体の不自由な利用客には大きな障壁になり、駅員などに介助を行ってもらう必要があったからです。

 当然ながら、駅の入口からホームまでの動線上に1か所でも大きな段差があれば、自力での通り抜けには困難をともないます。

短いエレベーターは「珍百景」というより、バリアフリーの観点から「本来あるべき姿」になったという表現が正しいでしょう。

 では、これらが単なるスロープではなく、エレベーターなのはなぜでしょうか。

国と自治体、鉄道事業者が進める「駅のバリアフリー化」

 スロープの設置に当たっては、「バリアフリー法(高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律)」で定められた「勾配12分の1以下」という基準があります。この計算では、大人の腰ほどの高さ(1m)でも、12m以上の水平長さが必要。この長さを稼ぐため、駅によっては「ジグザグに往復する」スロープになっているところもあります。

 しかし、住宅地や商業地にあって駅のスペースも限られている場合、スロープを設置する十分なスペースが確保できず、エレベーターが採用されるケースが多くなっています。

 また、国土交通省はバリアフリー法に基づく「移動等円滑化の促進に関する基本方針」で、「平成32年度までの整備目標」として、国内におよそ3450ある「1日平均利用者数3000人以上の駅」を、原則バリアフリー化するという目標を打ち出しています。この目標を元に、経費の3分の1を国が、残りは自治体と事業者が負担する「バリアフリー化設備等整備事業」が開始されたことにより、全国で一気にバリアフリー化工事が進みました。

 この国庫補助事業は、エレベーターやスロープに加え、ホームドアや「内方線付き点状ブロック」、障害者対応トイレの設置等も対象となっています。

 

【動画】上の階が半分以上見えているエレベーター
編集部おすすめ