阪急・阪神の駅コンビニ「アズナス」が全店ローソンへ転換。JRも含め鉄道会社ごとに展開されていた独自ブランドの「鉄道系コンビニ」が、大手コンビニチェーンへ看板を掛け替えるケースが相次いでいます。

その独自性は残るのでしょうか。

ちょっと変わった品揃えの阪急「アズナス」惜しまれつつ消滅へ

 大手鉄道事業者が独自ブランドで展開していた「鉄道系コンビニ」の多くが、大手コンビニチェーンに吸収される形で次々とその看板をおろしています。2021年6月には阪急阪神東宝グループの小売部門を統括するエイチ・ツー・オーリテイリングが、阪急線と阪神線の駅構内を中心に展開する「アズナス」を「ローソン」へ全店転換すると発表。緑色が映える同ブランドの看板は、2021年度中に姿を消す予定です。

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阪急の駅で展開する「アズナス」の例。ローソンへの転換が決まっている(宮武和多哉撮影)。

 1995(平成7)年に、日本初の“駅ナカコンビニ”として阪急十三駅にオープンしたアズナスは、のちに京阪・南海・阪神の3社で展開する「アンスリー」のうち阪神電鉄の店舗や、駅構内の小型店を営業していた「ラガールショップ(阪急)」、「アイビーショップ(阪神)」などを「アズナスエクスプレス」として取り込み、最盛期には98店を数えるまでに成長しました。阪急沿線の主要な駅にはほぼ、店舗があったと言って良いでしょう。

 アズナスは大手コンビニチェーンでは見られない品揃え・店舗作りに特徴があり、恵まれた駅ナカ立地にとどまらない客層を取り込んでいました。頻繁に展開するフェアの充実ぶりは目を見張るものがあり、北海道・東北の物産展なら目立つ場所に「ガラナ」(北海道限定の炭酸飲料)、「高橋製菓のビタミンカステーラ」(北海道)、「おしどりミルクケーキ」(山形県)、乳製品のフェアなら「オブセ牛乳」(長野県)、「葛巻高原牛乳」(岩手県)など、デパートの物産展でもあまり見かけない品々を揃えて楽しませてくれました。

 店舗によっても品揃えの傾向が違い、お酒のつまみやドライフルーツが恐ろしく充実していたり、チョコのラインナップが突出していたり。もちろん鉄道グッズも豊富で、車両がデザインされたボトルキャップやオリジナル包装の菓子など、「鉄道系コンビニ」ならではの楽しみ方もできる貴重な存在でした。

 他社を見ても、JR西日本系列の「ハートイン」はセブンイレブンに、近鉄系列「K-PLAT」や名鉄系列の「サンコス」はファミリーマートへの転換が進行中です。直近では、京王電鉄の駅構内で展開される「A LOT」「K-SHOP」が2022年4月までにセブンイレブンへ転換されることが発表されたばかり。なぜ独自ブランドが消えていくのでしょうか。

大手チェーンのスピードには勝てなかった?

 いま日本で多く見られる郊外型コンビニの源流となった店舗は、昭和40年代後半に次々と登場しましたが、この頃に、鉄道弘済会が運営していた駅売店にも「Kiosk(キヨスク・キオスク)の愛称が付けられています。

 鉄道駅構内の売店は、ホームや階段横の狭小なスペースを活用し、人員ひとりで十分に切り盛りできる店舗が数多く出店されていった一方で、昭和30年代以降、コンコースなどの広い場所では郊外型コンビニに近い形態も登場。この2つの流れで展開されてきました。

 その後はコンビニそのものが増加したことで、駅ナカで物品を買う機会が少なくなり、駅構内の店舗は徐々に利用客が減少するようになります。また近年、大手コンビニ各社は限られたスペースで営業する「マイクロコンビニ」と呼ばれる形態を病院・オフィスなどで展開し、そのノウハウをもとに駅構内の狭小スペースにあった売店を徐々にリニューアルしていました。業界自体の再編の流れもあり、それぞれの鉄道系コンビニは争奪戦の様相を見せながら、急速に大手各社の店舗へ置き換わっていったのです。

なぜ消えゆく「鉄道系コンビニ」阪急阪神アズナスもローソンに オリジナリティは残るか

JR西日本管内の「セブンイレブン ハートイン」。かつてのハートインの文字がわずかに残る(宮武和多哉撮影)。

「鉄道系コンビニ」は立地で有利な店舗も多く擁していたものの、デイリー商品(弁当・おにぎり・パンなど)や日配商品(牛乳・チルド飲料など)の供給を大手取引先に支えられる全国チェーンに比べると、独立系列であるが故に利益を上げにくい環境だったともいえます。

また「アズナス」が関西私鉄を中心に展開されていたPiTaPa以外の電子マネー対応で大幅に遅れをとったように、コンビニ業界全体の潮流にも取り残されがちです。今後の競争や、業界自体の変化を考えると、よほどの独自性を打ち出さない限り、独立性を保つことは難しかったのかもしれません。

]鉄道系コンビニ最後の牙城? NewDaysの実力

 全国で鉄道系コンビニの消滅が続く中、JR東日本の駅構内で展開される「NewDays(ニューデイズ)」は、大手チェーンと距離をおいたまま独自の地位を築き上げています。同店は、JR東日本系列のコンビニだった「JC」や、Kiosk由来の売店形態だった「ミニコンビ」からの流れを汲む店舗が多く、駅構内ならではの工夫も至るところで見られます。

 店頭には大画面のデジタルサイネージ(NewDaysビジョン)を設置し、常に音声付きのCMを流し続けることで、鉄道利用者の認知度を大きく上げることに成功しました。ちなみに、現行のサイネージが導入される前の2015(平成27)年から一貫して、女優の芳根京子さんがイメージキャラクターに起用されています。

 また客の回転率の高さや、交通系IC(Suicaなど)支払いの多さも駅構内ならでは。加えてピーク時の混雑を緩和するため、2009(平成21)年からセルフレジや無人レジの導入を積極的に進めていたことで、コロナ禍前から全体客数の2割を無人レジ利用が占める店舗もあるそうです。

 出店のほとんどが鉄道施設に限られるため、店舗数は500弱と大手チェーンと比べれば小規模ですが、全店日販(1日の売り上げ平均)はおおむね60万円弱と、セブンイレブンを追撃する位置にいます。パンやおにぎりなどで目を疑うような独自路線を走るものがあるなど、商品群を見るだけでも、その基盤を築き上げた力量が伺えます。

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ニューデイズ。小さな店舗でもデジタルサイネージによるCM展開が見られる(宮武和多哉撮影)。

 かたや、かつて独立系の鉄道コンビニだった店舗は、大手チェーンのフランチャイザー(一定の手数料を支払うことで商標や商品供給を得る)として、看板だけ掛け替えて存続するケースが多く見られます。

 ただ、なかにはJR西日本管内の「セブンイレブン ハートイン」のように、わずかに往時の名前を残して鉄道グッズの扱いを継続するようなケースもあれば、ローソンの傘下に入った山陽電鉄系列「フレンズショップ板宿店」のように、あえて店舗の外観を鉄道車両に模したデザインに作り替え、しっかりと「鉄分」を残すようなケースも。また、地方私鉄の駅構内では未だに個性的なコンビニ・物販店が残っており、たとえば長野電鉄の長野駅では、キノコ、ぶどう、野沢菜の品揃えが群を抜く構内売店が健在です。

 今回その歴史に幕を閉じる阪急のアズナスは、運営会社がローソンのフランチャイズオーナーとなり、全店ローソンへ転換されます。沿線住民を楽しませてくれたその多様さが、少しでも受け継がれることを願ってやみません。