「全般検査」という、新幹線車両の大掛かりな検査を行っているJR東海の浜松工場。2017年1月、その方法が一新され、同工場の名物「空飛ぶ新幹線」も新しい形になりました。

今度は「レールが隆起」です。

消えた「名物」

 2017年1月から、JR東海の浜松工場(静岡県浜松市)で新しいラインが稼働し始めました。

 同工場は新幹線車両の製造ではなく、整備や改造を行う場所。鉄道車両にもクルマの車検のような定期検査があり、浜松工場ではそのうちもっとも大掛かりな「全般検査」という、車両から部品を取り外して細部まで検査、修繕する作業を行っています。JR東海の新幹線車両は120万キロの走行、もしくは36か月以内にこの浜松工場へ「入場」。全般検査を受け、再塗装されたピカピカの状態になって再び「のぞみ」などとして走り出します。

 この浜松工場における全般検査のライン、かんたんにいえば全般検査の設備とその流れが2017年1月、新しくなりました。

 これにより検査に要する時間の短縮、作業環境の向上などさまざまな改善が実現しましたが、一方で浜松工場のある“名物”が姿を消しました。「空飛ぶ新幹線」です。

 新幹線車両が浜松工場で全般検査を受けるにあたって、「車体上げ」という作業が行われ、車体と台車(車輪のある部分)が分離させられます。

 これまで浜松工場の車体上げ作業で採用されていたのは、車体をクレーンでつり上げる方法。そのため、クレーンでつられた新幹線の車体が空中を移動する姿が見られました。

検査で空を飛ぶ新幹線が見られるのはこの浜松工場だけだったこともあり、例年夏に行われる工場の一般公開イベント「新幹線なるほど発見デー」では、その実演が人気を集めていました。

 新しいラインでは、車体上げ作業がクレーンを使わない方法になり、「空飛ぶ新幹線」が見られなくなったのです。

新しい方法は「レールが隆起」し、そして…

 新しいラインでは、車体をクレーンでつり上げるのではなく、リフティングジャッキで持ち上げる方法になりました。

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リフティングジャッキで持ち上げられる前のN700系(2017年1月、恵 知仁撮影)。

 車両の周囲に青緑色のリフティングジャッキが4つありますが、まず、これを使わずに車両が持ち上げられます。

さよなら「空飛ぶ新幹線」 新しい方法は「レールが隆起」 JR東海・浜松工場

レールごと持ち上がったN700系(2017年1月、恵 知仁撮影)。

 地面のレール部分が“隆起”し、レールごと車体が持ち上げられるのです。そして1mほどの高さで停止。そこで、車体と台車を切り離す作業が行われます。

 この点は、浜松工場新ラインにおけるひとつのポイント。旧ラインでは全般検査で車体と台車を分離させる際、作業員がピット、かんたんにいえば穴にもぐって、その作業を行っていました。対し新ラインでは台車ごと車両全体が持ち上がるため、自然な姿勢で分離させることが可能に。

「作業環境の改善」につながっているそうです。

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車体と台車が分離したN700系(2017年1月、恵 知仁撮影)。

 レールごと持ち上がり、車体と台車が分離したところで、持ち上がったレール部分が下降。このとき、車体は左右4つのリフティングジャッキで支えられるため、台車だけ下りてきます。

終わらない上昇 理由は「ある機械」を使うため

 車体は台車と分離したあとも、さらに持ち上げられます。「ある機械」を使うためです。

 浜松工場の全般検査で車体と分離した台車は「台車検修場」に運ばれ、徹底的な検査、メンテナンスが行われます。つまり分離した台車は、台車検修場へ運ばねばなりません。

 これまで浜松工場では、分離した台車を人力で運んでいましたが、新ラインでは台車を運ぶ機械を導入。その機械が車体の下に入れる十分な高さを確保するため、分離作業の終了後、さらに車体を上げるのです。

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台車(右)を運ぶ機械(2017年1月、恵 知仁撮影)。

 機械で台車を運ぶのも、新ラインで実現した「作業環境の改善」のひとつ。

そのほか新ラインの、この車体上げ作業などを行う「解体場」と呼ばれる場所では、床面に照明を設置して明るい環境で作業できるようにする、車両に付着したちりなどを吹き落とす気吹き作業専用のブースを設け粉塵の飛散を防止する、といった「作業環境の改善」が実現しているそうです。

 また、以前のクレーンを使った車体上げ作業では、操縦する2名のオペレーターにクレーンの国家資格が必要。対し、新しいリフティングジャッキを使う方法ではそれが不要というメリットもあるといいます。

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「新幹線なるほど発見デー」でクレーンにつり上げられ、空を飛ぶ「ドクターイエロー」(2015年7月、恵 知仁撮影)。

 新ラインへの移行で、唯一の「空飛ぶ新幹線」が見られなくなったのは寂しい部分もありますが、その裏ではさまざまな改善が実現していました。また、レールが部分的に“隆起”して全長25mの新幹線車両が持ち上がっていく姿は、それはそれで非日常的で不思議な光景。今後、浜松工場の一般公開イベント「新幹線なるほど発見デー」でそれが実演されるかは不明ですが、行われた場合、この車体上げ作業はひきつづき人気を集めるかもしれません。

【写真】空飛ぶ新幹線、下から見ると普通は見えないものが…

さよなら「空飛ぶ新幹線」 新しい方法は「レールが隆起」 JR東海・浜松工場

クレーンでつり上げられたN700系。普段は隠れている車体下部の構造が分かる(2016年9月、恵 知仁撮影)。

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