そっくりな自爆ドローンたちの源流は

 夜空に響く不気味な甲高いピストンエンジン音。都市やインフラに突入する自爆ドローンは、比較的低速のため動画でも捉えられやすく、今や現代戦を象徴する存在となりました。

なかでも注目されているのが、イラン製の「シャヘド136」です。ロシアはこれを「ゲラン2」として量産し、さらにアメリカも類似コンセプトの「LUCAS」を運用し始めています。

【似てる…】各国のデルタ翼自爆ドローンを見る(写真)

 興味深いのは、これらがいずれも「デルタ翼・後部プロペラ・翼端の垂直板」という、ほぼ同じ形をしていることです。まるで互いに模倣し合っているように見えますが、そのルーツをたどると、意外にも1980年代のドイツに行き着く可能性があります。

 冷戦期の1980年代初頭、西ドイツのドルニエ社はアメリカと共同で敵レーダーシステムを探知・攻撃するための無人機ドルニエ・対レーダードローネ(DAR)を開発していました。ドルニエ社といえばドイツの航空機メーカーとして有名です。三角形のデルタ翼、胴体と主翼が一体化した構造、後部にエンジンとプロペラを配したプッシャー式、翼端垂直安定板というレイアウトは、現代の自爆ドローンとよく似ています。

 もっともこのレイアウトは、標的機など無人機としては一般的な形状でした。しかしDARは電子機器や誘導技術が未成熟で、さらに冷戦終結の影響もあり実用化には至りませんでした。

 このコンセプトを兵器として完成させたのが、イスラエルです。DARの基本設計はIAI(イスラエル・エア・インダストリ)社に売却されて結実します。代表作が「IAIハーピー」です。

これは「徘徊型弾薬」と呼ばれ、従来の無人機ともミサイルとも異なるカテゴリーの兵器でした。ハーピーは一定時間空中を飛び回り(徘徊)、敵レーダーを発見すると自ら突入して破壊します。

 ここで重要なのは、従来の無人機とは異なり最初から使い捨てを前提とした攻撃兵器である点です。高価高性能なミサイルではない、大量に運用できる、発射時に敵を発見している必要はない、飛行中に目標を変更できるなど柔軟な攻撃が可能――という新しい攻撃手段が実現したのです。

 その思想をさらに発展させたのが、イランのシャヘド136です。国境を接していないイスラエルに対する長距離攻撃手段を求めていたイランは、弾道ミサイルだけでなく「敵に学ぶ」形でこの種の兵器にも注目しました。

イランが進化させた「貧者の巡航ミサイル」

 シャヘド136の特徴は明確です。民生品を活用した低コスト設計、シンプルで大量生産しやすい構造、GPSと慣性航法による長距離飛行能力です。これにより徘徊型弾薬は、局地戦向け戦術兵器から「貧者の巡航ミサイル」、すなわち廉価版の戦略兵器へと進化しました。

 これら機体の外形はDARと非常によく似ており、専門家の間でも類似性が指摘されています。ただし、直接的な技術継承があったかどうかは確認されていません。系譜として連続している可能性はあるものの、具体的な技術移転の有無は不明です。

 さらに興味深いのは、航空機先進国であるアメリカやロシアも同じ答えに行き着いている点です。ロシアはシャヘドをゲラン2として量産し、巡航ミサイル不足を補う消耗戦兵器としてウクライナ戦争に大量投入しています。

 一方アメリカも、安価な脅威に対抗するための対称戦力としてLUCASを導入し、対イラン作戦で実戦に初めて投入しました。「敵に学んだ兵器」をその「敵」に使用するという皮肉となりました。

「敵に学ぶ」とはいっても、単に形状を模倣したわけではありません。デルタ翼とプッシャーという構成は、低コスト・シンプル構造・量産性といった条件を突き詰めた結果として導かれた、いわば技術的な最適解です。その意味で、シャヘドの完成度の高さは特筆すべきものがあります。

 むしろ各国が学んだ本質は、形ではなく戦い方です。すなわち、安価なドローンを大量投入することで、高価な迎撃手段を消耗させる「コストの非対称性」を利用した戦争です。これは従来の「高性能兵器同士の戦い」とは全く異なる発想でした。

 近年、戦略兵器は守るも攻めるも高性能を追い求め複雑高価になっています。超高速滑空弾やイージスシステムはその典型です。

そうした流れに対し、イランの自爆ドローンはまったく逆の方向から一石を投じました。

 1980年代のドイツで構想され、イスラエルが実用化し、イランが戦略兵器へと昇華させ、そしてアメリカやロシアも採用する――この流れは、単なる技術の模倣や伝播ではありません。「安価に遠くを攻撃する」という普遍的な課題に対し、各国が同じ答えにたどり着いた結果といえるでしょう。

 そして今、その“シンプルな答え”は戦場だけでなく、国家の防衛のあり方そのものに問いを突きつけています。高価な兵器で守り続けるのか、それとも安価な脅威に見合った新たな防御の形を模索するのか。デルタ翼の自爆ドローンは、戦争の未来を変えつつあります。

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