「止まるまで座っていて」は単なるマナーではない?

 バスの停車前に席を立とうとして「止まってからお立ちください!」と注意された経験はありませんか。実はその裏には、運転士が人生を左右されかねない重い法的責任を背負っているという切実な事情がありました。

いったい、どういうことなのでしょうか。

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 目的地にバスが近づくと、つい早めに席を立ってしまうことがありますが、実はこうした行動はバス業界が最も恐れる「車内事故」に直結しています。

 日本バス協会の資料では、バス事故全体の約3割を車内事故が占めるとされ、負傷者には高齢者が多いという傾向も示されています。決して珍しいことではありません。

 とくに、周囲の車両による無理な割り込みなどで急ブレーキをかけた際、席を立っていた乗客が転倒してしまうと、事態は非常に深刻です。単なる「マナーの問題」では済まされない、バス特有の難しさがここにあります。

 では、もし車内で転倒事故が起きてしまったら、運転士はどうなるのでしょうか。そこには、一般にはあまり知られていない厳しい現実が待ち受けています。

転倒事故が起きたら最後……運転士を待ち受ける「安全運転義務」の壁

 車内で乗客が転倒し負傷した場合、運転士は道路交通法第70条の「安全運転義務違反」に問われる可能性があります。この違反には反則金や違反点数が科される可能性があります(具体的な金額や点数は車種や状況によって異なる)。

「勝手に転んだ客」のせいで前科持ちに!? バス運転士が「止ま...の画像はこちら >>

バス会社が絶対に転倒事故を避けたい理由とは?(画像:写真AC)

 さらに人身事故となった場合、事故の態様によっては、自動車運転死傷行為処罰法の過失運転致死傷罪に問われる可能性があり、有罪となれば7年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金が科されることになります。

「乗客が勝手に立ったのだから自業自得ではないか」と思うかもしれません。

しかし、判例や実務上は「周囲の車両による無理な割り込みがあったかどうか」「発進・停車時の安全確認が十分だったか」「加減速が適切だったか」などが詳細に検討され、結果として運転士の注意義務違反が認定されるケースも少なくないのです。

 また、重大な人身事故が発生すると、運転士個人だけでなくバス会社に対しても、法令違反の内容によっては「輸送施設の使用停止」や「事業停止」などの行政処分が行われる可能性があり、こうした処分は路線の維持や会社の社会的信用に極めて大きな影響を及ぼします。

 運転士からの「お座りになってお待ちください」という厳しい注意は、乗客の安全を守るためであると同時に、自らの運転士人生や、地域の足であるバス路線を必死に守るための叫びでもあるのです。

 最後に、運転士からの「お座りになってお待ちください」という声には、乗客の安全だけでなく、運転士の人生や地域の足であるバス路線を守るという、非常に重い意味が込められていることをぜひ知っておいてください。

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