歴史的な防衛装備品輸出の第一歩

 小泉進次郎防衛大臣とオーストラリアのリチャード・マールズ副首相兼国防大臣は2026年4月18日、メルボルンに停泊中の護衛艦「くまの」艦上で、「オーストラリア汎用フリゲート事業に関する協力覚書」、いわゆる「もがみメモランダム」に署名。これに合わせて三菱重工業は同日、オーストラリア政府ともがみ型護衛艦の能力向上型3隻の建造契約を締結したことを発表しました。

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 なお、同艦に搭載する主な日本製装備品では、三菱電機が搭載システム、日本電気が通信・航法関連機器などの装備品、日立製作所が艦艇装備型ソーナーシステムと水中装備品をそれぞれ受注しています。

 そして、4月21日には防衛装備移転三原則と運用指針の一部改正によって殺傷・破壊能力を持つ日本製防衛装備品の輸出に道が開かれたことから、オーストラリア海軍の次期汎用フリゲート(GPF:General Purpose Frigate)事業は、今後の試金石として注目されています。

 加えて、オーストラリアのお隣ニュージーランドも、自国海軍のアンザック級フリゲートの後継候補に、もがみ型能力向上型とイギリスの31型フリゲートを挙げており、オーストラリアに続く採用の可能性も出ています。

 しかし、GPFの行方は楽観視できません。もがみ型能力向上型のオーストラリア輸出に関して、ネックとなりそうなのはどこなのでしょうか。

GPF事業が抱える問題

 そもそも、オーストラリア海軍はアンザック級フリゲート8隻の後継艦としてGPFを11隻導入します。そのうち日本国内で建造する1番艦は、3月の契約締結から約3年9か月後の2029年12月に納入、2030年に運用を開始する予定です。

日本の護衛艦「もがみ型」豪州への輸出に不安視も… 軍事専門誌記者が憂慮する“ボトルネック”とは
オーストラリアがイギリスから導入予定のハンター級フリゲートのイメージCG(画像:オーストラリア海軍)

 ベースになる設計があるとはいえ、アメリカ海軍のコンステレーション級フリゲートに比べると、あまり余裕のない建造スケジュールなのは何故なのでしょうか。そこには、オーストラリア海軍の艦艇建造計画が迷走してきた過去が影響しています。

 オーストラリア政府が最初にアンザック級の後継として導入を計画したのは、GPFではなく、ハンター級ミサイルフリゲートでした。ハンター級は、イギリス海軍の26型フリゲートをベースに、SPYレーダーではなくオーストラリア企業のレーダーを使ったイージスシステムを搭載したのが大きな特徴です。このハンター級を国内で9隻建造し、ホバート級駆逐艦3隻とともに運用する構想でした。

 しかし、設計に際してオーストラリア海軍の独自要求を数多く取り入れたことや、たび重なる設計変更などによって、1番艦の就役は当初の2028年から34年へと大幅に遅れたほか、建造費も急増しました。一方で、アンザック級の1番艦は2024年5月に退役し、2番艦も2026年に退役予定と、ハンター級の就役までに水上戦闘艦が不足する状況が避けられなくなったのです。

 そこで、アルバニージー政権は2024年2月、海軍再編計画を発表。この一環として、ハンター級フリゲートの建造数を6隻に減らし、代わりにGPFの導入が決定しました。そして、並み居るライバルを押さえ、もがみ型能力向上型が選定されたことは、前述のとおりです。

GPF計画の懸念材料とは

 こうした経緯から、GPF事業では戦力化までのスケジュールの順守が求められています。そこで、オーストラリア政府は、戦闘システムの英語表示への変更などを除けば、三菱重工業の提案をそのまま導入する方針です。また、アンザック級の戦闘指揮システムに携わったサーブ・オーストラリア社もGPFで協力する意向を表明しています。

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「Sea Japan」で展示された新型FFMの模型(乗りものニュース編集部撮影)

 ただし、もがみ型能力向上型は、日本製の魚雷やアスロック(魚雷投射ロケット)、17式艦対艦誘導弾、23式艦対空誘導弾などを搭載するのに対し、オーストラリア海軍は別種の魚雷や誘導弾を運用しており、戦闘システムの改修が必要になるかもしれません。しかし、仮にそれ以上の仕様変更の要求が生じた場合にどう対処するか、日豪のプロジェクト・マネージメントが課題となりそうです。

 他方で今回、オーストラリア政府と三菱重工業が締結した契約は、最初の3隻を日本国内で建造するという内容です。そして契約はまだですが、4隻目からは西オーストラリア州パースにあるオースタル社のヘンダーソン造船所で建造されます。

 同社は、アルミニウム製艦艇の建造で知られますが、現地の造船所は鉄鋼製艦艇の建造経験が乏しく、鉄鋼を使用して高い精度が求められるステルス艦の建造経験もありません。したがって、GPFを日本国内と同じ技術水準で建造することは容易ではないでしょう。

 このようにオーストラリア国内でのGPF建造にはさまざまな問題が潜んでおり、計画遅延やコスト増が起きれば、ハンター級のように建造数削減のおそれもあります。それを防ぐうえでも、オーストラリアに日本の造船技術を移転し、建造能力や維持整備基盤の構築に向け、いかに支援を進めていくかが、成否のカギになると思います。

【写真】豪州のシンボルが付与された「改もがみ型フリゲート」です

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