小規模な鉄道会社でなくても、1編成分しか製造されなかった車両が存在します。新技術を採用し、試作のため元から1編成しか製造しなかったなど、理由は様々です。

中には会社の記念に1編成だけ製造した例もあります。

1編成で製造が終わった車両 JR・私鉄・電気機関車にも

 鉄道会社が新形式の車両を投入する際は、小規模な会社を除き一般的には複数の編成が製造されます。また、車両の仕様はできるだけ揃えたほうが保守や旅客サービスの面からも有利なので、通勤形や特急形など、同じ用途の車両はできるだけ同じ形式で製造するのがセオリーです。

 しかしそういったセオリーに反して1編成しか製造されなかった車両も少なからず存在します。どういった理由で1編成だけの車両が生まれたのでしょうか。

新技術を見極めた

 鉄道車両の技術は速達性、快適性、経済性など様々な要素が日々ブラッシュアップされています。そういった新技術を導入する際、鉄道会社においてその技術は有用かどうかを見極めるために、1編成だけ試作して営業運転に投入するケースがあります。

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様々な新技術を盛り込んで製造されたJR東日本のE331系電車。量産には至らず1編成の製造にとどまった(2010年9月、児山 計撮影)。

 たとえばJR東日本のE331系電車は、ふたつの車体の間にひとつの台車を設けた連接構造や、新しい走行システムなど、これまでの通勤形車両とは全く異なる技術を試すために製造されました。結果としてE331系に投入された技術は「時期尚早」として本採用には至らず、1編成のみに終わりました。

 このほか新世代電気機関車として開発されたED500形やEF500形なども実用には至らず、1両の製造にとどまった車両です。

 私鉄でも東武鉄道の10080型電車などが、新しい制御器のテストケースとして1編成だけ製造されています。しかし10080型の場合は将来を考えて、制御器以外はこれまでの10030型と互換性を極力持たせていました。

当面の間1編成だけで事足りた 次の置き換え時には新形式が登場

 ダイヤ改正で列車本数が増えると、それに応じて必要な車両数も増えていきます。その際に1編成分の運用が増え、かつ以前の車両の製造から年月が経過していた場合、新形式の車両が1編成だけ製造されることがあります。

 通常はその後、従来車両の老朽化などで車両の置き換えが必要になれば、第2編成、第3編成……と同形式の車両が増備されていきますが、車両の置き換えや増発までしばらく時間が開き、その期間にさらなる新技術が実用化された場合は、結果的に1編成だけの孤立した形式が生まれるケースがあります。

 この例では営団地下鉄(現・東京メトロ)06系電車がそれにあたります。06系は、1993(平成5)年のダイヤ改正で千代田線の運用本数が1編成分増加することになり、製造された車両です。

鉄道「レア車両」はなぜ生まれる? 1編成で製造打ち切り それぞれの理由

ダイヤ改正による増発のため、1編成だけ製造された営団地下鉄(現・東京メトロ)06系電車(2007年3月、児山 計撮影)。

 もしこの後にも増発や旧型車両の置き換えがあれば、06系は量産されたかもしれません。しかし千代田線はしばらく車両増備の機会がなく、在来車両である6000系電車の置き換えが始まったのは2010(平成22)年のことでした。この時は新形式の16000系電車が製造されています。

 似たような理由で1編成の製造にとどまったのが国鉄の207系電車900番台ですが、こちらはすでに量産が進んでいた203系電車を増備せず、あえて新技術を組み込んだ新形式を製造したケースです。

上述したふたつのケースを理由として生まれた車両と言えます。

 ほかにも車両の用途によっては、当初より1編成しか製造しないと決められていた形式も少なくありません。

「1編成しか製造しない」と決められていた車両

 JR東日本の豪華寝台列車「TRAIN SUITE 四季島(トランスイート しきしま)」、JR西日本の「トワイライトエクスプレス瑞風(みずかぜ)」、JR九州の「ななつ星in九州」といったクルーズトレインや、かつて寝台特急として走り、その後は団体臨時列車に使われるJR東日本の「カシオペア」の客車といった車両は、いずれも1編成分しか製造されていません。

 これらは定期列車のように複数編成を用意して、毎日運転する必要はありません。あらかじめ需要の高い時期に運転日を設定し、閑散期は運休するといった運行計画を組んでも差し支えないため、1編成で運行するケースがほとんどです。

鉄道「レア車両」はなぜ生まれる? 1編成で製造打ち切り それぞれの理由

寝台特急「カシオペア」に使われたJR東日本のE26系客車は1編成のみが製造された(2008年12月、児山 計撮影)。

 最後に、変わったケースとして「会社のメモリアルイヤーに記念で製造された」車両を紹介します。

 江ノ島電鉄の10形電車は江ノ電開業95周年を記念し、レトロ調のデザインで1997(平成9)年に新造されました。外観はこれまで緑色の車両が中心だった江ノ電の伝統を打ち破る、斬新なカラーとスタイルになっています。

 10形の投入で利用客は増加に転じましたが、その後の新車製造は10形をベースにしてはいるものの車体の色は従来の江ノ電カラーに戻し、造形も若干シンプルにした20形電車に移りました。最初から1編成しか製造しないと決められていた車両の中でも、江ノ電10形は珍しいケースです。

 しかしながら、ほかの車両と互換性を持たない1編成だけの車両は保守などの手間がかかるため、クルーズトレインのように特殊な用途を除いて、車両の寿命はあまり長くないのが一般的です。

 江ノ電10形は一般の車両と同じように長く使われていますが、これは設計段階で車体以外の足回りや設備の多くをほかの車両と共通化し、保守しやすくデザインされているためです。

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