J1リーグ第29節。勝ち点47で並ぶサンフレッチェ広島とホーム等々力で対戦した川崎フロンターレは、後半39分、マギーニョの決勝ゴールで勝利を飾り、勝ち点を50に伸ばした。
広島戦の話をすれば、勝つには勝ったが、サッカーは低調だった。
サンフレッチェ広島戦で決勝ゴールを決めたマギーニョ(川崎フロンターレ)
滑り出しはよかった。
このまま終われば、首位鹿島とは9ポイント差、3位横浜との差も8ポイント差に広がる。ほぼ満杯に埋まったスタンドには、広島サポの歓声ばかりが響き渡った。
ボール支配率は40対60。試合を優勢に進める広島に、逆転ゴールが生まれても不思議はない流れの中で、冒頭で述べたマギーニョの決勝弾は生まれた。
試合後、テレビのヒーローインタビューにもそのマギーニョが呼ばれていた。失点のシーンに関与していたので、自らのミスを自らの手で帳消しにしたことになる。
マギーニョは今季、川崎にやってきた右サイドバック(SB)だ。シーズン開幕を告げるゼロックススーパー杯(対浦和レッズ)、そしてリーグ戦初戦のFC東京戦こそ先発を飾ったが、その後は鳴かず飛ばず。
その後、右SBは今季広島から獲得した馬渡和彰が務めることになったが、この選手も結局、不動の選手にはならなかった。これまで出場機会は13試合(先発10回、交代出場3回、計977分)に終わっている。本来、左SBの車屋紳太郎や登里享平を右SBとして使うことで補ってきた。
昨季まで川崎の右SBのポジションはリーグ最強と言われ、2年連続ベストイレブンに輝いたエウシーニョが、デンと構えていた。川崎の2連覇に貢献したこの選手を手放した(清水エスパルスに移籍)ことと、リーグ3連覇がほぼ絶望になったことには、密接な関係があると言わざるを得ない。
川崎は、右SBの前方で構える左利きの家長昭博が内へ切れ込む傾向が強く、エウシーニョがいた時から、右のサイド攻撃は右SBに頼っていた。縦への推進力が求められたわけだが、マギーニョにその役は務まらなかった。馬渡も同様だ。家長がプレースタイルを変えることもなかったので、エウシーニョの放出は、そのまま右からの攻撃を弱体化させることになった。
サイド攻撃が弱体化すると、どのような現象が起きるか。なによりボール支配率の低下を招く。
川崎の場合、大島僚太、中村憲剛を中心に、真ん中にも優秀な人材がいるので、高いボール支配率を示す原因が、サイドに潜んでいるようには見えにくい。真ん中でパスがつながることにその原因があるように見えるが、それは充実したサイド攻撃あっての話なのだ。
ボール支配率が40%にしか達しなかったこの広島戦がいい例だ。この試合、エウシーニョと同じく昨季まで2年連続ベスト11に輝いた車屋紳太郎が累積警告で欠場。また4-2-3-1の3の右で構える家長も欠いていた。
川崎の今季のボール支配率が、例年を2、3%下回る平均54%台にとどまっている原因は、エウシーニョの穴にあることは明白なのだ。
ボール支配率で今季、ダントツの首位をいく横浜FM(62%)と比較すればわかりやすい。こちらは両ウイングが開き気味に構え、両SBが絞り気味に構える特徴を持つが、Jリーグで最もサイド攻撃を追求しているチームだ。支配率の高さのみならず、そのパスワークが光るのも、サイド攻撃が充実しているからに他ならない。エウシーニョを失った川崎は、成績のみならず、それまで譲らなかった魅力でも、他のチームに劣ることになってしまったのだ。
ゲームを圧倒的に支配していながら、カウンターで大ピンチに陥るならわかる。川崎らしい敗れ方と言えるが、たとえばこの日の広島戦はその真逆だった。川崎の勝ち方は、これまでなら他のチームが川崎に勝利するパターンだった。
ヒーローがマギーニョであったことも皮肉に映った。右SBの存在が、クローズアップされることになった試合だったのだ。
ちなみに今季、マギーニョとともに獲得したレアンドロ・ダミアンも先発出場したのはわずか9試合。ゼロックススーパー杯で決勝ゴールを叩き出し、期待されたものの、結局チームの柱にはなれなかった。
川崎は、今季から外国人枠が5人に拡大されたにもかかわらず、外国人選手をうまく活用できなかった。中心を務めるのは日本人選手だが、中村、家長といったベテランは昨季よりパフォーマンスを少し低下させ、大島はケガに苦しんだ。
首位と7ポイント差の4位という現在の成績には、必然を感じるのである。ここから来季に向けてチームをどう立て直していくか、目を凝らしたい。