力強い決意表明だった。

「150キロを投げるピッチャーは今の2年生でもいるので、155キロを投げたいです。

世代ナンバーワンになることが目標なので」

 その日、中京大中京(愛知)のエース右腕・高橋宏斗は快刀乱麻の投球を披露した。11月17日の明治神宮大会2回戦、初戦で前評判の高かった星稜(石川)を破り、勢いに乗る名門・明徳義塾(高知)を相手に7回を投げ、10奪三振完封。手強いくせ者を8対0の7回コールドで粉砕した。

 試合後、高橋は鈴なりの報道陣を前に「世代ナンバーワン」への思いを強い口調で語ったのだ。

あの名将が松坂大輔より上と脱帽。高橋宏斗は世代No.1を目指...の画像はこちら >>

神宮大会で明徳義塾から7回10奪三振の快投を演じた中京大中京のエース・高橋宏斗

 新チームの中京大中京はタレント揃いだ。強肩強打の捕手・印出太一(いんで・たいち)、柔らかさと強さを併せ持つ遊撃手・中山礼都(なかやま・らいと)、攻撃的なリードオフマン・西村友哉、小柄ながら140キロ台の快速球とチェンジアップを武器にする左腕・松島元希(まつしま・げんき)。
プロスカウトも注目する選手を多数抱えるなか、来年のドラフト上位候補に名乗りをあげたのが高橋だった。

 身長183センチ、体重79キロの均整のとれた体。両手を振りかぶるワインドアップから、左足を上げる際に視線を三塁側に送る。これは千賀滉大(ソフトバンク)のフォームを参考にしたという。スリークォーターの腕の振りから力強く放たれた快速球は最速148キロを計測する。

 1年前の東海大会で初めて高橋を見た際、1年生ながらスピードはすでに最速146キロに達していた。
当時、高橋はこんなことを語っていた。

「アウトローのストレートで見逃し三振を奪うのが理想です。バッターが手も足も出ないようなストレートを投げたいです」

 1年時は抜け球も多く、勢いに任せて投げるスタイルだった。だが、1年を経て高橋の投球は大きく進化を遂げ、変化球もうまく扱えるようになっていた。高橋は「ストレートだけでは抑えられないとわかったので、いかに変化球を混ぜながら抑えられるかを考えるようになりました」と進化の過程を語りながら、こう付け加えた。

「でも、真っすぐが軸になることは変わらないので、スピードだけでなく質を高めていきたいと思います」

 明徳義塾の馬淵史郎監督は「ストレートは松坂大輔の高校時代より上」とコメントしたという。

名伯楽ならではのリップサービスという可能性を感じずにはいられないのは、高橋のストレートは時折シュート回転が強くなるためだ。高橋本人も報道陣から馬淵監督のコメントへの感想を問われると、苦笑交じりに「そんなレベルに達していないと思います」と答えている。

 だが、強いシュート回転については、高橋は弱点とは思っていない。

「自分のなかでは『シュートする』というより、『食い込んでいく』イメージで思い切って投げています。シュートするというと悪くとらえられがちですが、よくとらえるようにしています」

 一方、成長著しい変化球は高速で変化するスライダー、カットボール、ツーシームを武器にする。バッテリーを組む印出はこう証言する。


「冬の練習や春からの実戦を経験して、どんどん変化球が使えるようになってきました。ブルペンで相談しながら、ボール1個分の出し入れまでできるように練習してきたので。とくに真っすぐと同じ軌道から変化するツーシームを覚えたことで、抑えられる確率が上がりました」

 高橋のツーシームはフォークほどではないが、ボールを浅く挟んで投げる。本人によると「落ちたりシュートしたり、いろんな変化をする」という。高橋の快速球を想定している相手打者にとっては、厄介な球種だった。

 明治神宮大会準決勝の天理(奈良)戦は、4対6とビハインドの6回からマウンドに上がった。
天理のミスにつけこむ形で9対8と逆転して迎えた9回表。高橋は先頭からツーシームを決め球に2者連続で三振を奪っている。

 そして7番・河西陽路(かわにし・ひろ)も1ボール2ストライクと追い込んで、決め球に選んだボールもツーシームだった。だが、高橋が「(低めの)ボール球でよかったところなのに、ストライクゾーンに入ってしまった」という1球を河西に完璧にとらえられ、本塁打を浴びて土壇場で同点とされてしまう。

 高橋本人にとってはこの日、天理の1年生強打者・瀨千皓(せ・ちひろ)にスライダーをレフトスタンドに放り込まれた2ランに続いて2本目の被弾だった。結局、9回裏に中京大中京は2番・中嶌優(なかじま・ゆう)のサヨナラ安打で勝利を収めたものの、試合後の高橋は「勝たせてもらった試合」と恐縮しきりだった。



 20日には健大高崎(群馬)との決勝戦、さらに来春には出場確実の選抜高校野球(センバツ)が控える。高橋が「世代ナンバーワン」であることを証明するには絶好の機会だ。高橋が意識する存在は、すでに最速151キロを計測し、2年生にして春夏連続甲子園ベスト4の実績がある中森俊介(明石商/兵庫)である。

「スピードもありますし、マウンドさばきもいいので、意識しています」

 好素材は豊富ながら大本命不在と言われる2020年ドラフト。その頂点をかけた争いが、早くも始まっている。