阪神のジャスティン・ボーアと巨人のジェラルド・パーラ。どちらも今シーズン、新外国人として日本にやってきた助っ人だ。
一方のパーラはメジャー通算1312安打を放った中距離打者で、昨年はワシントン・ナショナルズの一員としてワールドシリーズ制覇に貢献。日本でもシュアなバッティングを披露し、現在まで打率.341、3本塁打、10打点の活躍を見せている。
はたして、明暗を分けた両外国人の”差”はどこにあるのだろうか。近鉄、ヤクルトなどで打撃コーチ、ヘッドコーチとして多くの一流打者を育てた伊勢孝夫氏に聞いた。
「バースの再来」として期待された阪神・ボーアだったが...
ボーアが来日1号を放ったのは、開幕から11試合目の中日戦。
ただひとつ気になったのは、打球の方向だ。あの球をセンター方向に打ち返したのなら、相手バッテリーも簡単に外のボールが使えなくなり、攻めに苦しむようになる。
そもそもボーアは、キャンプの時から力任せのバッティングだった。練習試合で3試合連続ホームランを放つなど脚光を浴びたが、あれが結果的に油断を与えたように思えてしまう。
日本では、オープン戦、練習試合で新外国人選手と対戦する場合、確認のために打者の好きなコース、打ちそうなコースにあえて投げて、その反応を見ることがある。
相手バッテリーは「あそこの球は危険だ」「この球速だとしっかりとらえてくる」といったように、冷静にチェックしているわけだ。つまり、サンプルデータを集めて、それを公式戦で生かす。
だがボーアは、それで気をよくしてしまい、日本人バッテリーの配球を研究してこなかったのではないか。開幕からのボーアのバッティングを見ていると、引っ張る意識が高すぎて、外のボールはまったく見えていなかった。
フォームそのものは、まったく問題ないと思っている。ただ、打席での意識づけが少し足りない気がする。ボーアのバッティングを見る限り、意図した球を打ち損じているのではなく、打ちたいボールを投げてもらえずに焦れている感じだ。
とくに気になるのは、やはり対左投手だ。聞くところによると、メジャーでも左投手に苦労していたそうだ。そうした選手をよく獲得したなと思うが、ボーアのようなタイプは左投手のクロスファイヤーとなる外角のストレートや外に逃げていくスライダーは最も苦手とするところ。
実際、ボーアを見ても、左投手のスライダーの軌道が頭のなかで描けていない気がする。こういう打者は時間がかかる。我慢して使い続けても、対応してきた頃にはシーズンが終わっている……ということもあり得る。
ではどうすればいいのか。ボーアは典型的なプルヒッターだ。当然、相手バッテリーは外中心の配球になる。その球を強引に引っ張りにいくのではなく、インサイドアウトのスイングで呼び込み、ボールの内側を叩く。
対する巨人のパーラは、期待どおりの活躍をして、ホームランも3本放っている。ボーアとの決定的な違いは、手首の柔らかさだ。手首が柔らかいバッターの特長は、想定していた球と違っても対応できるし、ボール球と判断すればバットを止めることもできる。要するに、穴が少ない。
もうひとつ、パーラにあってボーアにないものは、センターに打ち返す意識だ。ボーアは長距離打者、パーラは中距離打者という違いはあるが、どちらのタイプであってもセンター返しのバッティングは利点が多い。
センターを意識して打てるようになれば、自ずとヒットゾーンが広がり、アベレージも上がる。スイング的にも、前の腰(左打者なら右側)が開きにくくなり、ミートポイントが広がる。つまり、広角に打てるようになるわけだ。
パーラのバッティングを見ると、それに近い形ができている。まだ、ボールの見極めという部分で課題はあるが、日本の投手の配球に慣れてくればもっと率を残すはずだ。
今は6番か7番あたりで起用されているが、もう少し状態が上がれば4番を打つ岡本和真のうしろを打たせても面白いと思う。中距離打者とはいえ、東京ドームなら20本は期待できるだろう。相手にとっては厄介な打者になるはずだ。
いずれにしても、まだ全チームと対戦したわけではない。ボーア、パーラとも、肝心なのは2巡目の対戦になってからだ。そこでこれまでの経験をどう生かすのか。今シーズンは試合数が短い。例年なら、いくら打てなくても首脳陣には我慢する時間があった。しかし、今季はそんなことをしていたら、すぐにシーズンは終わってしまう。
ともにメジャーで実績を残した打者である彼らの活躍は、チームに影響を与えるはずだ。今後、彼らがどんな対応力を見せてくれるのか楽しみにしたい。