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 2019年9月、元ソフトバンクホークスで活躍した松中信彦氏が、四国アイランドリーグplusの香川オリーブガイナーズのGM兼総監督に就任した。現役時代は平成唯一の三冠王に輝くなど、球界を代表するスラッガーとして活躍した松中氏の目に、独立リーグはどう映ったのだろうか。



イチロー世代の三冠王・松中信彦が独立リーグ指導者として伝えた...の画像はこちら >>

昨年9月に香川オリーブガイナーズのGM兼総監督に就任した松中信彦氏

── 昨年3月にイチローさんが引退し、1973年生まれの選手はすべて現役を去りました。振り返って、同世代の選手についてどう思いますか?

「現役時代は"同世代"という意識はありませんでした。グラウンドで顔を合わせたら会話するくらいで。でも、ひとりふたりと引退する人が増えると"世代"ということを考えるようになりましたね。たしかに、僕たち1973年生まれの選手はプロ野球を引っ張っていたと思います。トップはもちろんイチローで、本当に豪華な顔ぶれでした」

── 1973年生まれの選手は、打者では松中さんのほかにイチローさん、小笠原道大さん、中村紀洋さん、清水隆行さん、磯部公一さん、小坂誠さん、坪井智哉さん......。
投手では石井一久さん、三浦大輔さん、黒木知宏さん、薮田安彦さん、門倉健さんなど、多士済々でした。

「でも、彼らにライバル心はありませんでした。僕は社会人で5年間プレーしてからプロに入ったので、その時にはイチローやジョニー(黒木知宏)、ノリ(中村紀洋)らはすでに活躍していた。とにかく、自分がプロの世界で成功するために頑張らなければならないという気持ちでした」

── 2004年、松中さんはプロ野球で三冠王に輝き、イチローさんはMLBのシーズン最多安打記録を更新しました。日米で同世代の選手が大記録を樹立しました。

「たまたまかもしれませんが、同世代のふたりがそうした大記録を達成できたというのは、すごくうれしいことでした」

── 松中さんは2015年にソフトバンクを退団しましたが、現役続行の道を模索していました。



「40歳を過ぎてから目の衰えを感じていて、思うようにプレーできないこともありました。でも、2015年は二軍とはいえ結果を残していたので、『やれる』という自信もありました。自分としては最後のチャレンジの場がほしい、あきらめがつくところまで野球をやりたかったのですが......。

 チームも優勝争いをしていましたし、なかなかそうした機会がありませんでした。そこで退団してオファーを待ちました。自分のなかでは、キャンプまでにオファーがなければ引退しようと思っていました」

── そして2016年3月に引退を表明しました。



「引退してからは指導者の勉強もしましたが、同時にハンドボールの普及にも携わりました。そもそものきっかけは長男がハンドボールをやっていて、福岡選抜にも選んでいただき、全国2位になったのですが、試合を見ているうちにハンドボールの楽しさに気がつきました。

 そうした縁もあって、2019年に熊本で開催された『2019女子ハンドボール世界選手権大会』でアンバサダーを務めさせていただきました。引退してからはどちらかといえば、野球よりもハンドボールのことを考えるほうが大きなウエイトを占めていたかもしれません。ハンドボールは野球よりもマイナーなスポーツで、あまり知られていません。何とかハンドボールをもっとメジャーにできればと考えています」
※2020年7月28日に日本ハンドボールリーグのアンバサダーに就任した

── ハンドボールに触れることで、野球の見方に変化はありましたか。


「指導者の教え方が違いましたね。僕らが子どもの頃は、上からガンガン言われて育ってきましたが、ハンドボールの指導者は子どもの反応を見て、納得するように教えている。厳しさも大事だと思いますが、今はこうした教え方をするのがいいのかなと思いましたね」

── そして独立リーグとの出会いがあった。

「昨年8月に香川オリーブガイナーズのイベントに出席させていただき、その日はたまたまソフトバンク三軍との試合で......そのあとに香川球団のオーナーからGMのお話をいただきました。

 GMという役職は責任も重大で、即答はできませんでした。でも、僕自身はそろそろユニフォームを着たい、野球を教えたいという気持ちがありましたので、妻ともしっかり相談したうえでお引き受けさせてもらうことにしました」

── 独立リーグに来て、NPBとのギャップに驚く人も多いと聞きます。



「環境は間違いなくNPBとは違います。それに独立リーグは観客動員が少ないので、スポンサーがいないと成り立たないということも感じました。選手たちもお金がないのでアルバイトをしながら練習しています。そのあたりは大きな違いですね」

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── 選手の違いはどう感じましたか。

「独立リーグの選手と話をしてびっくりしたのが、多くの選手が『プロに行けばOK』『育成でもいいからNPBのユニフォームを着たい』と言っていたことです。ちょっと衝撃を受けました。

独立リーグの選手はもっとハングリーさがあって、NPBへ行っても『のし上がってやろう』と思っているのかなと思っていたら、そうではなかった。

 NPBはそんなに甘い世界じゃありません。そんな意識では、たとえNPBに行ったとしても2、3年でクビになって、途方に暮れることになる。僕は『NPBに行きたい』と言う選手はつくりたくない。『NPBに行って活躍したい』という選手をつくりたい。厳しい言い方ですが、NPBに行くだけで満足するような心構えなら、行かないほうがいい。普通に就職したほうがいいと思います」

── リーグとしてはどんな印象を持たれましたか。

「四国の4チームを見ただけですが、僕がイメージしたハングリーさはないですね。厳しい環境でやっているわりには物足りない。もっと殺気立っているのかなと思っていたけど、淡々と野球をやっている感じです。

 香川の選手たちには『淡々と野球をするな。目標に向かって懸命にやりなさい』と言っています。試合中の声出しにしても『人をけなすのではなく、野球にプラスになる言葉を発しなさい』と。選手たちにはNPBに行って、そこで活躍してほしい。NPB経験者として厳しさはわかっているので、そういう部分をしっかりと教えたいですね」

── 香川に有望な選手はいますか。

「数は多くいませんが、モノになりそうな選手はいます。そういう選手は監督とも話し合って、なるべく実戦で鍛え上げたいと思っています」

── 近藤智勝監督とはどのような役割分担でやっているのですか。

「僕は選手にも監督にもアドバイスをする役割です、近藤監督はチームのことをよく知っているので、現場のことは任せて、それをサポートする役割ですね。試合を見ていて、たまに選手に厳しく接することもありますが、あまり言うと近藤監督もやりづらいと思うので、そこはうまく考えてやっていきたいと思います。

 あと、GMの仕事のひとつとして選手の獲得があります。昨年、就任直後のオフに元阪神の歳内宏明投手を獲得しました。現在、勝利数、防御率、奪三振など、ほとんどがリーグトップの成績でNPB復帰に最も近い選手と言われています」

── コロナ禍のなか、シーズンが始まりましたが、何を目標にしていますか。

「最初、選手には『何事も勝ちグセをつけることが大事』と伝えました。人生にも勝つ、野球にも勝つ、自分にも勝つ。そういう意味では試合に勝つことも大事です。やっぱり優勝したいですし、ひとりでも多くの選手がNPBに行って活躍してほしい。厳しい環境ではありますが、自分なりにしっかりと目標を持って頑張ります」