アレックス・ラミレス インタビュー
日本シリーズ総括 後編 (前編:中嶋監督の「ちょっとした采配ミス」>>)

【ヤクルト・高津監督のまったくブレなかった投手起用】

――前回に引き続き、2021年日本シリーズについて伺います。前回は両チームのキャッチャー起用について、ヤクルトが中村悠平選手で固定していたのに対して、オリックスは伏見寅威、若月健矢両捕手の併用だった点が勝敗を分けたというお話でした。

前回のラストでは、「両監督の投手起用もポイントだった」とお話していましたね。

ラミレス ヤクルト・高津臣吾監督の投手起用が冴えわたっていたのは、大事な初戦のマウンドをプロ2年目の奥川恭伸に託し、続く第2戦を高橋奎二に任せたことだと思います。若いピッチャーをビジター球場の初戦、第2戦で起用することはリスクを伴います。ほとんどの日本人監督であれば、実績のある小川泰弘を初戦に使いたくなるもの。そこを奥川に託した判断はすばらしかったと思いますね。

ラミレスはヤクルト高津臣吾監督の投手起用を大絶賛。ただ、「セ...の画像はこちら >>

日本一になり、村上宗隆(左)と山田哲人(右)に抱えられるヤクルト・高津監督

――実績で言えば小川泰弘投手、大ベテランの石川雅規投手がいる中で、あえて20歳の奥川投手に初戦マウンドを託した。
確かに思い切った決断ですね。

ラミレス クライマックスシリーズ(CS)初戦も奥川に任せていたし、日本シリーズでも彼に託した。高津監督の中で、彼に対する信頼感はとても大きいのかもしれませんね。オリックスが山本、宮城という実績も実力もある先発が来るリスクをわかっていながら、奥川、高橋をあえてぶつけたことにマネジメントのうまさを感じました。

――他に高津監督の投手起用の特徴はありますか?

ラミレス ペナントレースもそうだったように、リリーバーの使い方でもブレがなく信念を貫いていたと思いますね。初戦でまさかのサヨナラ負けを喫し、第5戦でも決勝ホームランを打たれたスコット・マクガフに対して、それでも彼への信頼感は揺るがずに、最後まで起用し続けました。
特に、日本一を決めた第6戦は回跨ぎで、2イニング以上も投げさせるとは思いませんでした。結果が出ていない投手を起用するのは難しいけれども、まったくブレなく起用していました。

――その一方では、「調子がいい」と見るや、配置転換を余儀なくされていた石山泰稚投手を積極的に起用するなど、機を見るに敏な起用法も目立ちました。

ラミレス 自身がクローザーとして活躍していただけに、投手起用に関してはオリックスよりも、ヤクルトのほうが際立っていたと思いますね。

【疑問の残るオリックス・中嶋聡監督の継投策】

―― 一方のオリックス・中嶋聡監督の投手起用についてはいかがでしょうか?

ラミレス 前回も言ったように、リーグナンバー1、ナンバー2である山本由伸、宮城大弥に初戦、第2戦を任せるというのは当然のことだったと思います。両先発投手は見事に実力を発揮して試合を作りました。

でも、リリーフの起用法については疑問が残りました。

――どんな点に疑問が残ったのでしょうか?

ラミレス たとえば第4戦では先発の山崎颯一郎が降板した後に、右の増井浩俊が2/3イニングを投げて、続いて同じく右の比賀幹貴が1/3を投げました。左投手を挟まずに、右投手を続ける場面は他にもありました。相性を考慮したりデータがあったりしたのかもしれないけれど、投手の気持ちの中には「何でオレなんだろう?」という思いもあったのではないか? そんな疑問点はありましたね。

――結果的にはヤクルトの4勝2敗という成績で、日本シリーズは幕を閉じました。シリーズの行方を決める分岐点となったシーンはありますか?

ラミレス ヤクルトもオリックスもよく似たチームだったと思います。
その中でヤクルトは相手のミスにうまくつけ込むことができた。シリーズ全体を通して見ると、第2戦の高橋奎二の完封が大きな分岐点になったと思います。1戦目でイヤなサヨナラ負けを喫していたヤクルトにとって、第2戦を落とすと、シリーズの流れは完全にオリックスに傾いていたはず。高橋のプロ初完封は単なる一勝ではなく、ヤクルトが勢いを取り戻す大きな勝利でしたね。

――ラミレスさんは「パ・リーグの球団は全体的に左投手を苦手としている」とよく発言していますね。

ラミレス その傾向はこの日本シリーズでも見られました。
第2戦の高橋、第4戦の石川相手にオリックス打線は苦戦し、翻弄されていました。だから、私は第6戦に石川をベンチ入りさせて、ブルペン待機させても面白いと考えていました。前回登板では77球しか投じていないので、第6戦でリリーフ登板しても問題なく抑えたと思います。

セ・リーグがパ・リーグに追いついたわけではない】

――あらためて、今年の日本シリーズの総括をお願いします。

ラミレス さっきも言ったように、ヤクルトもオリックスもともに、前年最下位からリーグ優勝を果たして、クライマックスシリーズを勝ち上がって日本シリーズに進出。どちらも似たような立場で臨んだ今回の戦いでした。

今回のシリーズに関しては、何が起こるかわからない、事前の予想がとても難しかったです。実際に私の予想も外れてしまいました(笑)。

――シリーズ前の予想では「オリックスの4勝1敗」と話していましたね(笑)。

ラミレス データ上では「オリックス有利」だと考えていたけど、そこを覆したのは高津采配だったと思います。監督に就任した昨年と比べて、明らかに落ち着いていたし、采配のスキルも向上していました。選手とのコミュニケーションも良好で、適材適所の起用も見事だったと思います。その一方で、選手への信頼感、起用法に関してはまったくブレがなかったのも、昨年と比べて大きくスキルアップした点だと思います。個人的にはヤクルトの若手投手陣の奮闘が強く印象に残りました。

――初戦の奥川投手、第2戦の高橋投手ですね。

ラミレス そう。特に奥川に関しては誰が見ても「将来のエースになるだろう」という才能の持ち主で、今回の経験も今後に絶対に役立つはず。高橋も、日本シリーズという大舞台でプロ初完投、しかも初完封を記録しました。この経験をさらなるステップとして、来年以降、さらに大きく飛躍するのは間違いないでしょう。

―― 一方のオリックスについてはいかがでしょうか?

ラミレス 山本、宮城という日本を代表する先発ピッチャーがいて、打線の中心にも、吉田正尚、杉本裕太郎がいる。投打の核がいて、それを支える周りの選手もいい。宗佑磨はとても才能のある選手で、打球が外野手の間を抜ければあっという間に三塁に到達する足も魅力です。日本シリーズでは中嶋監督の采配に疑問点もあったけれど、来年はさらにいいチームを作り上げると思います。

――交流戦においても、日本シリーズにおいても、ここ数年は「パ・リーグのほうが強い」という論調もありました。この点についてはどうお考えですか?

ラミレス 昨年までの3年間はパ・リーグの12勝に対して、セ・リーグはわずか1勝でした。でも、今年はヤクルトが日本一になったことで一矢を報いたけれど、だからと言って、「セ・リーグがパ・リーグに追いついた」と言うにはまだ早いと思います。ただ、今年のヤクルトは強かった。それは間違いなく言えると思いますね。

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