高木豊が語る「1番打者」
セ・リーグ

 チームの中でもっとも多く打席が回ってくる1番打者には、出塁によるチャンスメイクが求められるとともに、打線に勢いをつける働きが期待される。かつて大洋ホエールズ(現横浜DeNAベイスターズ)で俊足巧打のプレーヤーとして活躍。

1番打者としても多くの試合に出場した高木豊氏はここまでの12球団の1番打者の働きぶりをどう見ているのか。前編ではセ・リーグの打者について聞いた。

高木豊がセ・リーグの1番打者を評価。「両リーグでNo.1」と...の画像はこちら >>

高木さんが高く評価したヤクルトの塩見(左)と中日の大島

***

――まずはセ・リーグ首位のヤクルトからお聞きします。今季もほとんどの試合で塩見泰隆選手が1番を任されています。ここまでの働きぶりをどう見ていますか?

高木豊(以下:高木) 打率はそこまでよくありません(.270/6月6日時点。以下同)が、最初に出てくる打者に威圧感があるだけで、相手バッテリーに与えるプレッシャーはあると思います。
例えば、阪神時代の真弓明信さん。走るわけではないので塁に出た時の怖さはありませんでしたが、1番打者でホームランを30本打つわけですから、威圧感はありますよね。

 例えるなら"名刺を交換する"時点で相手は威圧されてしまうということです。塩見はそういう打者ですよ。ただ、真弓さんと違うのは、塩見は30本打てる可能性を持ちながら、盗塁王も狙える選手でもあるということ。

 打率は真弓さんのほうが高いかもしれませんが、長打力と走力を兼ね備えている塩見は、相手にとってはすごく嫌な1番だと思います。
数字よりも「何かをやってくれるんじゃないか」という期待感が上回る選手ですね。

――そういった雰囲気が出てきたのは、好成績を残した昨年ぐらいからですか?

高木 そうですね。それと、(4月9日の巨人戦で)シューメーカーの初球を打って看板に直撃させたホームランがあったじゃないですか。あれがまさに"名刺代わり"の一発なんです。

 球をよく見て粘っていくタイプの1番打者であれば、初球を打ちにはいきません。塩見の場合は「一発くらわせてやる。
どうせ真っ直ぐからだろう?」といった意識がある。球数を投げさせ、チームメイトに相手投手の球種や球筋を見せるというよりも、相手を威圧するタイプですよね。

――次に巨人ですが、今季にもっとも1番で出場しているのは吉川尚輝選手。しかし、吉川選手が死球によるケガで離脱し、5月途中からは丸佳浩選手が1番に。吉川選手が復帰したあとも丸選手が引き続き1番を務めています。まず吉川選手はどうですか?

高木 吉川は1番打者を相当意識していたのか、出塁を重視していましたよね。

その証拠と言えるかはわかりませんが、センターから反対方向の打球が今年から多くなった。インサイドのボールも、昨年までは引っ張っていたのを、おっつけてセンター方向に打つようになりました。

 このままいけば、いい1番打者になるだろうと思っていた矢先のケガでした。開幕当初、「巨人には1番が不在」といった報道もありましたけど、吉川はやはり自分の果たすべき打順、足を活かせる打順は1番だと思っていたはずです。

――現在は丸選手が1番を務めていますが、それについてどう思いますか?

高木 吉川がケガで離脱した時、何人かの選手が1番を務めていましたが、吉川以外では「適任は丸かな」と思っていました。出塁率も高いですし、先ほどの塩見と同じように、相手に威圧感を与えられる打者ですからね。


――続いて広島についてお聞きします。開幕からしばらく西川龍馬選手が1番を任され、以降は堂林翔太選手、野間峻祥選手ほか何人かの打者が務めています。まず、西川選手の1番はどうでしたか?

高木 適応能力はありますよね。ただ、"振りたがる"打者なので、出塁よりも「自分で勝負して決めたい、走者を返したい」というタイプの打者ですよね。だから、クリーンナップに置いてあげたほうが、彼は力を発揮できるのかなと思います。

――堂林選手はどうですか?

高木 堂林は年齢とともに、1番打者や代打など途中交代の役割も含め、状況によって求められることをわかる打者になってきました。
「この場面では右に打ったほうがいい」といったことを楽しめる感性が出てきました。一般社会でも、20代の頃と30代になってから考えることは違うじゃないですか。例えば、家庭を持つかどうかといった点ひとつでも全然違う。

 とにかく「野球がすごくわかってきた」という印象ですが、どちらかというと、クリーンナップか6番などを打つタイプ。それでも、"自分を殺せる"という意味では、西川と比べると堂林のほうが1番には適していると思います。

――中日に関しては、大島洋平選手が死球を受けて離脱していた時期はさまざまな選手が1番を務めましたが、復帰後はまた大島選手が起用されています。

高木 大島は、もう最高ですよ。両リーグで見ても、今はナンバーワンの1番打者じゃないでしょうか。

――ナンバーワンと評価する理由とは?

高木 バットコントロールも素晴らしいですし、加齢による衰えも感じません。逆に経験を積んで"技"がついてきた。力みが抜けて、技術が研ぎ澄まされてきたという感じがします。

 あとは安定感です。まだ走る力もあって打率は3割、出塁率も高いですから。右投手も左投手も関係なく打てるのも強みですよね。

――今季、大島選手の次に1番打者を務めている岡林勇希選手はどうですか?

高木 足があるので、「塁に出したらややこしい」という選手だと思いますが、ひ弱な感じがするんです。長打を打てるタイプではないので、威圧感は与えられない。1年でも、「こういう成績を残した」というハッタリがきくような成績を残せていたら違うんですが、それがまだないですしね。

 粘ったり、フォアボールを取ったりという1番の資質はあると思います。ただ、大島だったら、1試合のうち少なくとも1打席は出塁してくれるといった計算が立つんですが、岡林の場合はハマらなかった時にピシャっとやられるイメージもあります。なんとしてでも1回は必ず出塁するとか、そういうことができるようになると、首脳陣も1番で使いやすくなるでしょうね。

――次にDeNAは、今季にもっとも多く1番で出場している桑原将志選手が打率.205、出塁率.282と不振です。

高木 桑原は戦う姿勢がいい選手。DeNAでコーチを務めていた時に一緒にやりましたけど、とにかく負けず嫌いで戦闘意欲がすごく強い男です。"当たってでも出る"とか、そういう気質を持っています。ただ、その気持ちが強すぎてどんなボールでも振ってしまいますし、一度空回りし始めると、空回りっぱなし。だから、気持ちの部分で少し楽にしてやると活躍しやすいと思うんですけどね。

――技術的な部分ではどうですか?

高木 彼が調子を落とした時の問題は、左足と左肩なんです。それがステップ時にどの位置にあるかだけで結果が左右されます。気持ちが前へ前へといってしまうと、右肩が先に出ていって、左肩が押されるような感じで体が開いてしまう。そういう状態で待つからボールを追っかけてしまい、ボール球を振る。悪循環ですよね。

 あと、「熱くなるタイプだから、教えるほうは冷静に」と考えがちなんですけど、彼とはぶつかり合ったほうがいいんです。反骨精神が強いので、『なにくそっ!』と燃えてくる。逆におだてると、腰抜けになってしまいますから(笑)。

――最後に阪神ですが、開幕からしばらくは近本光司選手が1番で起用されることが多かったですね。

高木 例年よりはスタートがよかったように思いますが、やはり春先は調子が上がりませんでしたね。昨年までは他に好調な打者が多かったので目立たなかったんですが、基本は"後半追い上げ型"です。

 印象に残る活躍はするんですけど、チームとしてはスタートダッシュを決めてほしいじゃないですか。彼の能力からすると、今の出塁率(.342 )くらいまで打率を上げていても不思議ではないし、出塁率は4割を目指すこともできると思います。

 走塁面に関しては何の文句もありません。チームの状態が上がっていけば、それに伴って盗塁数も増えていくと思います。

――主に2番での起用ですが、1番でも使われることがある中野拓夢選手はどうですか?

高木 中野は近本とタイプが似ていますね。近本の調子が悪い時に中野が目立ったり、逆に中野が疲れてくると近本が働きだしたりという感じで、1、2番のコンビとしてはすごくいいと思います。

パ・リーグ編:西川や三森の強み、バットコントロール抜群の若手とは?>>)