箱根駅伝で好走したルーキー5人。駒澤大は「2年連続3冠」、黄...の画像はこちら >>

1年生ながら箱根駅伝6区で区間賞を獲得した駒澤大・伊藤蒼唯

 第99回箱根駅伝は、駒澤大学が往路復路を制して完全優勝を果たし、大学駅伝3冠を達成した。大会後の記者会見で駒澤大の大八木弘明監督が今年3月での退任を発表するなど、来年の100回大会を前にひとつの時代の終わりを感じさせる大会になったが、一方でルーキーたちの好走が目についたレースにもなった。

 1区では、中央大の溜池一太(1年)がすばらしい走りを見せ、総合2位につながるいい流れを作った。

「藤原(正和)監督からは、10番以内で来たらいいよと言われていました。スローでスタートしましたが、自分は駒澤大と國學院大を意識して走っていて、その2校が前にいなかったので集団のなかに入って力を溜めていました。比較的余裕があったので、このまま六郷橋で勝負だなというのは、自分のなかで決めていました」

 溜池はスローペースになった大きな集団のなかの前方に位置し、1キロ手前から単独で飛び出した関東学生連合の新田楓(育英大・4年)にはついていかなかった。集団のなかで息をひそめるようにして距離をつぶし、六郷橋の上りの手前で一度、先頭に出た。だが、上りになると円健介(駒澤大4年)や富田峻平(明大4年)のスパートについていけなかった。

「六郷橋の上りがかなりキツくて、足が止まってしまったので明大の富田さんたちの飛び出しに反応できなかったです」

 溜池は悔しそうな表情を見せたが、駅伝シーズンは上々のスタートをきった。駅伝デビューの出雲駅伝では5区2位と好走し、同級生の吉居駿恭(1年)と襷リレーを果たしてチーム3位に貢献した。全日本は出番がなかったが、箱根では1区に配置された。

「初めての箱根で、しかも初めてレースで20キロを走ったんですが、他大学のエースとか主力選手と比べると自分はまだまだでした。(吉居)駿恭は難しい4区で5位と結果を出していましたし、駒澤大の1年生が5区、6区で活躍して、特に6区の伊藤(蒼唯)選手は区間賞を獲っていました。そのなかで自分は区間4位だったので悔しかったですね」

 洛南高校3年時の都大路では1区5位と好走し、今回の箱根は区間4位と自己評価はもうひとつながら1区での快走率はすこぶる高い。

今のところ「外さない男」として、来年への期待も膨らむが、溜池自身も箱根1区への思いが強い。

「1区は、最初は怖さというか、不安もあったんですけど、走ってみたら意外と楽しかったです。個人的にメインはトラックで5000mをやっていきたいと思っていますが、箱根でも勝ちたいので、来年はもっと距離を踏んで準備し、今回の新田さんのように早めに飛び出して、自分の走りをしたいと思っています」

 中央大の1年生には、溜池の他に吉居兄弟の弟の駿恭、全日本の補欠に入った白川陽大、伊東夢翔もいる。刺激となる仲間とともに来季は主力のひとりとして、再び1区に挑戦する決意だ。

 國學院大では、7区で上原琉翔(1年)が小さい体ながら力を振り絞って、すばらしい走りを見せた。4位で襷を受けると前を行く早稲田大主将の鈴木創士(4年)をとらえ、3位に躍り出た。

「自分のなかには区間賞という目標とタイムも設定したものがあったんですけど、どちらも届かずで悔しかったです。でも、レースで3位に押し上げることができたので、いい位置で渡せて、ひとつ仕事ができたのかなと思います」

 上原は沖縄県那覇市出身だ。北山高校2年の時、國學院大に声をかけてもらい、前田康弘監督と話をするなかで進学への気持ちを固めた。

「決め手になったのは、育成と環境です。勧誘されたのも大きいんですが、自分自身、関東で強くなりたいという思いがありました。もちろん、その頃は力的にはまだまだだったんですが、そういう選手でも國學院大はしっかり成長させてくれる。

3年、4年時には箱根で結果を出したりする選手が多かったですし、そういう伸び率を見て、ここ(國學院大)にきました」

 高3の4月には日体大の記録会で5000m、13分56秒84を出し、國學院大入学1年目から即戦力になった。出雲駅伝、全日本駅伝は、同学年の青木瑠郁が出雲1区7位、全日本5君区間賞と結果を出したなか、上原はいずれにも補欠で出走は叶わなかった。「すごく悔しかった」と唇をかみしめたが、その思いを抱えて努力を重ね、箱根では7区を勝ちとり、区間6位と好走した。

「この1年間は、先頭をいく青木を目標に頑張って、最終的に青木、高山(豪起)、そして自分と1年生が3人、出走することができました。来年は、(中西)大翔(4年)さんや藤本(竜・4年)さんが抜ける穴を埋め、柱と呼ばれるような力をつけていきたいです。また、昨年のトラックシーズンでは故障が続いて1回も走ることはできなかったので、4月からはトラックでも結果を出したいですね。

そうしてさらに強くなって箱根の重要区間を走り、優勝に貢献したいと思います」

 上原は、凜とした表情で自分に言い聞かすようにそう言った。

 箱根を出走した青木は1区12位、高山は8区13位と思うような結果を残すことができなかった。だが、彼らもまた上原と同じように来年の箱根こそ自分の走りで優勝に貢献したいと思っている。上原たちの代が新シーズンの國學院大の大きな力になるのは間違いない。

 東海大の花岡寿哉(1年)は3区6位とキャンパスのある湘南で勢いのある走りを見せた。

 箱根駅伝予選会では鈴木天智(1年)がすばらしい走りを見せたが、その鈴木が「1年のなかで一番強い」と認めていたのが花岡だった。

全日本大学駅伝では、優勝した駒澤大に1秒差の1区7位と好走し、両角速監督の高い評価を得て箱根は1区でほぼ確定だった。しかし、箱根前の練習中に給水でつまずいて足を痛め、最終的に3区に回った。

 駅伝は1区以外経験がないなか、不安視された部分もあったが堂々した走りで区間6位にまとめ、順位を11位から9位へとシード権を狙えるポジションまで押し上げた。残念ながら最終的には15位でシード権を確保できなかったが、両角監督が「来年は石原(翔太郎・3年)とともにチームを引っ張る存在になるでしょう」と期待する次代のエース候補だ。

 明大の森下翔太(1年)は3区4位とすばらしい走りでチームの順位を13位から7位にジャンプアップさせた。全日本大学駅伝で駅伝デビューを果たし、この時は1区8位の走りを見せ、箱根での出走を勝ちとった。同世代には吉川響(1年)がいるが、彼も全日本で駅伝デビューを果たし、6区7位とまずまずの結果を出した。吉川は箱根では上りの適性から5区に起用された。残念ながら区間15位と自分の力を発揮できなかったが、来季は森下と吉川が明大の主力となり、箱根でシード権確保を実現する走りを見せてくれるだろう。

 今回の箱根でもっとも活躍したルーキーは、6区区間賞を獲得し、駒澤大総合優勝、3冠達成に多大な貢献をした伊藤蒼唯(1年)だ。当日変更で帰山侑大(1年)に代わって出走、最初の上り区間でもたつく感があったが、下り区間に入るとスピードを増し、後続の中央大、青学大との差をどんどん広げていった。復路で優勝の流れを作った走りは、とても1年生とは思えなかった。

「自分は上りがそんなに得意なタイプではないのですが、それでも最初は突っ込んでいく感じで入って、あれが今の僕のベストの走りでした。うしろが若林(陽大・中央大)さんで4年生の経験者でしたので、不安はなくはなかったんですが、自分のよさはフレッシュさですし、下りは確実に離せるという自信があったので、そのとおりの走りができたと思います」

 山の下りは、大きなストライドで落ちるように下っていった。どんどん加速する勢いで後続との差を広げ、山野力(4年)は「6区の伊藤の走りが大きかった」と最高の形で復路のスタートをきれたことが優勝につながったと語った。そんな伊藤が自分の走りに自信を持てたのは11月の日体大記録会での10000mだった。13日前に世田谷ハーフを走り、64分15秒で11位とまずまずの結果を出したあとだったが、28分28秒15の自己ベストを出した。

「そのタイムを出してから自信がついて意識が変わりました。高校では(現在チームメイトで同級生の佐藤)圭汰とか手が届かない存在でしたけど、28分台のPBを出し、6区区間賞を獲れたことで圭汰や山川(拓馬・1年)に少しは追いつくことができたのかなと思います」

 佐藤は出雲駅伝2区で区間賞、山川は全日本で4区区間賞、伊藤は箱根6区で区間賞を獲った。結果でも彼らに並んだわけだが、6区の再チャレンジについては、「今は足がボロボロで、来年もまた6区というふうには今は思えないです」と苦笑した。だが、下りのセンスは抜群で、次回も走れば区間記録を狙えるだろう。また、山川が5区区間4位と好走したが、山の特殊区間は来年も山川と伊藤がハマれば、駒澤大の2連覇はより現実味を帯びてくる。

「僕らの学年は、圭汰や山川という強い選手がふたりいるので、まずはそこに追いつき、追い越すことを目標にして、次の箱根では平地でも走れるぐらいの走力をつけていきたいと思います。そのくらい成長しないと連覇することができないと思うので」

 来年、伊藤、山川に加え、帰山、佐藤ら新2年生が箱根をしっかりと走ることができれば、2年連続での3冠は、決して難しいミッションではないだろう。

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