悲願の世界一まであと2つ。栗山英樹監督率いる侍ジャパンは、日本時間の3月21日、第5回WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)準決勝でメキシコと対戦する。

WBCの舞台で両者が戦うのは、2006年の第1回大会以来じつに17年ぶりのことだ。

WBC準決勝で対戦する日本とメキシコの因縁の歴史 過去の対戦...の画像はこちら >>

第5回WBC準決勝で日本と対戦するメキシコ

 この時はアナハイムで行なわれた第2ラウンドで激突。王貞治監督率いる日本代表が、先発した松坂大輔の好投もあり6対1で快勝している。しかし2次ラウンドの日本は、初戦のアメリカ戦で犠牲フライをめぐる不可解な判定もあり惜敗。第3戦の韓国戦でも1対2で敗れ、準決勝進出は絶望的と思われた。

 だが、このラウンドの最終戦となったメキシコとアメリカ戦で奇跡が起きる。

メキシコがアメリカを2対1で下したため、日本、アメリカ、メキシコの3チームが1勝2敗で並ぶという事態に。この結果、当該チームの失点率により日本が準決勝進出となった。

 メキシコのおかげでサンディエゴでの最終ラウンドに進んだ日本は、準決勝で因縁の韓国に引導を渡し、決勝でキューバを破り初代チャンピオンとなった。

 この時は、メジャーリーガーよりもマイナーリーガーやメキシカンリーグの選手の姿が目立ったメキシコだが、国際大会においてプロ参加が主流になってきたなか、近年はナショナルチームの強化に力を入れるようになり、今回のチームはほぼメジャーといった陣容になっている。

 ここまで無敗で勝ち上がってきた侍ジャパンにとって、メキシコは"重い扉"となって立ちはだかるだろう。

【かつて巨人がメキシコに遠征】

 メキシコの野球の歴史は日本よりも長い。今も続くメキシカンリーグが創設されたのは、1925年のことである。

日本のプロ野球の前身である『日本職業野球連盟』の創設が1936年だから、プロリーグの歴史はメキシコのほうが長いことになる。

 太平洋を隔てた両国がプロ野球の世界で対戦するのは、第2次世界大戦後のことである。敗戦後10年を経て、国内総生産が戦前の水準を上回った1955年。ここから始まる高度成長のアイコン的存在となる読売巨人軍は、シーズンに向けてのトレーニングとして中南米遠征を行なった。

 コロンビア、パナマ、ドミニカを転戦した巨人は、2カ月に及ぶ長い遠征の最後の地としてメキシコを訪問。南部ユカタン半島のメリダ、中央平原のプエブラ、そして新球場が完成した首都メキシコシティなどでオープン戦を行なったが、遠征の疲れからか敗戦を重ねた。

 そして1966年春には3度目のリーグ制覇を成し遂げたメキシコシティ・タイガースが来日し、今度は日本のチームとオープン戦を行なうが、その結果は13戦全敗。中南米遠征の際、巨人の選手たちは慣れない現地の習慣などに悩まされ、野球どころではなかったと嘆いたそうだが、この時のタイガースナインも同じ心境だったのだろう。

 グローバル化以前のこの時代、太平洋を渡ってプレーするのは相当の困難があったようだ。

 その後、1990年まではプロ・アマの壁が高かったこともあり、国際大会の舞台で両国のプロ選手が対戦することは皆無だった。だが2000年のシドニー大会以降、オリンピックの舞台で"プロ解禁"となると、国際大会のトップレベルは次第にプロ中心となっていく。

【侍ジャパンの常設化に伴い対戦増える】

 プロ主体の両国のナショナルチームが激突したのは、冒頭に挙げた第1回WBCが最初だが、その後WBCでの対戦は今回まで実現しなかった。

 だが、2015年にもうひとつの「野球世界一決定戦」として『プレミア12』が開催されたが、この大会で日本とメキシコは第1ラウンドと3位決定戦で2度対戦。

結果はともに日本の快勝で終わった。

 このプレミア12の翌年にはU23ワールドカップが始まり、メキシコがホスト国に。日本はプロの若手主体で挑み、同じくプロ主体で臨んだメキシコとスーパーラウンドで対戦し、3対2でかろうじて勝利をもぎとり、優勝への足がかりをつかんだ。この大会でMVPを獲得したのは、今回のWBCで中国代表として出場した真砂勇介(当時ソフトバンク/現・日立製作所)だった。

 U23ワールドカップは、2018年の第2回大会(コロンビアで開催)までプロ主体のナショナルチームが送り込まれたが、この大会でもメキシコと2度対戦。オープニングラウンドで7対2、そして決勝では2対1で勝利し、2大会連続の優勝を果たした。

この時のチームには、今回のWBCで侍ジャパンの一員として参加している山?颯一郎(オリックス)と周東佑京(ソフトバンク)のふたりが名を連ねている。

 侍ジャパンは2011年オフに"常設化"されることになったが、これ以後、シーズン前後に強化試合が組まれるようになった。この相手としてメキシコが初めて招かれたのは、2016年秋のことである。この前年に楽天でプレーしていたアガスティン・ムリーヨも名を連ねたメキシコ代表は、1勝1敗で東京ドームをあとにした。この時、ホームランを打つなど気を吐いたラミロ・ペーニャは、翌年、広島と契約し日本でプレーすることになった。

 2019年には、メキシカンリーグ主体の代表チームが春と秋の2度来日。

3月に京セラドーム大阪で行なわれた強化試合は1勝1敗。11月に開催された第2回プレミア12では、スーパーラウンドで対戦し、稲葉篤紀監督率いる侍ジャパンが3対1で快勝した。

【メキシコは20人がメジャーリーガー】

 そして、コロナ禍により1年開催が延期された東京五輪の舞台でも激突。試合は7対4で日本が勝利した。

 この時のメンバーには山本由伸(オリックス)、栗林良吏(広島)、甲斐拓也(ソフトバンク)、山田哲人(ヤクルト)、村上宗隆(ヤクルト)、近藤健介(当時日本ハム/現・ソフトバンク)、吉田正尚(当時オリックス/現・レッドソックス)たちが名を連ね、今回のWBCメンバーの原型が形づくられている。

 メキシコのほうも、ピッチャーのマニー・バレダ、捕手のアレクシス・ウィルソン、外野手のホセ・カルドナなど、今回のWBCのロースターに名を連ねているメキシカンリーグを代表する選手が名を連ねていた。

 さらにこの年、日本の独立リーグでシーズンをスタートさせていたセサル・バルガスは、オリンピックでの投球が目に留まり、大会終了後にオリックスと契約。日本シリーズにも登板した。

 また2019年にオリックスでプレーし、禁止薬物使用の疑いで途中退団となったジョーイ・メネセスは、このオリンピックでは主軸を任され、翌年のメジャー昇格の足がかりとした。

 いよいよ明日、日本とメキシコが戦う。これまでのプロ主体の代表戦は10勝2敗で日本が圧倒している。しかし今大会のメキシコは、ロースター30人中20人がメジャーリーガーという豪華布陣だ。レッドソックスで吉田正尚のライバルになるであろうアレックス・ベルドゥーゴ、昨シーズン20本塁打を記録したランディ・アロサレーナ(レイズ)、ここ2シーズンで39本塁打のルイス・ウリアス(ブルワーズ)らが名を連ねる打線は、破壊力では日本を凌ぐだろう。

 そして昨シーズン、ナショナルズでメジャーデビューを果たしたメネセスは、56試合の出場で13本塁打を放ち、今や一塁のレギュラーポジションを手にしようとしている。

 日本打線に挑む先発投手は、エンゼルス大谷翔平と同僚のパトリック・サンドバルが予想される。昨シーズン6勝9敗、防御率2.91と一流とは言えないものの、この数字は大谷に次ぐものである。1次ラウンドではアメリカ戦に先発し、勝利に貢献している。またベンジー・ギル監督もメジャーに戻ればエンゼルスのコーチをしており、打者・大谷対策は万全と思われる。

 ともに同時期にプロリーグを発足させ、国内リーグを世界第2のパワーハウスにまで成長させた日本と、メジャーに多くの人材を輩出しているメキシコ。WBCでの17年ぶりの戦いは、これまでになく熱いものとなりそうだ。