各球団を代表する顔ぶれが栄光の開幕投手を務めただけに、オリックスで初めて大役に抜擢された山下舜平大(やました・しゅんぺいた)の名前はひと際輝きを放った。
同球団でプロ未登板の投手が開幕戦で先発するのは、1954年に岐阜県立多治見工業高校から入団した梶本隆夫以来、69年ぶりの快挙だった。
西武との開幕戦に登板したオリックス・山下舜平大
【ホップ成分の多いストレート】
「映像を見た印象? 速いなって(笑)」
本拠地で迎え撃つ西武の外崎修汰に試合前に尋ねると、シンプルな答えが返ってきた。大卒9年目の外崎が思わず笑ってしまうほど、プロ2年間で一軍未登板の山下は一級品のスピードボールを投げている。
最速158キロ。しかも189センチの長身から投げ下ろしてくるのだ。
ストレートの速さと強さに加え、高身長ならではの角度が山下にとって武器になっている。「真っすぐ」と分類される球種にもホップ成分、シュート成分など各投手によって特徴があるなかで、バッターは「軌道」をイメージして打ちにいくからだ。
「映像を見たら、高めのきわどいボールをほとんどの打者が振らされていました。おそらくホップ成分が多いと思うし、背が大きいので、バッターには近く見えると思います」
これらの要素が絡み合い、18.44メートルの距離で対峙する打者は高めのきわどいストレートに手を出させられるわけだ。外崎が続ける。
「ふつうのピッチャーなら(軌道を思い描いて)『甘いな』と思って打ちにいった高さでも、背の高いピッチャーはそこから高めの際どいコースにくることはよくあります。逆に今日はそこを意識して、『低め、低め』という感じで狙っていきます」
山下に対する西武首脳陣の指示は、「高めを狙うなら狙う、捨てるなら捨てる。
【西武の主力も脱帽】
プロ初先発初登板を果たした山下は6回途中まで84球を投げて被安打4、与四球1、失点1という好投でマウンドを降りた。
「すごいピッチャーだと思います。若いのにどんどんストライク先行できて、ボールに勢いがあるし、カーブでもカウントをとれますし、すごくバランスがいいと思います」
試合後、外崎はそう語った。対して数日前、千賀滉大(メッツ)や山本由伸(オリックス)、佐々木朗希(ロッテ)と「同じ目線で見ている」とコメントした山川穂高は、打席で対した山下の印象をこう振り返っている。
「いいピッチャーなのは間違いないですね。とくにカーブは、ブレーキが効いていてよかったです。
初対戦となった初回、二死一塁で山川は真ん中高めに投じられた152キロのストレートを振り抜くと、「カン!」という乾いた音がベルーナドームに鳴り響いた。打球はレフト方向へ高く舞い上がり、スタンドの観客が思わず立ち上がるような当たりだったが、レフトフェンス直前で失速して来田涼斗のグラブに収まった。
「ちょっと擦りでしたね。(スタンドには)行かんだろうなと」
ストレートに対してバットのやや上でコンタクトして"擦った"理由は、それだけホップ成分が高かったからだろう。実際、外崎はこう話している。
「高めの真っすぐが一番いいボールでした。高めはホップ系ですね。低めはそこまで(ホップ系)には感じなかったです」
一方、0対0で迎えた4回裏、一死一塁から5番・栗山巧は外角に投じられた154キロのストレートを左中間に弾き返し、先制点を呼び込んだ。だが、必ずしも好感触が残ったわけではなかったという。
「ちょっと押された感じがあったので、『やるなぁ』と思いました。やっぱり球に力がありますよ」
栗山は山下と初対決となった2回裏の1打席目で同じようなストレートを弾き返したが、センター方向への打球は山下に捕られてピッチャーゴロで倒れた。
「1打席目も押されているし、差されているから、おかしいなと思っていました。やっぱり球が重いんですよ。力があるんですよ。これから対戦する機会が増えるから、ちょっと対策を考えなあかんなと思います」
プロ22年目、2000本安打を達成した栗山にこう言わしめるほどのストレートを山下は投げ込んでいたのだ。
【フォークが決まればさらに厄介】
しかもこの日は、フォークが決め球にならなかった。バッターのかなり手前でワンバウンドして見送られるシーンが続き、4回頃からカーブの割合を増やしていく。
「2打席目の最初にカーブを見られた分、しっかりイメージに入れられました。真っすぐとカーブは球速差があるから、真っすぐにタイミングを合わせておけば、カーブは気持ちで食らいつくぐらいの意識でいい。それで真っすぐにしっかり入れたのが一番よかったですね」
4回の先頭打者での第2打席では、124キロのカーブが3球続いて1ボール、2ストライク。4球目のフォークを見送り、5球目は真ん中低めに投じられた156キロのストレートをセンター前に弾き返した。これが栗山のタイムリー二塁打につながり、外崎は先制のホームを踏んだ。
そして6回一死、外崎は3度目の対戦では持ち前の粘りを見せ、フルカウントから14球目に真ん中内寄りに投じられた157キロのストレートに詰まらされながらもセンター前に弾き返し、山下をマウンドから引きずり下ろしている。
この14球の内訳は、ストレートが5球、カーブが7球、フォークが2球。7球目までにカーブが5球という配球だったが、フォークが思うように操れないからカーブに頼らざるを得なくなったという側面もあるだろう。事実、外崎はフォークを「消しました」と振り返っている。
では、もしフォークがストライクゾーン付近にコントロールできていたとしたら、どうなっていただろうか。
「全然違うと思いますね」
即答した外崎は、山下のフォークについて続けた。
「チェンジアップっぽいですね。あまり回転していないんですよ。それで落ちてくる。"抜け真っすぐ"みたいな、チェンジアップみたいな感じ。あれがしっかりコントロールできて、こっちが真っすぐに合わせているところできたら、厄介かなというのはあるかもしれないですね」
山川、外崎、栗山という西武打線の顔である打者たちが、いずれも山下を高く評価した。速くて強くて角度があるストレート、ブレーキの効いたカーブ、さらに開幕戦では思うように操れなかったフォークがあり、今後は球種も増えていくだろう。
20歳の右腕にとってこの日はまだ初登板で、試合を重ねるごとによくなっていく姿は容易に想像できる。
そうした大器にとって、最大の武器は160キロに迫るストレートだ。開幕戦を終えて駐車場から帰る間際、栗山に打席で軌道を見た印象を聞いた。
「何とも言いづらい。伸びてもくるし、もちろんデカいから角度もあるので。ただ、ちょっと打席数が少ないので、また何回か対戦したら細かく言います(笑)」
開幕戦という晴れ舞台でベールを脱いだ剛腕投手は、百戦錬磨の打者たちとどのような対決を繰り広げていくのか。今後がいっそう楽しみになるデビュー戦だった。