各球団を代表する顔ぶれが栄光の開幕投手を務めただけに、オリックスで初めて大役に抜擢された山下舜平大(やました・しゅんぺいた)の名前はひと際輝きを放った。

 同球団でプロ未登板の投手が開幕戦で先発するのは、1954年に岐阜県立多治見工業高校から入団した梶本隆夫以来、69年ぶりの快挙だった。

ドラフト会議が始まる11年前にプロ入りした梶本は通算254勝を挙げる大投手になったのに対し、2020年ドラフト1位で福岡大大濠高からオリックスに入団した山下も負けず劣らず大きな期待を背負っている。

オリックス・山下舜平大は「千賀滉大、山本由伸、佐々木朗希を追...の画像はこちら >>

西武との開幕戦に登板したオリックス・山下舜平大

【ホップ成分の多いストレート】

「映像を見た印象? 速いなって(笑)」

 本拠地で迎え撃つ西武の外崎修汰に試合前に尋ねると、シンプルな答えが返ってきた。大卒9年目の外崎が思わず笑ってしまうほど、プロ2年間で一軍未登板の山下は一級品のスピードボールを投げている。

 最速158キロ。しかも189センチの長身から投げ下ろしてくるのだ。

 ストレートの速さと強さに加え、高身長ならではの角度が山下にとって武器になっている。「真っすぐ」と分類される球種にもホップ成分、シュート成分など各投手によって特徴があるなかで、バッターは「軌道」をイメージして打ちにいくからだ。

外崎が打者視点で説明する。

「映像を見たら、高めのきわどいボールをほとんどの打者が振らされていました。おそらくホップ成分が多いと思うし、背が大きいので、バッターには近く見えると思います」

 これらの要素が絡み合い、18.44メートルの距離で対峙する打者は高めのきわどいストレートに手を出させられるわけだ。外崎が続ける。

「ふつうのピッチャーなら(軌道を思い描いて)『甘いな』と思って打ちにいった高さでも、背の高いピッチャーはそこから高めの際どいコースにくることはよくあります。逆に今日はそこを意識して、『低め、低め』という感じで狙っていきます」

 山下に対する西武首脳陣の指示は、「高めを狙うなら狙う、捨てるなら捨てる。

個々が狙いをハッキリしてやってほしい」というものだった。

【西武の主力も脱帽】

 プロ初先発初登板を果たした山下は6回途中まで84球を投げて被安打4、与四球1、失点1という好投でマウンドを降りた。

「すごいピッチャーだと思います。若いのにどんどんストライク先行できて、ボールに勢いがあるし、カーブでもカウントをとれますし、すごくバランスがいいと思います」

 試合後、外崎はそう語った。対して数日前、千賀滉大(メッツ)や山本由伸(オリックス)、佐々木朗希(ロッテ)と「同じ目線で見ている」とコメントした山川穂高は、打席で対した山下の印象をこう振り返っている。

「いいピッチャーなのは間違いないですね。とくにカーブは、ブレーキが効いていてよかったです。

あのクラス(=千賀、山本、佐々木クラス)を追いかけていくのかな、というのが今日の対戦での印象です。僕もしっかり抑えられましたし(苦笑)」

 初対戦となった初回、二死一塁で山川は真ん中高めに投じられた152キロのストレートを振り抜くと、「カン!」という乾いた音がベルーナドームに鳴り響いた。打球はレフト方向へ高く舞い上がり、スタンドの観客が思わず立ち上がるような当たりだったが、レフトフェンス直前で失速して来田涼斗のグラブに収まった。

「ちょっと擦りでしたね。(スタンドには)行かんだろうなと」

 ストレートに対してバットのやや上でコンタクトして"擦った"理由は、それだけホップ成分が高かったからだろう。実際、外崎はこう話している。

「高めの真っすぐが一番いいボールでした。高めはホップ系ですね。低めはそこまで(ホップ系)には感じなかったです」

 一方、0対0で迎えた4回裏、一死一塁から5番・栗山巧は外角に投じられた154キロのストレートを左中間に弾き返し、先制点を呼び込んだ。だが、必ずしも好感触が残ったわけではなかったという。

「ちょっと押された感じがあったので、『やるなぁ』と思いました。やっぱり球に力がありますよ」

 栗山は山下と初対決となった2回裏の1打席目で同じようなストレートを弾き返したが、センター方向への打球は山下に捕られてピッチャーゴロで倒れた。

「1打席目も押されているし、差されているから、おかしいなと思っていました。やっぱり球が重いんですよ。力があるんですよ。これから対戦する機会が増えるから、ちょっと対策を考えなあかんなと思います」

 プロ22年目、2000本安打を達成した栗山にこう言わしめるほどのストレートを山下は投げ込んでいたのだ。

【フォークが決まればさらに厄介】

 しかもこの日は、フォークが決め球にならなかった。バッターのかなり手前でワンバウンドして見送られるシーンが続き、4回頃からカーブの割合を増やしていく。

こうした決断をできるオリックスバッテリーも見事だったが、西武打線にすれば「フォークを消す」ことができた。そうして山下との3度の対戦で2安打、1四球と最も結果を残したのが3番・外崎だった。

「2打席目の最初にカーブを見られた分、しっかりイメージに入れられました。真っすぐとカーブは球速差があるから、真っすぐにタイミングを合わせておけば、カーブは気持ちで食らいつくぐらいの意識でいい。それで真っすぐにしっかり入れたのが一番よかったですね」

 4回の先頭打者での第2打席では、124キロのカーブが3球続いて1ボール、2ストライク。4球目のフォークを見送り、5球目は真ん中低めに投じられた156キロのストレートをセンター前に弾き返した。これが栗山のタイムリー二塁打につながり、外崎は先制のホームを踏んだ。

 そして6回一死、外崎は3度目の対戦では持ち前の粘りを見せ、フルカウントから14球目に真ん中内寄りに投じられた157キロのストレートに詰まらされながらもセンター前に弾き返し、山下をマウンドから引きずり下ろしている。

 この14球の内訳は、ストレートが5球、カーブが7球、フォークが2球。7球目までにカーブが5球という配球だったが、フォークが思うように操れないからカーブに頼らざるを得なくなったという側面もあるだろう。事実、外崎はフォークを「消しました」と振り返っている。

 では、もしフォークがストライクゾーン付近にコントロールできていたとしたら、どうなっていただろうか。

「全然違うと思いますね」

 即答した外崎は、山下のフォークについて続けた。

「チェンジアップっぽいですね。あまり回転していないんですよ。それで落ちてくる。"抜け真っすぐ"みたいな、チェンジアップみたいな感じ。あれがしっかりコントロールできて、こっちが真っすぐに合わせているところできたら、厄介かなというのはあるかもしれないですね」

 山川、外崎、栗山という西武打線の顔である打者たちが、いずれも山下を高く評価した。速くて強くて角度があるストレート、ブレーキの効いたカーブ、さらに開幕戦では思うように操れなかったフォークがあり、今後は球種も増えていくだろう。

 20歳の右腕にとってこの日はまだ初登板で、試合を重ねるごとによくなっていく姿は容易に想像できる。

 そうした大器にとって、最大の武器は160キロに迫るストレートだ。開幕戦を終えて駐車場から帰る間際、栗山に打席で軌道を見た印象を聞いた。

「何とも言いづらい。伸びてもくるし、もちろんデカいから角度もあるので。ただ、ちょっと打席数が少ないので、また何回か対戦したら細かく言います(笑)」

 開幕戦という晴れ舞台でベールを脱いだ剛腕投手は、百戦錬磨の打者たちとどのような対決を繰り広げていくのか。今後がいっそう楽しみになるデビュー戦だった。