今季、千賀滉大(ソフトバンク→メッツ)と藤浪晋太郎(阪神→アスレチックス)のふたりの投手が日本からメジャーに挑戦した。過去、メジャー1年目に10勝した投手は7人いるが、千賀、藤浪は彼らに並ぶことができるのか。

メジャー通算43試合に登板した薮田安彦氏に開幕から1カ月が経った現時点での評価、今後についても占ってもらった。

「千賀滉大は10勝できる!」と薮田安彦は絶賛 藤浪晋太郎には...の画像はこちら >>

ここまで(日本時間5月1日現在)3勝と順調なスタートを切った千賀滉大

【千賀のカギはスライダーとカットボール】

── 千賀投手はメジャー初登板・初勝利から順調に勝ち星を積み重ねています。

薮田 若干コントロールに苦しんでいる様子はありましたが、要所での "お化けフォーク"をうまく使って抑えています。WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)をご覧になられた方から「海外の投手の落ちる球は緩く落ちるチェンジアップ系が中心で、速く落ちるフォークを投げる投手は少ないのでは......」と聞かれました。しかし、実際はそういうわけではありません。メジャーでは"フォーク"ではなく"スプリット"との呼び方が一般的で、千賀投手の場合はその落差が大きいものを効果的に使っていますね。

── 千賀投手の投球を見て、具体的にどんなことを感じましたか。

薮田 デビュー戦(5回1/3を3安打、3四球、8奪三振、1失点)に関しては、「いいスタートを切りたい」「注目されている」という緊張があったと思います。試合後に「制球ではなく心の問題」とコメントがありましたが、千賀投手でもふだんどおりに投げるのは難しかったと思います。ただ、初回のピンチを1点で抑えたところはさすがでした。

── 2戦目は1戦目と同じマーリンズ戦で、この試合は6回を投げて3安打、3四球、6奪三振、1失点の内容で2勝目を挙げました。

薮田 メジャーは日本以上にデータを細かく出します。昨年まで極端な守備シフトを敷いていたのも、それだけデータがある証拠です。

つまり相手が研究してくれば、こちらもフォークに的を絞らせないように配球を変える必要があります。この試合は真っすぐとフォークだけでなく、スライダーとカットボールを有効に使っていました。

── これまでメジャー1年目に10勝した日本人投手は7人います。95年の野茂英雄投手(13勝6敗)、02年の石井一久投手(14勝10敗)、07年の松坂大輔投手(15勝12敗)、10年の高橋尚成投手(10勝6敗8セーブ)、12年のダルビッシュ有投手(16勝9敗)14年の田中将大投手(13勝5敗)、16年の前田健太投手(16勝11敗)。それぞれ決め球は違いますが、フォークが一番効果的というわけではないのでしょうか。

薮田 フォークが有効であるのはたしかですが、フォークとストレートだけでは苦しい。

千賀投手にしても、ストレートとフォークだけでなくスライダーとカットボールを織り交ぜながら、長いイニングを投げるのが今後の目標になっていくと思います。

── どの球種を投げるか、日本では"捕手主導"ですが、メジャーは"投手主導"と聞きます。

薮田 今季から、投手がボールを受けとってから「走者なしが15秒以内」「走者ありが20秒以内」に投げないといけない"ピッチクロック"というルールが適用されました。たとえば大谷翔平選手(エンゼルス)はそれに対応できるように"ピッチコム"という機器を利用して、自分の投げたい球種を捕手に伝えます。短い投球間隔が気になるか否かは人ぞれぞれですが、いずれにせよ千賀投手もピッチクロックやピッチコムにうまく対応できるかどうかがカギになってくるでしょうね。

── チーム的にはどうでしょうか。

薮田 メッツは昨年ナ・リーグ東地区2位。WBCでケガをした守護神のエドウィン・ディアスの離脱は痛いですが、打線も打ってくれますし、千賀投手を援護してくれています。ローテーションをしっかり守って投げることができれば、自ずと白星は積み重ねられると思います。

【藤浪が打たれているのはスライダー】

── 藤浪投手が所属するアスレチックスは、昨年ア・リーグ西地区最下位。それだけに藤浪投手への期待は大きかったと思います。

薮田 メジャー初登板から3試合ほど見ましたが、球威があって、打者が振り遅れるシーンもありました。

ボール自体は通用していると思うので、あとはストレートのコントロール、変化球の精度がもっと必要になってきます。打たれたシーンを見ても、スライダーが多い。曲がり幅が小さく、甘く入ってくるところを打たれている印象です。

── 藤浪投手はメジャーでもコントロールが課題なのでしょうか。

薮田 投球フォーム自体は日本にいた時と変わっていません。藤浪投手の場合、いい時と悪い時の差が激しい印象があります。

たしかに四球から崩れる時はありますが、コントロールを気にしすぎて腕が振れなくなるのもよくない。とにかく今はメジャーの環境に慣れることが最優先です。

 WBCでも大きく報道されましたが、MLBのボールは日本のものとは縫い目の高さや皮の質が違うので、当然変化も違います。私もメジャーに行った時は、体の使い方などいろいろ試しましたし、どうすれば日本にいた時と同じような球が投げられるのかをずっと考えていました。ダルビッシュ有投手(パドレス)でも大谷投手でも、メジャーにアジャストするためにフォームの修正がありました。今後、藤浪投手がどう変わっていくかでしょうね。

── 藤浪投手は先発から中継ぎに配置転換されましたが、今後はどんなことが必要になってくると思いますか。

薮田 メジャーの打者は藤浪投手を打つために研究してくるわけですから、同じように相手の打者に対しての準備が必要です。前出の1年目から10勝した7人の共通項は、この球で打ちとれるという"決め球"を持っていたということです。そういう意味では、藤浪投手はスライダーを打たれていますので、たとえばフォークを増やす投球スタイルも視野に入れるのがいいかもしれませんね。

── 千賀投手、藤浪投手の「メジャー1年目10勝」はいかがでしょうか。

薮田 前田健太投手が達成してから7年が経過しています。当時とは選手の顔ぶれは違いますし、"フライボール革命"などで打者のスイング軌道も変わってきています。どういう決め球、投球スタイルがいいのか、投げていくなかで見つけていくのがいいのではないかと思います。

 優勝を狙うメッツと再建を図るアスレチックスでは、チームの状況が違います。そのなかでも千賀投手は2ケタ勝利を期待されていると思いますし、現時点でフォークが通用していることもあって可能性は高いと思います。