毎年"練習"で評価が上がるドラフト候補がいる。

 プロ球団のスカウトは、ドラフト候補の試合だけを見て評価を下すわけではない。

これはと思った選手は日頃の練習を視察し、基礎的なパフォーマンスや野球に取り組む姿勢をチェックする。

 以前、こんな話を聞いたことがある。2019年のドラフト会議で、楽天が智辯和歌山高の黒川史陽を2位指名した。筆者の想像以上に順位が高いように思えたのだが、楽天の後関順二スカウト部長はこんな裏話を教えてくれた。

「正直言って、甲子園を見た時の評価はそんなに高くはなかったんです。でも、練習を見たら『これは一番いいな』と。

振る力がしっかりとあって、練習する姿勢が本当によかったんです。『この子は野球が本当に好きなんだろうな』と。練習を2、3回見に行って、見れば見るほど『絶対にこの選手がほしい』という気にさせてくれました」

 ドラフト会議で「どうしてこの選手がこんな高順位なのか?」と感じる現象の多くは、スカウト陣が練習を視察して評価が上がっているケースなのかもしれない。

イチローとコンビを組んだ名手も認める能力。ドラフト候補・今泉...の画像はこちら >>

2023年のドラフト候補、法政大の遊撃手・今泉颯太

【リーグ戦では実力を発揮できず】

 そして今年、「練習で評価を高めそうなドラフト候補」として紹介したいのが、法政大の遊撃手・今泉颯太である。

 身長178センチ、体重80キロ。右投右打の遊撃手だ。法政大で野手を指導する大島公一助監督は、今泉を「大器晩成型」と評する。

 出色なのは打撃力だ。バットヘッドのしなりを生かしたスイングはほれぼれする。レフトからライトまで広角に強い打球を放てるのが今泉の長所である。

 昨年12月に愛媛県松山市で実施された大学日本代表候補合宿でも、今泉は存在感を発揮した。合宿初日のフリー打撃では、右へ左へと快打を連発。打ち損じが少なく、ボールに効率よくエネルギーを伝えられるスイングは一際目立っていた。

おそらく打撃練習を見れば、今泉の基礎的な打撃力がいかに高いか伝わるはずだ。

 だが、今泉はその力を実戦で思うように発揮できずにいる。大学4年春までの東京六大学リーグ通算成績は、50試合の出場で打率.244、5本塁打と飛び抜けたものはない。同リーグには上田希由翔(明治大)、廣瀬隆太(慶應義塾大)とドラフト上位候補に挙がる看板打者がいるものの、彼らと比べて今泉の実績は物足りなく映る。

 守備、走塁も際立った武器はなく、ともするとドラフト候補としては「平均点」と見られてしまう。今泉自身はどう感じているのかを聞いてみた。

「たしかにどれもずば抜けているわけではないですからね。長打力があって、ミート力もある程度あって、ショートをそつなくこなせて、肩と足はまあまあ。全部スタンダードに見られてしまうのかなと」

 しかし、今泉はこう続けた。

「逆に言えばマイナスはどこもないので、その点を評価していただけたらうれしいですね」

【社会人相手に1試合3発の離れ業】

 今泉のなかで「一番の持ち味」と自信を持っているのは、やはり打撃である。

 その豊かなポテンシャルは、時折とてつもない「爆発力」となって発露している。たとえば高校時代、今泉は高校2年の12月に愛知県選抜に選ばれて台湾遠征を経験している。

 同年の愛知県選抜は多士済々。

東邦の石川昂弥(現・中日)、愛産大三河の上田(現・明治大)、愛工大名電の堀内祐我(現・明治大)、栄徳の西村進之介(現・専修大)、星城の石黒佑弥(現・JR西日本)ら有望選手がひしめいていた。

 そんななか、大爆発したのは今泉だった。4試合で打率は5割を超え、本塁打はなんと5本を数えた。しかも、使用したのは木製バットだった。

「(中京大中京の)高橋(源一郎)監督からは『なんで金属バットでは打てないんだよ』とよく言われました。自分でもバットのしなりを使える分、木のバットのほうが得意な感覚はありました」

 法政大進学後も、こんなことがあった。

大学3年秋前に日本通運とのオープン戦が組まれた。この試合で今泉は3打席連続ホームランの離れ業をやってのける。

「1打席目はライトに、2打席目はライナーで右中間に。3打席目はレフトスタンド後方のネットを越える、大学に入って一番完璧なホームランでした。4打席目は左中間に飛んで、『いったかな?』と思ったんですけど、フェンス直撃でした」

 日本通運といえば、毎年好投手を擁することで知られる社会人の強豪だ。まぐれで3本塁打を打てる相手ではない。

 前出の大島助監督はこう証言する。

「それくらいやっても不思議ではない能力は持っています。ただ、持っているものを出し切れていないだけで。ふだんの練習での取り組みも抜群にいいですし、ひとつきっかけをつかんだら飛躍的に伸びると思いますよ」

 大島助監督は現役時代、オリックスでイチローと1・2番コンビを組んだ名選手だ。その大島助監督も認める打撃力を今泉は発揮しきれていない。もっとももどかしさを覚えているのは本人だ。

「この春も状態は悪くなかったんですけど、1、2打席目にとらえた強い打球がアウトになってしまって、3打席目以降は焦りが出て形が崩れるケースが多かったんです。神宮球場の電光掲示板には打率が出ますけど、秋は1試合1試合フラットな気持ちで臨んでいきたいです。たとえ打てなくても、進塁打や打点を稼いで自分のやるべきことをやろうと考えています」

【プロで理想とする選手は?】

 今のところ、希望進路はプロを考えている。とはいえ、熱心に誘われている企業チームもあり、これから熟考を重ねていくことになりそうだ。

「プロへのチャンスは何回もあるわけではないですし、自分にとって最善の形で結論を出したいと思います」

 基本的には控えめな言動の今泉だが、「プロでやれる自信はありますか?」と尋ねると、決然と「はい」と答えた。

「やれる自信はあります。守備はどこでも守れますし、肩は強いので」

 遠投の距離は120メートル。たとえプロで遊撃を守るのが厳しかったとしても、強打の二塁手・三塁手になれれば十分だろう。そして、今泉に「プロでの成功イメージ」を聞くと、こんな答えが返ってきた。

「西武の外崎(修汰)選手のようになれたら理想ですね」

 思わず膝を打った。外崎も入団当初はユーティリティープレーヤーとして重宝され、二塁のレギュラーポジションをつかんだ。打撃スタイルも今泉に近いものがある。

 ただし、今泉の50メートル走のタイムは6秒4(光電管計測)と、プロレベルで見れば平凡な数値だ。それでも、下級生時には代走での起用も多かった。走塁技術には自信があるのではないかと聞くと、今泉は「めちゃめちゃあります」と答えた。

「二塁からホームに生還する時のタイムは早稲田戦で6秒29を出したんですけど、今年の六大学で一番速かったみたいです。去年の1位が慶應の朝日晴人さん(現・三菱重工West)の6秒36だったそうです。足の速さは普通でも、盗塁も得意だし走塁は自信があります」

 掘れば掘るほど、今泉に対する「平均点」のイメージが覆される。これも話を聞いてみなければわからなかったことだ。

 あとは、秋の大学ラストシーズンで目に見えてわかる形で今泉颯太の真価を見せてもらえるかどうか。今泉がきっかけをつかんだその時、「ドラフト上位でなければ獲れない」という評価を勝ちとっているはずだ。