49勝32敗2分け(7月20日時点/以下同)と、2位のロッテに3.5ゲーム差をつけて首位に立つオリックス。リーグ連覇の原動力となった強力なピッチャー陣は健在で、今シーズンはバッター陣の奮闘も目立つ。



 長らくオリックスのエースとして活躍し、引退後はオリックスの投手コーチも務めた星野伸之氏に前半戦を振り返ってもらいながら、ロッテやソフトバンクも含めた後半戦の上位争いの展望も併せて聞いた。

オリックスのリーグ3連覇なるか? 星野伸之は「ロッテ、ソフト...の画像はこちら >>

前半戦でリーグトップの9勝を挙げたオリックスの山本

【前半戦、投手陣のMVPは?】

――まず、オリックスの前半戦のピッチャー陣の活躍を振り返っていただけますか?

星野伸之(以下:星野) 先発は山本由伸ら"実績組"がしっかりと勝ち星を積み上げ、山下舜平大も期待以上の勝利を挙げました(8勝2敗)。リリーフは、「連投したら休ませる」という起用法を徹底していますし、みんなでカバーし合っています。

 抑えは(ジェイコブ・)ワゲスパックもやっていますが、やっぱり平野佳寿に落ち着きましたね。平野も39歳ですし、先を考えれば新しい人材が出てきてほしいところかもしれませんが。リリーフ陣では、すでに30試合以上投げている山﨑颯一郎(18ホールド3セーブ)は独り立ちしてきた感じがします。6年目の本田仁海は伸び悩んでいますが、やりくりでしのいでいますね。



――ピッチャー陣で前半戦のMVPを選ぶとすれば?

星野 序盤にピッチャー陣を引っ張ってくれた宮城大弥や山﨑福也と言いたいところですが、やっぱり山下なのか......。由伸は例年よりも捉えられる場面が目立っていたのですが、それでもハーラートップの9勝(3敗)を挙げていますし......選ぶのが難しいですね(笑)。

 でも、新戦力ということでやっぱり山下。基本的に真っ直ぐとカーブだけで抑えられることがすごいですし、キャンプで野茂英雄に教えてもらったフォークはまだ完成形ではないと思いますが、モノになればますます手がつけられなくなります。あらためて今のオリックスは育成力が高いなと感じました。

――逆に、もう少し頑張ってほしいピッチャーは?

星野 かわいそうな部分もありますけど、山岡泰輔です。
ローテーションの中でひとりくらいは、打線の好不調との巡り合わせが悪くなるピッチャーが出てくるものですが、それにしても、もう少し勝ち星が伸びればなと(13試合登板、1勝1敗)。7月9日の西武戦では序盤で7点の援護があったのに4回2/3で交代したり、波に乗り切れていません。

 先発はもうひとりほしいです。ドラフト1位ルーキーの曽谷龍平を使ったり、(ジャレル・)コットンを使ったりしていますが、コットンはショートスターターのような起用法ですし。左前腕の張りで二軍調整中の田嶋大樹が戻ってくればと思いますが、全員が万全という状態はなかなかはないので。田嶋は、ファームで投げ始めているようですし、ちゃんと回復しているかどうかですね。

【チームの「穴を埋めてくれている」野手】

――野手陣はいかがですか?

星野 新戦力として茶野篤政が出てきました。今はファームで調整中ですが、開幕からスタメンで起用され、走攻守で一定の活躍をしてくれたのは大きかった。最近では宜保翔も打席の中で粘りを見せるなど頑張っています。

 それと、現在のリーグ首位打者(打率.318)の頓宮裕真です。正直、ここまでやるとは想像していませんでしたし、頓宮の成長もある意味で"新戦力"だと思います。ただ、柳田悠岐(ソフトバンク)が迫ってきているので、すごく嫌だろうなと。当然チームの優勝が大前提になるでしょうが、やはり首位打者も獲りたいはず。

そこで空回りすることが一番怖いです。

 吉田正尚(レッドソックス)が抜け、予想としては杉本裕太郎か森友哉が4番と予想されていましたが、現状では杉本が下位を打っています。それで4番に頓宮や(レアンドロ・)セデーニョが座ってくれたおかげで、非常に怖い打線になっています。離脱中の森や(マーウィン・)ゴンザレスが復帰したら、打線の厚みがさらに増しますね。

――紅林弘太郎選手もいい働きを見せています。

星野 開幕一軍は逃したのですが、課せられた課題をクリアしたからこそ途中から上がってきたんだと思います。
そこから徐々に結果を出し始めて、今の打率は.289ですからね。これまでは打率.230くらいのバッターでしたが、西武の髙橋光成や楽天の松井裕樹からも打ったり、エース級のピッチャー相手でも結果を出していることに成長を感じます。長打力も出てきましたね。

――野手陣は、一軍に昇格した選手がすぐに活躍するケースが多い印象です。

星野 先日は、2年目の野口智哉が上がってきてすぐに活躍しましたしね。一軍にはいるけど疲れが出てきたり、課題ができたりした場合は二軍で調整して、そこで結果が出たらすぐに一軍に上げて起用する。
大半の選手がそうした起用にしっかりと応えています。課題の克服法、一軍に上げるタイミングなどはどのチームよりも優れている気がしますね。飛び抜けたスーパースターはいないけど、みんなが安定しているんです。

 吉田や、かつてのイチローみたいな絶対的なレギュラーがいれば別でしょうが、基本的に個々の調子を見つつ、休ませながら起用していくので、頓宮もどこかのタイミングで休ませるかもしれません。

――後半戦のキーマンを投打で挙げるとすれば?

星野 野手では、いろいろな打順を打ち、いろいろなポジションを守れるという意味で中川圭太です。他の選手のケガや不振などでできる穴を埋めてくれているのは中川だと思うので。彼の存在はチームにとってすごくありがたいし、逆にいなくなると、けっこうなダメージがあると思います。

ピッチャーは山岡です。彼に勝ち星がつかないと、前後に投げる先発ピッチャーが負けた時に連敗してしまう。もし由伸で試合を落としたら......というところが一番怖いかなと。

――山岡投手の場合はメンタルの問題ですか?

星野 僕はそう思っています。他の先発ピッチャーが勝ち星を伸ばしている中、ひとりだけ置いていかれていますから。防御率はよかったのに、最近は4点、5点取られる試合もありますし、心が折れやすくなっているのかもしれませんが......後半、他のピッチャーが勝てない時、今度は逆に山岡がカバーしてほしいです。

【上位を争うロッテ、ソフトバンクの現状】

――前半戦終了時点で、2位のロッテには3.5ゲーム、3位のソフトバンクには5.5ゲーム差をつけています。まず、ロッテはどう見ていますか?

星野 佐々木朗希を筆頭に、先発ピッチャー陣がある程度揃っていること、8回の(ルイス・)ペルドモと9回の益田直也が安定している印象です。ただ、益田は森にサヨナラホームランを打たれた試合もありましたが、イメージとしてオリックス戦にあまり強くないのかなと。そのためか、シーズン序盤は益田じゃなく、澤村拓一をオリックス戦で使っていました。そのあたりが、吉井理人監督のピッチャーのやりくりのうまさです。

――昨シーズンのロッテとは違う?

星野 そうですね。その理由のひとつは、キャッチャーで田村龍弘を使いだしたことです。昨シーズンは佐藤都志也と松川虎生が出ていて、田村はほとんど起用されていませんでした(2試合出場/今シーズンは47試合出場)。ただ、経験値が一番高いのは田村ですし、今年の起用法でモチベーションも高まっているはずです。

 投手陣では種市篤暉や西野勇士が復活して、(C.C.)メルセデス、野手では(グレゴリー・)ポランコといった新戦力もいますが、基本的には今までいたメンバーをうまくやりくりしている。選手の起用法や戦い方が非常にうまいと思います。

――オリックス目線での、ロッテ戦のポイントは?

星野 ロッテ戦は対戦成績がほぼ互角(オリックスの6勝5敗1分け)ですし、非常に接戦が多い。今後も終盤までもつれる試合が多くなるでしょうし、ロッテのリリーフ陣をどうやって攻略するかがポイントになると思います。

――続いてソフトバンクはどう見ていますか? 前半戦の最後は9連敗と苦しみました。

星野 オリックスは、オールスター直前のソフトバンク3連戦で3連勝しましたが、今シーズンの対戦成績は8勝6敗1分けとほぼ互角です。今のソフトバンクは不調ですが、地力があるチームですから侮れません。

 ソフトバンクで気になるのは、先発ピッチャーにあまり勝ち星がついていないこと。東浜巨と和田毅、藤井皓哉がそれぞれ5勝、開幕投手の大関友久が4勝どまりですし、リリーフにだいぶ負担がかかっているのかなと。昨シーズンもリリーフがだいぶ疲弊していて、最後にあとひとつ勝てばというところでやられているので......。このままいくと、同じような展開になってしまう可能性はあると思います。

――ソフトバンク戦において、オリックスのキーマンになりそうなのは?

星野 由伸です。6月23日のソフトバンク戦では6回4失点で負け投手になって少し心配しましたが、7月15日の対戦では修正して8回1失点で勝ち投手になりました。今後も基本的にソフトバンクに当てていくと思いますし、由伸が勝ってくれればチームに勢いがつくと思います。

 昨シーズンはオリックスとソフトバンクが同率(勝率の差でオリックスがリーグ1位)になりましたが、今シーズンも、ロッテを含む3チームによる僅差の争いになる可能性もあると思います。ひょっとしたら、前半戦の最後に勢いがついた楽天が上がってくるかもしれませんし、最後までもつれそうな気がします。

【プロフィール】

星野伸之(ほしの・のぶゆき)

1983年、旭川工業高校からドラフト5位で阪急ブレーブスに入団。1987年にリーグ1位の6完封を記録して11勝を挙げる活躍。以降1997年まで11年連続で2桁勝利を挙げ、1995年、96年のリーグ制覇にエースとして大きく貢献。2000年にFA権を行使して阪神タイガースに移籍。通算勝利数は176勝、2000三振を奪っている。2002年に現役を引退し、2006年から09年まで阪神の二軍投手コーチを務め、2010年から17年までオリックスで投手コーチを務めた。2018年からは野球解説者などで活躍している。