レアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)戦で、これまで久保建英(22歳)の進撃に手を焼いていたアトレティコ・マドリードは万全の対策を講じてきた。

「今日、我々は久保や攻撃陣をうまくコントロールできた。

昨年も、プレシーズンマッチも、似たようなゲームプランで戦った。(久保を包囲したサムエル・)リノ、(マリオ・)エルモソ、(ロドリゴ・)デ・パウルの3人でうまく仕事を分担できた」

 試合後、アトレティコのディエゴ・シメオネ監督はそう振り返っている。久保ひとりをそこまで警戒していたということだ。

 そして、久保は牙城を崩しきれなかった。チームもアウェーで2-1と敗れた。重厚な守備陣に苦しんだ形だ。

「これから、久保は相当に厳しいマークを受けるぞ」

 それは現地取材をするなかで多くの関係者が口にしていた"予言"であり、これからが正念場と言えるかもしれない。

久保建英、「常に1対複数」を突破できるか 月間MVP獲得も厳...の画像はこちら >>
 アトレティコ戦で久保は、4-3-3の右アタッカーとして先発している。

 開始早々、久保は戦術的アドバンテージを取る。右サイドバックのアマリ・トラオレの裏へのパスは雑で、届く気配はなかった。しかし久保はしつこくディフェンダーを追いかけ、GKに下げさせる。さらに追い立てると、逆サイドのディフェンスまで逃げたパスを激しく追いかけ、クリアをマイボールにすることに成功している。

 守備の強度を見せたわけだが、それはチームとしてうまくいっていない兆でもあった。なかなかボールを前に運べない。攻撃のテンポも上がらなかった。

 たとえばトラオレは、ボールありきのプレーを志向するには、あまりにアバウトで場当たり的なプレーが多い。走力の高さは魅力的だが、同じサイドで戦う選手にはストレスになるだろう。パス出しなどの攻撃だけでなく、守備にも問題を抱えている。

 22分の失点も、トラオレが何でもないパスに準備できていなかった。リノに背後を取られ、呆気なく失点を喫している。2、3歩ポジションを下げていれば、あるいはサイドステップでゴールに向かって走る準備ができていたら、あっさりゴールを奪われることはなかっただろう。

【現地紙の評価は「バッドゲーム」】

 そうしたディテールがないことで、久保は孤立した。

 久保は何度か右サイドでボールを受け、仕掛けを試みている。しかしアトレティコは5-3-2の堅陣を組み、リノが縦のコースを切り、デ・パウルが中への通路を断ち、さらにエルモソがカバー。

久保は常に「1対複数」での勝負を余儀なくされていた。

 前半アディショナルタイム、久保は再びハイプレスに活路を見出す。足技が得意でないGKヤン・オブラクを脅かすような寄せを見せ、交錯する形で倒される。笛は鳴らず、微妙な判定だった。

 そして前半終了間際、久保は右サイドでボールを受ける。そこで、この試合で初めて味方のブライス・メンデス、ミケル・メリーノ、マルティン・スビメンディがいっせいに相手ゴールに向かって走り出し、わずかなスペースが生まれる。

すかさず中へ切り込み、ファーサイドで一瞬フリーになったミケル・オヤルサバルに絶好のクロスを合わせたが、シュートはバーを越えた。

 後半の54分にも、久保は味方のパスを受け、初めてエリア内でボールを持って勝負を挑んでいる。対峙するディフェンスはいたが、わずかにコースを作ってシュートを打ち込むも、ブロックに遭った。百発百中で決めるのは難しい。

 そして65分、久保はカルロス・フェルナンデスと交代でピッチを去っている。

「バッドゲームだった。

久保はマンマークを受け、常に1対2の状況になっていた。ほとんど動きが取れなかったが、それでもオヤルサバルへのクロスは、"半分ゴール"だった」

 スペイン大手スポーツ紙『アス』の寸評である。

 久保は日本代表のドイツ戦、トルコ戦後、消耗の激しい試合を続けている。敵地でのレアル・マドリード戦、チャンピオンズリーグ(CL)開幕戦のインテル戦、古巣であるヘタフェ戦、バスクダービーのアスレティック・ビルバオ戦、CLザルツブルク戦、そして強豪アトレティコ戦。この間、バレンシア戦はターンオーバーで休んだが、密度の高い試合を重ねている。

【「このリズムを続けるのは簡単ではない」】

 久保は本来、ひらめきと俊敏性とコンビネーションが武器の選手である。ダビド・シルバの引退、アレクサンダー・セルロートの移籍、右サイドバックの変更などでコンビネーション面の質は落ちたが、彼は個人のパワーを使って、エースとして勝利の道を切り開いてきた。しかし肉体的消耗は積み重なっており、同じパワーを維持するのは難しい。

 久保はラ・リーガで、9月の月間MVPを受賞している。ラ・リーガ2位の5得点だけでなく、チームを力強く引っ張った。ジュード・ベリンガム(レアル・マドリード)、アントワーヌ・グリーズマン(アトレティコ・マドリード)など錚々たる名手たちを上回っているわけだ。だが......。

「このリズムでのプレーを続けるのは簡単ではない」

 これも関係者が口をそろえていた言葉だ。

 チームの胸スポンサーには、日本企業「ヤスダグループ」がついた。これも、"久保効果"のひとつと言えるだろう。スポーツによる人材育成やマーケティングと日本国内でアカデミー業務を行なうことに興味を持つクラブとの戦略的パートナーシップだという。

 ラ・レアルが新時代に向かうなか、久保は過去、現在、未来を結びつける象徴なのだろう。

 この後、久保は日本に戻って13日にカナダ、17日にチュニジアとの代表戦を控える。その後はスペインに戻って、休む間もなく21日に古巣マジョルカ戦。24日にはCLでベンフィカとグループリーグ攻防を巡って負けられない敵地戦に挑む。