【待望される「ポスト松山英樹」】

 PGAツアーで唯一の日本開催となるZOZOチャンピオンシップ(10月19日~22日)が千葉県の習志野カントリークラブで開催され、コリン・モリカワ(26歳/アメリカ)が2位に6打差をつけて優勝。PGAツアー6勝目を挙げた。

 日本開催ということもあり、地の利を生かした日本勢も活躍。石川遼(32歳)が日本人最上位の4位タイに入った他、若手の久常涼(21歳)と平田憲聖(22歳)が6位タイという結果を残した。3人は11月2日からメキシコで開催されるPGAツアー、ワールドワイドテクノロジー選手権の出場権を獲得した。

「ポスト松山英樹」候補4人の可能性と課題 世界での活躍が期待...の画像はこちら >>
 優勝したモリカワは、2020年に全米プロ、2021年に全英オープンとメジャー2勝を挙げて、一気にトップ選手の仲間入りを果たした。しかしその後は、優勝争いに加わるものの、勝利には届かない試合が続き、気がつけば2年も優勝から遠ざかっていた。

 モリカワはその名前からわかるとおり、日系のアメリカ人。

モリカワ自身は日本でプレーするようになるまで、日本のことをあまり知らなかったようだが、「日本人の血を引く自分が、今大会で日本のみなさんとつながり、こうして優勝できたことが本当にうれしい」と、自身のルーツがある国での復活優勝に笑顔を見せた。

 日本人最上位に入った石川は、同年代の松山英樹(31歳)に大きく水を開けられてしまったが、PGAツアー復帰を諦めていない。出場権を獲得した次戦で優勝し、PGAツアーのシード権を手にすることに狙いを定めていることだろう。

 そんな石川や松山に限らず、今大会では成長著しい日本人若手選手のプレーにも注目が集まった。その期待に応えて、平田と久常が6位に入ったことは、日本ゴルフ界にとっては大きな成果だった。

 ここ数年、PGAツアーでの日本人選手の活躍と言えば、松山ただひとり。

現在も世界ランキングのトップ50に入っている選手は、36位の松山だけだ。

 それに続くのが、90位の久常。100位以内はたったふたりという現状で、松山の次の世代が育っているとは言い難い。

 それでもここ最近になって、将来有望な若手の台頭が見られるようになってきた。そのなかに「ポスト松山」として期待できる選手がいるのか、チェックしてみたい。

【ZOZOチャンピオンシップで台頭したふたり】

 ZOZOチャンピオンシップで6位タイに入った平田は、大阪府出身の22歳。

2021年、大学3年の時に学生日本一となり、その年の12月、プロに転向した。そして今シーズン、ミズノオープンでツアー初優勝を飾って、日本プロで国内メジャーも初制覇した。

 身長170cm、体重70kg。プロゴルファーとしては小柄で細身なため、平均288ヤードと飛距離が出るタイプではないが、スイングの完成度は高く、方向性と再現性に優れたスイングをしている。

 とはいえ、PGAツアーで戦うには、やはり飛距離が必要になるだろう。

 PGAツアーにおいて、平均300ヤードを記録している選手は104人いるため(10月25日時点。

以下同)、300ヤードをきると"飛ばない選手"の部類に入る。288ヤードだと、174位。最も飛ばない選手たちの部類に入ることになる。

 飛距離が出なくても活躍する選手はいるが、コース全長が7500ヤード以上のセッティングの試合では厳しくなるだろう。現在のスイングのまま、飛距離を伸ばせるかどうかが、今後の課題になる。

 平田と同じような体形で、飛距離も同等の選手に、世界ランク92位のザック・ブレア(33歳/アメリカ)がいる。

彼のようにショートゲームを磨き、短いコースで開催される試合に照準を合わせるのも、ひとつの手だ。

 同じくZOZOチャンピオンシップで6位タイに入った久常は、2017年の日本ジュニア(12歳~14歳の部)で優勝。2021年、10代でプロ入りして下部ツアーで勝利を重ね、レギュラーツアーへの昇格を果たした。今年はDPワールドツアー(欧州ツアー)に参加し、9月のカズーオープンdeフランスで初優勝を飾った。

 ZOZOチャンピオンシップで久常の練習を観察してみると、練習の最初にドライバーを持ち、ステップしながら打ったり、ヘッドを走らせることを意識して打ったりと、独自の調整法を持っていた。

 そういった練習方法やインタビューの受け答えから推測すると、自分で考えながらスイング構築ができるタイプの選手と言える。

そのようなクレバーさがあるからこそ、若くして海外で活躍できるのだろう。

 スイングも下半身を適切に使えており、力強さとコントロール性を兼ねた実戦向きのスイングだ。今後も海外の環境に適応し、自分自身で道を切り拓くことができるに違いない。

【ナショナルチームでも活躍してきたふたり】

 ZOZOチャンピオンシップでは残念ながら下位に沈んだが、大会前にはその活躍が期待されていた中島啓太(23歳)と蟬川泰果(22歳)も、ここで触れないわけにはいかないだろう。

 中島は、2020年にアマチュア世界ランキング1位の座に就き、2021年のパナソニックオープンではアマチュアの身で優勝。華麗な実績を引っ提げて、2022年9月にプロ転向を宣言した。

 そして今年6月、ASO飯塚チャレドでプロ初勝利を飾ると、8月の横浜ミナト チャンピオンシップで2勝目を挙げた。

 エリート街道を進んできた中島は、インタビューの受け答えからして、スマートな選手という印象がある。スイングに関しても、理論的に丁寧に作り込まれている人工的な匂いがした。"きれいなスイング"を目指して細部までチェックし、練習ドリルで体に動きを覚え込ませるスイングを構築してきたのではないだろうか。

 ただ、ZOZOチャンピオンシップは51位タイに終わり、PGAツアーでの活躍を目指す選手としては大きな課題が残った。

 PGAツアーの選手のなかには、きれいなスイングには見えないものの、理にかなった個性的なスイングの選手が多く存在する。中島がPGAツアーで勝つためには、彼らの"強いスイング"と、自らのスイングにどのような違いがあるのかを分析し、スイングをもう2ランクほどレベルアップする必要がある。

 中島には、プレースタイルや頭脳の面から、体格がほぼ同等のモリカワのようなプレーヤーになれる資質がある。そんなふうに自らのキャリアを高めるためには、スイング構築をする以前に、どのようなキャリアプランを立てるか。そのためにどのようなチームを組むか、といった戦略性が求められる。

 現在、最も注目を浴びている若手と言えば、蟬川だ。2022年10月の日本オープンで95年ぶりのアマ優勝を果たすなど、アマチュア時代にツアー2勝を挙げた逸材である。

 2022年10月にプロ転向を果たすと、今年4月の関西オープンでプロ初優勝。ZOZOチャンピオンシップでは73位タイと最下位に近い結果だったが、身体的なポテンシャルで言えば、若手No.1ではないか。

 スイングは下半身を積極的に使っており、パワフルで高い球が打てることが強みだ。飛距離も平均310ヤードと申し分ない。スイングの再現性のレベルを高める必要はあるが、野性味あふれるスイングは魅力的なので失わないほうがいいだろう。

 自らの感性を生かしてスイングを作ってきたタイプのように見えるので、自分の感覚を理解して導いてくれるコーチと出会うことができれば、さらに飛躍することができるはずだ。

 振り返ってみれば、プロ入り前後の松山や石川は、コーチを付けずに自分自身で試行錯誤してきた。しかし、現在は日本ナショナルチームのヘッドコーチをオーストラリア出身のガレス・ジョーンズが務め、若いうちから質の高い指導を受けることができる環境になっている。

 世界で活躍するための基礎固めが重要になる20代前半において、ロジカルな指導を受けた経験は大きな財産になる。優秀なコーチに教わることで、自己成長が早まると実感した経験があれば、より優秀なコーチを探すというメンタリティーにもつながる。世界で活躍するというビジョンがあれば、コーチの選択肢は自ずと世界基準となるだろう。

 無論、いい指導者を見つけることだけが正解でもない。実際に自分に合わないコーチをつけてスイング改造をし、キャリアを台無しにしてしまう選手も数多くいる。スイング改造にはリターンもあるが、リスクもある。体にメスを入れると思って、執刀医は慎重に吟味して、最善の手術方法を選択する必要がある。

 プロゴルファーが自らをレベルアップさせる方法に正解はない。ひたすら球を打ったり、自分で試行錯誤する方法が合っている人もいれば、他人にスイングの話をするだけで頭が整理される人もいる。

 いずれにせよ、これから世界に羽ばたいていく20代前半の選手に求められるのは、それぞれのビジョンとプロセスを大事にして自らの道を進んでいくこと。それが実現できれば、「ポスト松山」の地位も見えてくるかもしれない。