サイバーファイト代表取締役社長

高木三四郎インタビュー 後編

(前編:「新幹線プロレス」の次は、渋谷のスクランブル交差点!?  実現までの裏側「動画や画像でのプレゼンから始めた」>>)

 本サイトで連載している『今こそ女子プロレス』で東京女子プロレスの選手にインタビューをすると、必ずといっていいほどサイバーファイト高木三四郎社長の名前が出てくる。赤井沙希(DDT)、伊藤麻希、辰巳リカ、上福ゆき......数多くの人気選手を輩出してきた高木は、いかにしてスターの原石を見つけてきたのか。

女子プロレスの魅力、今後のプロレス界の流れ、DDT両国国技館大会の見どころなどを語ってもらった。

高木三四郎が「ちょっと品がないな」と思っていた女子プロレス ...の画像はこちら >>

【ロッシー小川から学んだ、女子プロレスでスターを作る要素】

――2013年12月、東京女子プロレスを旗揚げされました。DDTという男子プロレス団体の社長でありながら、女子プロレス団体を旗揚げしようと思ったきっかけは?

「女子プロレスには一切興味がなかったんです。ネオ・レディースという、井上京子さんがいる団体でDDTが提供試合をやらせてもらっていたくらいで、女子プロレスとは関わりもなかったし、当時はそんなにハマる要素がなかった。観に行ったこともほとんどなかったし、異次元の世界だと思っていました」

――意外ですね! アイドルもお好きだし、もともと女子プロレスが好きだったのかと思いました。

「今、赤井(沙希)さんが所属しているプラチナムプロダクションという事務所の社長さんやマネージャーさんと仲がよくて。その人たちは、六本木の『ヴェルファーレ』というクラブの支配人やスタッフだったんです。

僕、学生の頃にイベントをやっていて、そういうところと仲がよかったので、『今度、うちの事務所から愛川ゆず季っていうグラビアの子がプロレスデビューするんだ。高木くんが面倒見てよ』と頼まれたのがきっかけですね」

――愛川ゆず季さんはスターダムでしたよね?

「そうなんです。だから『(代表取締役の)ロッシー小川さんに任せればいいんじゃないですか?』って言ったんですけど、『面倒見てくれる人はひとりでも多いほうがいいじゃない』と。でも、それで僕が勝手にやっちゃうと小川さんに申し訳ないから、ちゃんと小川さんを紹介してもらって、愛川さんと会ったんです」

――愛川さんはどんな人でしたか?

「愛川さんのプロレスデビュー記者会見がすごく面白かったんですよ。それまでの女子プロレスって、『なんだてめえ、この野郎!』みたいな、男の世界をそのままやっている感じで、ちょっと品がないなと思っていたんです。愛川さんもそんな感じなのかなと思っていたら、いきなり『私の得意技はゆずポンキックです』と言い出して(笑)。

『この人の感性は面白い。この人だったら新しいものを作れるんじゃないか』と思ったんですよね。

 実際、面白かったんです。もちろん髪の毛を掴まれたりとか、思い切り顔面張られたりとかしてヘロヘロになってたんですけど、すごい頑張っていて感動したんです。他の選手も、世Ⅳ虎(現・世志琥)ちゃんとか岩谷麻優さんとか、みんなすごく頑張ってて、女子プロレスって実は熱いものがあるんだなと思いました。

『品がないな』と思ってた部分も、それはそれで、感情が男子よりも剥き出しになるところがある。

それで、ちょっとやってみたくなっちゃったんです。ネオ・レディースを運営していた甲田哲也さんに声を掛けて、東京女子プロレスを作ることになりました」

――ロッシー小川さんと接点があったのは本当に意外です。

「小川さんから学んだことは多いです。小川さんに『高木さん、女子プロレスでスターを作るには、どんな要素が必要だと思いますか?』と言われて、わからなかったんですよ。男子は力だったり、柔道やレスリングとか、ベースの格闘技キャリアがすごい大事なので、『格闘技のキャリアですか?』と言ったら、『違います。ルックスと若さです』と......。

――ええええっ!

「もちろんそれだけじゃなくて、格闘センスや身体能力などいろんな要素が含まれるとはおっしゃっていたんですけど。小川さんに言われたことにヒントを得て、若い子を中心に探しました。知り合いの紹介で、当時17歳の山下実優と会って。さまざまなアイドルグループのオーディションを受けていたけど、『興味があるので女子プロレスをやってみたい』といってうちに来た子だったんですよ。だから、山下ありきではありましたね」

【乃木坂46に見た東京女子の目指すところ】

――高木社長はスカウトも積極的にやられているイメージです。

「坂崎(ユカ)さんと辰巳(リカ)さんは自分から来たんですけど、僕経由だったんですよね。『じゃあ、俺がスカウトすればいいんだ』と思うようになって、最初は伊藤麻希さんをスカウトしました」

――DDT所属ですが、赤井沙希さんもスカウトですよね。

赤井さんが毎月DDTを観戦しているという噂を聞いたとか。

「そうそう。噂を聞いて、赤井さんのブログを見たら、確かに『DDTを観に行った』って書いてあって。赤井さんは英和さんの娘さんっていうところと、背が大きかったのが一番の武器。この子は絶対にスーパースターになれるだろうなと思いました」

――高木社長は、女子プロレスのスターを作るにはなにが必要だと思われますか?

「もちろん運動神経とか運動能力も大事なんですけど、伊藤麻希さんなんかまったくなかったですからね。ただ、彼女にはカリスマ性がある。

ルックスと若さに加えてもうひとつ必要だとしたら、カリスマ性ですかね。"アイドル性"と言ってもいいかもしれません。もちろん団体内でバランスは必要だと思うんですけど、東京女子は今、すごくいい子が揃っています」

――高木社長から見た、東京女子プロレスの魅力とは?

「いっぱいあるんですけど、一番は距離感がすごく近いこと。東京女子って旗揚げの時からそんなに大きい会場でやってないですし、物販は必ず選手全員が出るとか、推したくなるものを持っている。これが実は、すごく大事です。距離感があったほうがブランディング的にはいいのかもしれないですけど、推したくなる何かを持っているのはすごく大きい。東京女子の選手は、全員にそれがあるんですよ。試合を観ていても感情移入しやすくなると思います」

――距離感はものすごく近いですよね。選手のみなさんが、ファンの顔と名前を覚えていたりして、すごいなと思います。

「昔の女子プロレスは髪の毛を引っ張り合うような感じだったんですけど、東京女子はそういうのがないんですよ。だからすごく安心して観られるし、爽やかなんですよね。アスリートの人たちが頑張ってひとつのものを作り上げている感じがしていて、それが『感情移入しやすい』というところと合わさって、すごくのめり込むものを作れていると思います」

――ユニットがないのも大きいような気がします。ユニット抗争とか、すごく面白いんですけど、観ていてだんだん心が疲弊してくるというか......。

「ユニット同士の争いとか、髪切りマッチとか、喜怒哀楽が出るという点ではひとつの魅力だと思うんですけど、そういうものじゃない闘いもあるわけじゃないですか。お互いが切磋琢磨して、高め合うみたいな。そういうものを東京女子にはすごく感じる。最近いろいろ勉強していて、行き着いた先が乃木坂46なんですよ」

――乃木坂46ですか!

「乃木坂46はメンバー同士で仲がいいんです。インスタグラム、TikTok、YouTubeなどでわちゃわちゃしているところを見てると、『平和だな』と思うんですよね。AKB48は総選挙があったりして、ちょっとギスギスしてたじゃないですか。みんな仲が悪いんだろうな、みたいな(笑)。それはそれで好きですよ。闘争本能でいくと、AKBを見て『これがプロレスだよ!』と言う人たちがいるのもわかる。でも、そうじゃないものも見たいよなあって思うんです。そこを東京女子はうまくついてると思います」

――東京女子のみなさんは、本当に仲がいいですよね。

「コロナ禍だったり、いろんなことに心が疲れている中、見てて楽しいのは乃木坂みたいな雰囲気なんですよね。歌に踊りに頑張ってるなあ、みたいな。東京女子も同じ。ちゃんとしたプロとしての技術を持っている中で、潰し合わないでお互いを高め合っている。そこですね」

――東京女子のイメージをファンの方がよく「多幸感」という言葉で表現していて、本当にその言葉がぴったりだなと思います。

「そうですね。やっぱりね、一定周期で入れ替わるんですよ。格闘技が流行ると、BreakingDownとか、ギスギスしたものが好まれるんですけど、疲れてくるんです。そうすると爽やかなものというか、『お互いに高め合っていいもの見せようよ』みたいなもののほうが、すごく好みになってきたりする」

――私は今、まさに高木社長とまったく同じ理由で、東京女子とDDTにハマっています。疲れ果てて行き着いた、みたいな。

「アハハハ! DDTも平和だと思いますよ。ただ、平和だからって手を抜いているわけじゃない。11月12日、両国国技館大会のメインイベントで、クリス・ブルックスと上野勇希がやるんですけど、ひと昔前であれば、メジャー団体だったらあり得ない構図だと思うんです。クリスと上野は、めちゃくちゃ仲良いんですよ。クリスがKO-D無差別級王座のベルトを獲った時、上野はリング上で涙を流してますし」

――あれは泣けました......。

「そういうふたりが、DDTの年間最大のビッグマッチで闘う。これから、そういう時代になってくるんじゃないかと思うんです。必ずしも敵対している者同士の闘いで魅せる時代じゃなくなってくるんじゃないかと。もちろんそういうのも大事なんでしょうけど、そういうのにちょっと疲れてきてたり、純粋なものを見たいという人もいるはずなんです。クリスと上野は友だち同士だからこそできる、お互いが限界まで出しきる闘いが見られると思っています」

――平田一喜選手と、新日本プロレスの高橋ヒロム選手の試合も楽しみです。アイアンマンヘビーメタル級王座のベルトを巡って、すごく盛り上がっていますね。

「そのふたりも、どう考えても敵対してないですよね。お互い『大好き』と言い合っていたし。あの空気感ですよね。DDTはそこで勝負するしかないと思っています」

【引退の赤井沙希は「盛大に送り出してあげたい」】

――あと、両国国技館大会では赤井沙希選手の引退試合があります。私はすでに赤井沙希ロスに陥っていて、つらいです......。

「赤井さんは、本当にDDTを愛してくれた人ですよね。だから赤井さんのために本当に最高の大会にしたいんです。お客さんも入って、なおかつ最高のものにしたい。赤井さんを盛大に送り出してあげたいですね」

――赤井選手にインタビューした時に「DDTに"利用"してほしい」とおっしゃっていて、そこまで愛せるのって本当にすごいなと思いました。

「その思いに応えてあげたいというのが一番大きいですね。いくら好きだといっても、タレントとして、モデルとしてやってた人が、10年間もDDTでプロレスをやってきてくれたというのは、僕からするとものすごくありがたい。利用するとかそんなことを超越して、なんでここまでDDTに尽くしてくれるんですかっていう気持ちのほうが強いです。本当に感謝しかないですね」

――赤井選手が引退するのは、DDTにとって大きな痛手だろうなと。

「それは赤井さんだけじゃなくて、僕もそうだし、キャリアでいったらHARASHIMAさんとか坂口(征夫)さんとか男色ディーノとかだって、いつかは退くこともあるわけだし。上野とかMAOとか樋口(和貞)とか遠藤(哲哉)とか、そういう世代だっていつかはね。そうやって"大河ドラマ"として見せていくしかないんじゃないかと思います。

 だからこそ『ドラマチック・ドリーム・チーム(DDT)』という名前なんですよ。DDTという大河ドラマをこれからも見せ続けていかなくちゃいけない。そんな中で、赤井沙希の引退はひとつの大きなトピックでもあるので、盛大に送り出してあげたいです」

【プロフィール】
■高木三四郎(たかぎ・さんしろう)

1970年1月13日、大阪府豊中市生まれ。1997年にDDTプロレスリングの旗揚げに参加。2006年1月、DDTの社長に就任。2017年にサイバーエージェントグループに参画。2020年9月、サイバーファイトの代表取締役社長に就任。「大社長」の愛称で現役レスラーとしても活躍している。175cm、105kg。X(旧Twitter)@t346fire