攝津正インタビュー 前編

ソフトバンク投手陣と小久保新監督について

 小久保裕紀新監督のもと、4年ぶりのパ・リーグ優勝と日本一を目指すソフトバンク。春季キャンプでは、投打ともに熾烈なアピール合戦が続いている。

 現状の戦力について、ソフトバンクで5年連続開幕投手を務めるなどエースとして活躍し、2012年には沢村賞など数々のタイトルを獲得した攝津正氏はどう見ているのか。インタビュー前編では、キャンプを見て注目したピッチャー、小久保監督に期待することなどを聞いた。

ソフトバンクのドラ1投手は「欠点らしい欠点が見当たらない」 ...の画像はこちら >>

【ドラ1の前田は「すぐにでも活躍できそう」】

――まずルーキーについて、ドラフト1位で入団した左腕・前田悠伍投手はいかがでしたか?

攝津正(以下:攝津) 最初のブルペンでの投球は捕手を立たせたまま20球、2回目はひざ立ちの状態で25球を投げていました。それを見て思ったのは、「かなり完成度が高い」ということ。非常に投球フォームが安定していますし、欠点らしい欠点が見当たりません。いじるところもないかな、という印象です。

 線はまだ細いですが、これから体ができていけば、すぐにでも一軍で活躍できそうな雰囲気があります。

ブルペンでは変化球は投げず真っすぐのみだったので、今後は実戦でどういうピッチングができるか、実戦での真っすぐや変化球の質・精度がどれぐらいなのか、に注目ですね。

――ドラフト2位ルーキー右腕・岩井俊介投手、同4位ルーキー右腕・村田賢一投手はいかがですか?

攝津 岩井投手は"素材型"という感じです。真っすぐの質が高く、スライダーもけっこう鋭く曲がるのですが、まだまだ荒削りですね。タイプ的にはパワー系のピッチャーで、短いイニングで投げさせるとハマりそうかなと。

 一方の村田選手は完成度が高いですね。コントロールがよく、どの球種でもストライクが取れるピッチャーだと思います。

【先発陣で「柱になる投手」は?】

――先発ピッチャー陣はどう見ていますか? 昨シーズンは、ふた桁勝利をマークしたのが有原航平投手(10勝5敗)だけでした。

攝津 先発の顔ぶれはほとんど変わらなそうですが、(リバン・)モイネロ投手が先発に転向しましたね。まだ状態はよくわかりませんが、昨年に左肘の手術をしているため、「どのくらい投げられるのか」という不安はあります。いきなりローテーションでフル回転させるのは少し怖いので、登板回数や球数は徐々に増やしていったほうがいいのかなと。

――コンディション以外でモイネロ投手に不安はないですか?

攝津 先発は球種が多いほうがいいと思いますが、彼は真っすぐ以外にチェンジアップ、カーブ、スライダー、カットボールを持っています。どの球種もめちゃくちゃいいので心配ないですが、問題は、リリーフで投げていた時のような良質のボールが投げられるかどうか。

 先発は長いイニングを投げなければいけませんし、ランナーが出てからのピッチングなど、リリーフの時とは状況がかなり変わります。

クイックが苦手なタイプではないので、大丈夫だとは思いますけどね。

――キャンプで状態のよさが目についた先発ピッチャーは?

攝津 同じく先発に転向する2年目の大津亮介投手です。紅白戦や練習試合などで失点をしていますが、真っすぐの球威や変化球の精度などはよかったです。ルーキーイヤーだった昨シーズンは中継ぎで46試合に登板し、抑えたり打たれたり、いろいろな経験をしましたね。今シーズンはそれが生きるんじゃないかなと。もともとコントロールがよく、変化球はどれも精度が高い。

真っすぐも速くてバランスのいいピッチャーなので、ある程度は勝つんじゃないかと見ています。

 東浜巨投手もよかったです。紅白戦では2回無失点と結果を出しましたが、真っすぐの走りがいいですし、シンカーなども効いていました。昨シーズンは有原投手や和田毅毅投手に続く柱がいなかったので、実績と経験のある東浜選手が復調してくれれば心強いです。

【現役時代に共にプレーした、小久保新監督の印象は?】

――小久保監督に招聘され、3年ぶりに復帰した倉野信次投手コーチ(チーフ)兼 ヘッドコーディネーター(投手)が先発ピッチャー陣をどう立て直すのか注目ですね。ちなみに攝津さんは、現役時代に小久保監督と共にプレーされていますが、どんな印象をお持ちですか?

攝津 多くの選手から慕われていましたし、人格者だと思います。

それと、トレーニングのスケジュール管理など、すべてをきちっと決める細やかさを感じました。自分に対しての厳しさを持っている方だと思うので、下準備などを念入りにしていたのかな、という印象です。

"兄貴分"で選手たちとよく食事に行っていました。自分も誘っていただいたことがありますし、ピッチャー陣や野手陣のくくりも関係なく、みんなと積極的にコミュニケーションを取っていましたね。今回のキャンプを見ていて感じたのは、現役時代よりも選手との距離が近いということ。年齢差がある選手たちもやりやすそうにしていました。

――小久保監督は侍ジャパンの監督を務めた後、ソフトバンク一軍ヘッドコーチ、二軍監督を経て、満を持しての一軍監督就任ですね。

攝津 侍ジャパンを率いてプレミア12(2015年)やWBC(2017年)を戦った経験はとても大きかったと思いますし、昨年までソフトバンクの二軍監督をされていたので、若手選手たちのこともしっかり把握しているはずです。一軍監督は初めてですが、最初からどっしりと腰を据えた野球を見せてくれるんじゃないかと期待しています。

 あと、キャンプでは割とブルペンにいる時間が長くて、ピッチャーをよく見ていました。個人的に、監督はあまりピッチャーを見ない印象があるのですが、そこも把握しようという意図が伝わってきました。基本的にはそれぞれの担当コーチに任せていますし、足りない部分を少し自分がアドバイスする、という感じに見えましたね。

――小久保監督は就任会見の際、王貞治監督時代に築かれた "王イズム"の継承と浸透を掲げていました。若手・ベテランに関わらず、主力選手が常にチームの先頭に立って引っ張り、手本を示すということですね。

攝津 そうですね。小久保監督自身も現役時代はそういう存在でしたし、柳田悠岐選手や中村晃選手、今宮健太選手、近藤健介選手らにそういう役割を求めているはずです。

それと、「ファンを第一に考えること」なども含まれているんじゃないかと。キャンプではサイン会を多く行なっていましたし、ファンサービスに注力していました。ここ数年は悔しいシーズンが続いていますから、ファンを喜ばせるような結果を期待しています。

(後編:打線は「1番に捕手を据えるのもアリ」1番固定の問題、育成トリオ、右の大砲候補について語った>>)

【プロフィール】
攝津正(せっつ・ただし)

1982年6月1日、秋田県秋田市出身。秋田経法大付高(現ノースアジア大明桜高)3年時に春のセンバツに出場。卒業後、社会人のJR東日本東北では7度(補強選手含む)の都市対抗野球大会に出場した。2008年にソフトバンクからドラフト5位指名を受け入団。抜群の制球力を武器に先発・中継ぎとして活躍し、沢村賞をはじめ、多数のタイトルを受賞した。2018年に現役引退後、解説者や子どもたちへ野球教室をするなどして活動。通算282試合に登板し、79勝49敗1セーブ73ホールド、防御率2.98。