まさに、電光石火の一撃だった。

 キックオフからわずか2分、右サイドでボールを拾った堂安律(フライブルク)からのマイナスクロスに反応したのは、17番を背負った田中碧(デュッセルドルフ)だった。

相手の対応よりもいち早く右足を振り抜き、北朝鮮のゴールを鮮やかに射抜いた。

田中碧の「驚異的な得点率」に注目 アジアの戦いにおいて「相手...の画像はこちら >>
 時計の針を少し戻せば、左サイドで起点となったのも田中だった。サイドの深い位置にまで入り込み、上田綺世(フェイエノールト)のヒールパスを受けると、ファーサイドの堂安に展開。堂安の折り返しは南野拓実(モナコ)がうまくヒットできなかったものの、そのこぼれ球に堂安が反応し、得点シーンへとつながったのだ。

「綺世がディフェンスを2枚引きつけてくれて、その前に目が合ったので、そこで待っていれば来るかなと思っていました。律がファーにいるのは見えていましたし、欲を言えば律が直接決めてくれたらよかったかなとは思いますけど、マイナスのスペースが空いていたのでそこに入って行って、律がいいボールをくれたので、あとは決めるだけでした」

 日本はその後もボールを支配し、多くのチャンスを作ったが追加点を奪えなかった。

後半に入ると前への圧力を強めた北朝鮮の攻勢を浴び、苦しい戦いを余儀なくされた。それでも最後は5バックに変更して、虎の子の1点を守り抜く。結果的に田中のゴールが決勝点となり、日本は3連勝で3次予選進出に王手をかけた。

 スペイン撃破の立役者となるなど、2022年のカタールワールドカップで主役となった田中だったが、継続された第2次森保体制では、絶対的な立場を確立できているわけではない。

 10試合が行なわれた2023年は6試合に出場し、スタメン出場は3試合のみ。9月のドイツ戦ではワールドカップのリベンジを狙うドイツを返り討ちにするゴールを決め、10月のカナダ戦でも2得点と結果を出したとはいえ、ポジション確保には至っていない状況だ。

【田中碧の存在価値を再び証明する大きなゴール】

 今年元日のタイ戦では、スタメン起用され、先制点も奪っている。ところがアジアカップのメンバーからは、まさかの落選。田中の不在がベスト8敗退の原因に結びつけるのはいささか短絡的だとはいえ、この得点力の高いMFの不在を嘆く声があったのも事実だろう。

 その意味でこの北朝鮮戦での決勝点は、田中の存在価値を再び証明する大きなゴールとなったに違いない。さらに、この日の田中は目に見える結果だけではなく、球際の強さや素早いカバーリングによるカウンター阻止でも奮闘し、攻守両面で躍動した。

 もっとも田中は、自身のパフォーマンスに納得しているわけではない。数々の得点シーンに代表されるように2.5列目からのゴール前への飛び出しや、ハーフスペースでボールを引き出す優れたポジショニングが田中の真骨頂である。

 この日の日本はアジアカップの反省を踏まえ、ボールをつなぐことがテーマとなっていた。しかし前半は、ボールは回れどもなかなか崩しきれず、後半は相手に合わせて長いボールを蹴ってしまう場面が散見された。

 その構造的な問題を解消できなかった点を、田中は悔やんでいた。

「個人的には、今日はインサイドの位置でプレーできたかって言われると、そうではなかった。ビルドアップも安定していたわけじゃないし、長い縦パスも相手に狙われて、けっこうカットされていた。

 自分が高い位置を取りすぎると、そこへパスを出すのが躊躇されるのかなっていう意味では、少し下がってプレーする機会が多かった。

いわゆる、ハーフスペースで裏を取ったりするプレーは、そんなになかった」

 本来であれば高い位置でボールに関与するはずだったが、とりわけ後半は前から来る相手に対して、ボールをうまくつなげなかったのはチームとしての課題だろう。

「後半に関しても、まだまだつなげる部分もあるなってのはすごく感じるし、蹴らなくていい場面で蹴ったりだとか、距離感が遠くなってつなげなくなったりとか。やっぱり1歩、2歩動くところだったり、声を出してパスコースを見つけてもらうことだったり、そういうことはまだまだできるのかなと思うので、そこはもっとやらなきゃいけないところかなと思います」

【煮えきらない戦いが続く日本代表で高まる存在感】

 現在の日本のボランチには、ワールドクラスとなりつつある遠藤航(リバプール)を筆頭に、守田英正(スポルティング)、旗手怜央(セルティック)と川崎フロンターレ時代の同僚に加え、佐野海舟鹿島アントラーズ)、川村拓夢(サンフレッチェ広島)といった若手の台頭もある。

 それぞれの特徴が異なるなかで、田中の売りとなるのはやはり、その攻撃性能の高さだろう。この日のゴールで、代表通算26試合・8得点。中盤の選手としては驚異的な得点率である。

「個人的なことで言えば、自分の力で点が取れれば、もっといい選手になれるのかなと思う。それはミドルだったり、自分で打開して取ったりだとか。もちろんそういう選手じゃないんですけど、そういう形で取れれば、よりいい選手になれるのかなと思います」

 2024年に入って煮えきらない戦いが続く日本代表にとって、求められるのはやはり得点力である。ハイプレスからのショートカウンターが通じないアジアの戦いにおいては、いかに相手を崩しきるかが何よりのテーマとなる。

 2次予選の残り3試合、そして9月から始まる3次予選に向けて、気の利いた位置取りと高い技術を駆使してギャップを生み出せる、田中の存在感は高まっていくはずだ。