メジャー昇格を目指し2Aで奮闘中の23歳・西田陸浮 2023...の画像はこちら >>

メジャーリーグでは大谷翔平をはじめ、日本人選手の活躍が日々続いているが、その大舞台を目指してマイナーリーグで奮闘する日本人選手がいる。2年前にシカゴ・ホワイトソックスからドラフト指名を受けた西田陸浮(りくう)だ。

2001年生まれの右投げ・左打ちの23歳。アメリカでのプロ生活は都合3年目、フルシーズンでは2年目を迎えている西田は、今年のオープン戦で自身の"メジャー初安打"をマーク。開幕は傘下のバーミンガム・バロンズ(2A)で2年目を迎えるが、西田はどのようにして今現在の場所に辿り着いたのか。

前編:ホワイトソックス2A・西田陸浮インタビュー

【オープン戦でMLB初安打・初打点で勝利に貢献】

 まもなく2025年MLBシーズンが開幕しようとしていた3月21日、アリゾナ州グッドイヤーで行なわれたオープン戦の対シンシナティ・レッズ。シカゴ・ホワイトソックスの西田陸浮は7回裏の守備から出場。8回に二死満塁で回ってきた打席では外角低めのスイーパーを打ちショートフライに倒れたが、一挙に6得点して8-5と逆転勝ちした9回の打撃では二死一、二塁から低めのスライダーを右前タイムリーで1打点をマーク。7−5と2点のリードをもたらした。

 2023年のMLBドラフトで、シカゴ・ホワイトソックスから11巡目(全体329位)で指名を受けた西田にとって、2度目のスプリングトレーニングキャンプ。昨季もこの時期、メジャーリーグのオープン戦に出場したが、今年は少し前進した手応えをつかんでいる。

「基本的には7回から守備に行くので、1回ぐらいしか打てない。でも今回初めて2回打ちました。1打席目は、最悪です。相手のピッチャーがすごくよかった。

びっくりしました。でも、気持ち的にはだんだん地に足がついてきているなという感じはありますね」

 実は、「去年も1、2回しか(打席に)立っていないし、今年もこれが6打席目ぐらいじゃないすかね」と話す西田だが、レッズ戦でのヒットがトレーニングキャンプ中に出場したメジャーの試合での初安打。チームの勝利をあと押しする一撃にもなったことで「めちゃくちゃうれしいです」と声を弾ませた。
 
 プロとして初めてのフルシーズンを迎えた昨季、西田は1A(Low-A)からシーズンをスタートし、7 月末にはひとつ上のHigh-Aに昇格。さらに9月には2Aに上がり、所属するバーミンガム・バロンズのリーグ優勝に貢献した。3チーム合計では127試合に出場し、打率.304、出塁率.418、49盗塁を記録した。

「上出来でした。2Aまで上がっているのはドラフト1位(巡)などの選手。そのなかで僕がひとりいたのは、それなりに結果を残せた証拠だと思います」と西田。「オフ日がDHだったので、週6で試合に出ていました。すごくしんどかったけど、ここを頑張らないといけないと思いました。全試合に出るというのは僕のなかで決めていたことでした。

 僕の場合、体も小さいですし、全試合出る体力、ずっと継続できる力というのを見せなければなりませんでした。それができたのでよかったです」

 主に二塁手、左翼手と内外野でプレーできる身長168㎝の23歳は、満足感を漂わせながら1年目の昨季をこう振り返る。

【自身の情報をSNSに投稿しメジャー校へ】

 2020年夏、アメリア北西部・オレゴン州にあるマウントフッドコミュニティーカレッジ(短大)野球部の練習場に立った西田は、呆然とした。

「練習場所がコンクリートでした。草もぼうぼうに生えていて、雨が多い地域なのに室内練習場もありませんでした。ケイジのネットもだらんと垂れ下がっていて、壊れていました」

 宮城県の名門・東北高校で1年生からレギュラーだった西田は、日本の大学には進学せず、まずはアメリカの短大で2年野球をプレーし、それで無理ならば、その後は経営者になると心に決めて渡米した。

 ところが、出鼻をくじかれた。「だから、ずっとボールをイメージして、ひとりで毎日1000回素振りをしていました」。

 西田の素振りは、最初の500回はトレーニング、あとの300回は形を整え、最後の200回は「逆ぶりをしたり」の応用。「イメージもするので見逃しもあります。たまにボールが来るので手が止まったりもする」。それを大晦日も正月もずっとやり続けた。東北高校時代から自主練として行なっていた習慣だったため、苦にはならなかった。

 そんな日々のなか、自らの連絡先をつけたSNSアカウントに打撃動画と守備動画、成績も載せて投稿すると、全米大学体育協会(NCAA)1部(以降D1)の約15校からオファーを得た。そのなかのひとつが、西田が進学先に決めたオレゴン大だった。アメリカの大学で有数のハイメジャーカンファレンス"Pacific -12(Pac-12)"に属する(現在は同じハイメジャーのビッグテン・カンファレンス所属)名門校だが、「緑かなと思って(笑)」と大学のカラーが気に入ったことを挙げた。

 短大の2年間では91試合に出場して打率.383、54打点、100得点、91盗塁をマーク。結局1年の在学となったオレゴン大では63試合に出場して打率.312、37打点。25盗塁は58年間破られることのなかった同大の1シーズンにおける最多盗塁記録となった。ポストシーズンでは、同大のカンファレンス・トーナメント優勝に貢献し、全米で64チームだけが戦える"リージョナル"に出場。強敵バンダービルト大がホストとなったナッシュビル・リージョナルでは打率5割を記録して、オレゴン大が11年ぶりに16強の戦い "スーパーリージョナル"に進出する立役者となり、同リージョナルのMVPに選ばれた。

 あと1勝というところで "カレッジワールドシリーズ"進出を逃し、「来年もう一回大学でやろうかなと思った」というほど悔いが残っていたようだが、プロ入りの意思を変えることはなく、現在に至っている。

【尊敬の域を超える人物のバットに大感激】

 3つのレベルでプレーしたプロでのフルシーズン1年目、どの階層でも先発、打順1番の座を守り続けた西田だが、リーグが上がるごとに「(レベルが)全然違う。必死でした」と振り返る。

「打ち方はめちゃくちゃ変えました。

ノーステップになったし、2Aになってからは自分のスタイルというものにもっとフォーカスしてやっていました。自分の役割って言うんすかね。Low-AとかHigh-Aでは、長打を狙いにいったり、わりと大振りしても、チームのなかで一番いいバッターという意識がありました。例えばランナー3塁でも、無理やり打ちにいったりとかもしていました。

 でも2Aになってからは、うしろにすごくいい打者がたくさんいるため、そんなに無理しなくてもいいので徹底できたというのはあります。その結果、(2Aで)打率3割台(.333)にいけたと思います」

 成功の要因は、「指標」にもあると言う。守備範囲やストライクとボールの見極めなどの打撃、心構えなど「選手のパフォーマンスすべて」の細かな指標がメジャーリーグでは重視されているため、それらを意識して高めることで、総合的な向上につながった。

 今年のキャンプでは、うれしいこともあった。

 西田にとって、「尊敬よりも、もっとすごい。僕がコメントするのもおこがましいぐらいの人」であるマリナーズのイチローさんと球場で言葉を交わし、その後コーチの粋な計らいでサイン入りバットをもらったのだ。オープン戦のマリナーズ戦でイチローさんが西田のほうに歩み寄ってくれた時は、「言葉が出てこなかった。言えたのは『西田陸浮です』だけだったと思います。

『頑張ってね』と言ってくれました」と興奮ぎみに振り返る。

 朝晩欠かさない素振りでは、そのバットを使っており、使い終えるとそのバットのためにオーダーしたケースに入れて大切に保管しているという。

 そんなトレーニングキャンプも終わり、シーズンも開幕。オープン戦の期間は、マイナーの試合では3Aのメンバーとして出場しており、「わりと打っているほうだと思います」と話したが、「メジャーリーガーの人たちが3Aに降りてくるので、2Aスタートとして準備しています」と西田。

 本人の言葉どおり、今シーズンは昨季上り詰めた2Aからのスタートとなった。

「終わってから与えられたものに気づかないように。1打席1打席、1試合1試合、そういう気持ちでやりたいです。だいたい120試合ぐらい出るというのはわかっているので、120回集中するだけ。頑張るだけです」

 実質2年目の今季はどのようなシーズンを見せてくれるのか。楽しみに見守りたい。

 つづく

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