【大学駅伝】箱根駅伝2区でのリベンジ誓う大東大・棟方一楽が高...の画像はこちら >>

箱根駅伝のシード権再奪取を狙う大東文化大学が順調な今シーズン前半を過ごしている。なかでもエース格として期待される棟方一楽(3年)は、高温多湿の過酷な条件下のレースで実業団の外国籍選手相手を上回る走りでその存在をアピール。

前回の箱根では2区を任されながら、区間下位に沈んだ悔しさを胸に、着実に成長を遂げ続けている。

【高温多湿の悪コンディションをプラスに捉えた理由】

 今年7月20日に開催された関東学生網走夏季記録挑戦競技会は、北海道とは思えないほどの蒸し暑さに見舞われ、記録を狙うには過酷なコンディションだった。

 だが、こんな悪条件さえも、ポジティブに捉えていた選手がひとりいた。大東文化大学の棟方一楽(かずら)だ。

「湿度がすごく高くてかなりタフなレースだったんですけど、高校時代に真名子(圭)監督が見に来てくださった時に、同じような条件下で『ここでいい走りをしないと、大学に行けない』と思いながら走ったのを思い出しました」

 棟方の脳裏に浮かんだのは、弘前実業高(青森)3年時の9月に行なわれた、あおもり秋季ディスタンス記録会だった。全国大会での実績がない棟方にとって、関東の大学に進むためにはこの記録会で絶対に外すわけにはいかなかったが、9月も半ばを過ぎていたにもかかわらず、蒸し暑さのなかレースは行なわれた。それでも、棟方は力走。14分45秒64の自己ベストをマークして組2着となり、真名子監督にしっかりとアピールしてみせた。

 蒸し暑さのなか、きっちり走りきった体験があったことで、棟方は「いい感じで走れた」と言う。

 10000mの最終5組に登場した棟方が、ターゲットタイムに掲げていたのは、学生トップランナーの目安となる27分台。

「ずっと前から27分台を狙おうと監督と相談していて、しっかり自分の体を合わせて来ました。最初からタイムを狙っていたので、外国人選手だろうと関係なく、先頭争いをすると決めていました」

【外国籍勢も抜き去り地力アップで自信に】

 だが、蒸し暑さに験(げん)を担いでいたとはいえ、日が暮れても19時の時点で気温26.8℃、湿度62%というコンディションは、記録を狙うには悪過ぎた。

 棟方は序盤からペースメーカーのマイケル・テモイ・キプランガット(GMOインターネットグループ)やソロモン・ムトゥク(創価大2年)のすぐ後ろでレースを進めたが、入りの1000mが2分51秒、2000mが5分41秒、3000mは8分34秒と、27分台を狙えるペースでは進まなかった。5000mの通過は14分16秒。

この時点で27分台は難しい状況といえた。

 中間点を過ぎて、少しペースが上がると、ひとり、またひとりと先頭集団からこぼれ落ちていった。こんなサバイバルレースに棟方は耐えた。そして、6000m過ぎには、ペースメーカーのキプランガットを含め、棟方とムトゥクの3人が先頭争いに残った。

 棟方の強さが光ったのは終盤の走りだ。

 残り600mでムトゥクを抜いて事実上のトップに躍り出ると、残り300mではペースメーカーのキプランガットをも抜き去り、最後は突き放して1着でフィニッシュした。

 ラスト1000mは約2分40秒、特にラスト1周(400m)は58~59秒でカバーした。

「以前は400mを1本でも60秒を切れなかったのに......。ああいうラストスパートが出てきたのは、"勝てる選手にならなきゃいけない"っていう自覚からだと思う」と、真名子監督をも驚かせた棟方の新たな一面だった。

 記録も、27分台はならなかったものの、昨年のこの大会でマークした自己記録(28分32秒36)を約13秒も更新し、28分19秒82の自己ベストを打ち立てた。

「あいにくのコンディションでタイムは出なかったですけど、組1着っていう目標は達成できた。自分的には90点ぐらいはあげたい」

 走り終えた直後でも、疲労の色を見せることなく、軽快な口調で棟方はこう話した。

「今日のレースを終えて、自分がやってきたことはやっぱり間違っていなかったという自信を持てた。今後もそれを継続していくだけ」と、自信を深めたレースになった。

「あんな平然と走るなら、もっと走れ! と思いますけど(笑)」とは真名子監督。

「顔色が変わらず、今日は走っていたので。逆に、今日(コンディションに)すごい恵まれて記録が出るよりも"涼しくなったら絶対出るよね"っていう、プラスアルファを残せて終われたのがよかったですね」

 この選手に、この師あり。レースに臨む選手がポジティブなら、指揮官も前向きにその結果を受け止めていた。

「本当は出したかったですけど、(27分台は)絶対にいけると思います。タフさ、強さがついてきたのが、今日のレースで実感できたのでよかったです」

 真名子監督は、棟方の走りを高く評価していた。

【箱根駅伝2区の悔しさが原動力に】

 今年3年生の棟方は、大東大に入学し、めきめきと力をつけた選手だ。高校時代は5000mで15分を切るのがやっとだったが、大学1年目に14分15秒10まで伸ばすと、10000mでは28分台をマーク。箱根駅伝は出場こそ叶わなかったものの、16人のエントリーメンバーに名前を連ねた。

 大学2年になると、さらなる飛躍を遂げる。

昨年11月の上尾シティハーフマラソンで三浦龍司(現SUBARU)が持っていたU 20日本最高記録を塗り替えて、1時間01分38秒の新記録をマーク。一躍注目される存在となった。そして、箱根駅伝ではエース区間の2区を任された。

 しかし、その晴れ舞台で思わぬ悔しさを味わう。他校のエース格に太刀打ちできず、区間17位に終わった。チームも勢いに乗れず、総合19位に終わった。

 その悔しさを胸に刻み、今シーズンを送っている。

「箱根で味わった悔しさはとてつもなく大きくて、それが大きな自分の原動力、反骨心を生んで、今、頑張れているのかなと思います」

 箱根駅伝に出場するには、まずは予選会を突破しなければならないが、今季は全日本大学駅伝関東地区選考会も2位で通過しており、前半戦から大東大は好調だ。

 この網走記録会では、棟方のほかに入濵輝大(4年)、中澤真大(2年)もきっちり28分台でまとめた。大濱逞真(2年)が3日前に風邪をひいて欠場したものの、今季はこの4人が強力な4本柱を形成している。

 エース争いも熾烈を極めそうなものだが、棟方は箱根2区の座を誰にも渡すつもりはない。

「今年のチームスローガンが『あの場所でやり返す』というものなので、エース区間でリベンジできるように、日々鍛錬していきたいと思います」と箱根路での雪辱を期している。

「大物感はあるんですけど、まだ"大物感"なんで、大物にはなってない。もっと爆発的に成長するのはこの先だと思います」

 真名子監督は、棟方をこう評する。その言葉どおりなら、ひと夏を越えてさらに大化けした姿を見せてくれそうだ。

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