夏の甲子園2025ベストナイン(後編)

現地取材記者5人が選ぶ大会ベストナイン前編>>

 甲子園の舞台では、華やかなスター選手だけでなく、一瞬の輝きや人間味あふれるプレーで観客を魅了する選手がいる。今大会でも、投打にわたって心を揺さぶられた選手が数多く出現した。

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田尻賢誉氏(ライター)

投手/末吉良丞(沖縄尚学)
捕手/山下航輝(西日本短大付)
一塁手/田中諒(日大三)
二塁手/奥村凌大(横浜)
三塁手/川口琥太郎(明豊)
遊撃手/堤歩力我(中越)
外野手/白鳥翔哉真(東洋大姫路)
外野手/阿部葉太(横浜)
外野手/横山温大(県岐阜商)

 投手は沖縄尚学の末吉良丞。アウトローへ糸を引くようなストレートにはうならされた。センバツではコントロールがばらついているイメージがあったが、短期間でこんなに変わるとは驚き。まだ2年生。故障せず順調に成長するのを願うばかりだ。

 捕手は西日本短大付の山下航輝。弘前学院聖愛戦では右中間への本塁打、バントのファウルフライをダイビングキャッチと攻守でインパクトを残した。

 一塁手は関東一との準々決勝で低反発バットになって初めてレフトスタンド中段までかっ飛ばした日大三の田中諒。180センチ、92キロの体で「自分はバッティングでしか貢献できない」と言うが、豊橋中央戦でも決勝本塁打。DH制が採用される来年からは彼のようなタイプの選手が多く出てくるかもしれない。

 二塁手は横浜の奥村凌大。この夏は打撃の調子が今ひとつだったが、好守を連発。

津田学園戦では7回裏1死一、二塁で二遊間のゴロをダイビングして止めて得点を許さず、織田翔希の完封をアシスト。県岐阜商戦では同点で迎えた9回裏2死満塁のピンチで一、二塁間のゴロを捕球すると、飛び出していて一塁ベースには戻れそうにないファースト・小野舜友の動きを見て、瞬時に二塁送球に変更。サヨナラ負けの危機を脱した。土壇場での冷静な判断は見事というほかない。

 三塁手はこれという選手がいないため、背番号15でショートを守っていた明豊の川口琥太郎を選出。強打の明豊打線にあって1年生ながら中軸を任されるバッティングセンスはホンモノ。今後ライバルになるであろう横浜の1年生・川上慧を一歩リードした。

 遊撃手は関東一を相手に初打席で二塁打を放つなど3安打を放った中越の堤歩力我。ポカもあるが好守も光る。個人的にはまったくのノーマークだっただけに、一生忘れない名前(歩力我=ありが。「ありがとう」が由来)とともに余計に印象に残った。

 東洋大姫路の白鳥翔哉真(ひやま)。

お父さんが桧山進次郎(元阪神)の大ファンということで名づけられ、打席では桧山の応援テーマが使用されたが、3回戦までの6安打はすべてタイムリーの7打点と代打の神様譲りの勝負強さを見せた。

 横浜の阿部葉太は、説明不要のこの世代ナンバーワン野手。あとひとりで敗退の危機から打った神奈川大会準々決勝・平塚学園戦の彼のサヨナラヒットがなければ、"5人内野シフト"に代表される今夏の甲子園での横浜戦のドラマは見られなかった。

 県岐阜商の横山温大は生まれつき左手の指がないというハンディキャップがありながら、それを感じさせない力強いスイングは驚きのひとこと。守備でも横浜戦の初回のファインプレーや捕球後すぐにグラブを持ち換える"アボット・スイッチ"で見せ場をつくった。メディアに毎回同じような質問をされながら、嫌な顔をせず「同じようなハンディがある人に勇気を与えたい」と繰り返し答えていたのも立派。また、「7番・ライト・横山くん」とアナウンスされるたびに温かい拍手を送った甲子園のスタンドの雰囲気もすばらしかった。

【夏の甲子園2025】現地取材記者5人が選ぶ大会ベストナイン後編 世代ナンバーワン野手から奇跡を起こしたあの選手まで
木製バットを使用し、豪快なスイングを披露した花巻東の2年生スラッガー・赤間史弥 photo by Matsuhashi Ryuki
菊地高弘氏(ライター)

投手/石山愛輝(中越)
捕手/猪股琉冴(京都国際)
一塁手/菰田陽生(山梨学院)
二塁手/奥一真(尽誠学園)
三塁手/田西称(小松大谷)
遊撃手/今野琉成(仙台育英)
外野手/赤間史弥(花巻東)
外野手/木本琉惺(東洋大姫路)
外野手/松永海斗(日大三)

 今大会で実際に記事を書かせてもらった選手から選出した。9人とも、プレーや言葉に心を動かされた選手である。

 投手の石山愛輝(中越)は、「どうやって投げればいいのかわからない」という絶望的な時期を乗り越え、甲子園で生まれ変わった姿を見せてくれた。ほぼぶっつけ本番で夏を迎えながら、最速148キロとレベルアップしたのは奇跡と言っていい。

 捕手の猪股琉冴(京都国際)は「ネットでは『健大が勝つ』と言われていたので、勝ててよかった」と語ったように、健大高崎戦でのリードが冴え渡った。

 一塁の菰田陽生(山梨学院)は「8割くらいの力感で投げた」と投手としての進境を感じさせつつ、打者としても新たな可能性を感じさせたことから、あえて一塁手で選出した。

 二塁の奥一真(尽誠学園)はベンチに疑似スタートを見せつけ、「いける」と猛アピールし、京都国際戦で3盗塁をマーク。盗塁のバリエーションの豊富さに舌を巻いた。

 三塁の田西称(小松大谷)は不発のまま甲子園を去ったものの、今年の高校生でもっとも打球の飛距離に驚かされた選手。「本物になってから勝負したい」と大学に進む心意気も、あっぱれだった。

 遊撃の今野琉成(仙台育英)は背番号15ながら、シートノックでもっともうならされた選手。今大会は安打を記録したものの、悔しい敗戦を経験した。「日本一激しいチーム内競争」の仙台育英で揉まれ、また甲子園に戻ってきてほしい。

 赤間史弥(花巻東)は2年生ながら木製バットを振りこなし、同期の古城大翔とともに存在感を発揮。「スイングを強くして、パワーアップしたところを見せたい」という言葉どおりの頼もしい姿だった。

 木本琉惺(東洋大姫路)は、春のセンバツではアルプススタンドで応援していた「ベンチ外の星」。「誰にも相手にされないようなどん底から這い上がってきた」という下剋上物語は見事だった。

 松永海斗(日大三)は、「ほかの人よりは高い」というランダウンプレーでの生存術を披露してくれた。その高度な走塁術は、一流校の選手がどんな思考でプレーしているのか、勉強になった。

 今年もさまざまな人生模様を感じながら、取材をさせていただいた。取材に協力してくださったみなさま、記事を読んでくださったみなさまに感謝したい。ありがとうございました。

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