10月5日に行なわれるGI凱旋門賞(パリロンシャン・芝2400m)に向けて、主要な前哨戦がおおむね終了した。

 そのなかで、今年の日本の"総大将"とも言える、今年のGI日本ダービー(6月1日/東京・芝2400m)を制したクロワデュノール(牡3歳)が、パリロンシャン競馬場で行なわれたGIIIプランスドランジュ賞(9月14日/芝2000m)を勝利。

日本競馬の悲願達成へ弾みをつけた。

【凱旋門賞】前哨戦を辛くも勝利したクロワデュノール 本番へ向...の画像はこちら >>
 ただ会心の勝利だったかというと、決してそうではなかった。クロワデュノールはダービーからの休み明けのうえ、本番を見据えての一戦とあって仕上げ途上の状態。加えて、レース直前の追い切りでも予定していた併せ馬ができず、英メディアからは「期待はずれ」と評されるほどだった。

 実際、レース内容は今ひとつ。直線半ばで抜け出したところは横綱相撲とも言える走りを見せたが、追い出されてからは外に、内に、とヨレる場面が見られた。結果、追い込んできた2番人気のダリズ(フランス/牡3歳)を、何とか半アタマ差しのいでの1着入線だった。

 そのため、鞍上の北村友一騎手も手放しに勝利を喜ぶことはなかった。

「(海外のレースにおける)返し馬の雰囲気、ゲート裏の雰囲気、ゲートの中......いろいろと課題が多い。(レースでは)4コーナーを迎える前にリラックスできなかった分、息の入り方も短く、そこから徐々にギアを上げていく、というところがうまくできなかったなと。最後の直線でも、体(の出来)にゆとりがあったため、騎手の促しに応えようという気持ちに体がついていけない感じでした」

 日本からレースを見守っていた多くのファンにしても、2着の相手がフランスでは無敗、前走の英国GIインターナショナルS(6着。8月20日/ヨーク・芝2050m)で初めて土がついたダリズであっても、もう少し余裕のある勝ち方を期待していたはずだ。

 とはいえ、ここでは手放しに勝利を喜ぶよりも、明確に課題が見つかったことのほうが、本番に向けてはプラスと考えていいのではないだろうか。前哨戦における会心の勝利は、最大目標に向けた陣営の意識を、上積みよりも、現状維持へと向かわせがち。時に無意識な慢心も生みかねないからだ。

 それに、凱旋門賞までのプロセスは、管理する斉藤崇史調教師がかつてクロノジェネシスで挑んだ際(2021年)に経験している。前哨戦にあえて2000mのGIII戦を選んだのも、そうした経験によるものだろう。今回出た課題も、本番への糧となるに違いない。

 また、凱旋門賞のたびに日本調教馬の前に立ちはだかってきた、日本の馬場との違い、とりわけ渋った馬場において、クロワデュノールが今回のレースで適応できたことは一番の収穫だ。

 この日のパリロンシャン競馬場の馬場状態は、馬場の指数を示すペネトレメーターが3.9。フランスの馬場を日本の馬場状態に置き換えたJRAの基準では、重馬場に相当するもので、重馬場のなかでも3段階で2番目のものだった。

 近年の凱旋門賞に照らし合わせれば、タイトルホルダーら日本から4頭が出走した2022年に近い数値。同レースでは、タイトルホルダーの11着を最高に、ステイフーリッシュ(14着)、ディープボンド(18着)、ドウデュース(19着)と、日本調教馬4頭は惨敗を喫した。

 のちのGIジャパンカップ(東京・芝2400m)で2着となったシンエンペラーが、12着に敗れた昨年の凱旋門賞における数値も、同指数は3.8。

まさしく日本調教馬にとっては苦手とされる馬場状態であり、プランスドランジュ賞にいたっても勝ち時計が2分11秒69という、およそ日本では考えられないような環境でのレースだった。

 そうしたレベルの馬場に、クロワデュノールは対応してみせた。北村騎手が言う。

「クロワデュノールだからそう思えたのかもしれないけど、馬場やコースについては、今日のところは問題なかったです。レースでは(馬場の内から)2.5~3頭分外を選んで走りましたし、(凱旋門賞でも)また同じ状況を選べるなら(進路は馬場の)外を選びますが、内を回らせられることになっても大丈夫だと思います」

 そして何より、前哨戦と割りきっての余裕を持った状態で、きっちり勝ちきれたことは大きい。たとえ仕上がり途上だとしても、ここでまごついているようでは、本番でより厳しい戦いになることは目に見えているからだ。

 今年の凱旋門賞には、クロワデュノールの他に、アロヒアリイ(牡3歳)、ビザンチンドリーム(牡4歳)、シンエンペラー(牡4歳)と、4頭の日本調教馬が出走予定。すでに、それぞれが現地で1戦を消化。アロヒアリイとビザンチンドリームは、現地での低評価を覆して快勝し、ともに下馬評を上げている。

 3週間後に控えた大一番。毎年、日本調教馬への期待は膨らむばかりだが、今年はその期待に応えてくれるようなシーンが見られるかもしれない。

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